【ニューヨーク=稲井創一、フランクフルト=加藤貴行】仏重電大手アルストムのエネルギー部門を巡る日米独の企業を巻き込んだ争奪戦は米ゼネラル・エレクトリック(GE)に軍配が上がった。GEは規模拡大に加え、インターネットを駆使した補修サービスなどを展開、顧客の囲い込みを強めようとしている。質的にも変化するGEにどう対抗するか。重電業界で「再編ドミノ」が起こるのは必至だ。
「世界的に強い分野をつくることになる」。2日前の取締役会で全会一致でGEを提携先に選んだアルストムは23日、パトリック・クロン最高経営責任者(CEO)が会見し、提携の成功に自信を見せた。同社はGEと送電網、蒸気タービンを含めた原子力事業などで3つの合弁企業をつくる。一方、GEはガスタービン事業を買収する。
当初、GEはアルストムのエネルギー部門の完全買収を提案していた。しかし、地元の雇用やエネルギー関連技術の流出を懸念する仏政府の意向を踏まえ、買収から提携に計画を大きく修正した。仏政府がアルストムに最大20%出資することになったものの「巨大化するGEの脅威が減るわけではない」(日本の重電大手幹部)と各社とも警戒感をあらわにする。
アルストムの経営への影響力を大幅に引き下げてまでGEがこだわったのは、ジェフ・イメルト会長兼CEOが掲げる変革の成否がかかっているためだ。
「インダストリアル・インターネット」。イメルト会長が目指すのは、発電設備や航空機エンジンなどにセンサーやソフトを組み込み、稼働時のデータを収集・分析して、最適な稼働法を提供したり、部品交換を促したりするなどして収益性の高いサービスに結びつける新たな製造業の姿だ。
アルストムの持つ欧州やアフリカ、中近東に広がる市場を確保すれば、こうしたサービス網が全世界規模で広がる。GEの当初案では、アルストムの顧客層を手に入れるだけで140億ドル(約1兆4000億円)相当のサービス分野への貢献を見込んでいたほどだ。
2008年のリーマン・ショック後、イメルト会長は金融事業の縮小や放送・映画大手NBCユニバーサルの売却など業績変動の激しい事業から、安定して稼げる製造業分野へシフトしてきた。一時、金融事業は利益の約半分を占めていたが、13年には約34%に低下している。CEO就任から約13年。「ライバルはIBM」と語るように、単なる機器の製造・販売から脱却してサービス関連の収益を伸ばすビジネスモデル確立のためにもアルストムの販売網は必要だった。
一方、争奪戦に敗れた独シーメンス。04年にも経営危機に陥ったアルストムの部門買収に乗り出したが、仏政府の横やりで断念した苦い経験がある。当時、40代半ばの若手取締役として交渉を見守ったのが現在の社長、ジョー・ケーザー氏だ。
5月に発表した中期ビジョンでは、大がかりな組織再編を打ち出し、「天然ガス回帰が起きている米国市場を攻める」と宣言。シェールガス・オイルの掘削に使うポンプに加え、アルストムのガスタービン事業も加えれば、ガス関連事業を拡大し、成果をアピールできるはずだった。
ケーザー社長は「複数分野でM&A(合併・買収)に興味がある」と明言する。今回の買収交渉で「さらに親交を深めた」とされる三菱重工業などと、GE―アルストムの米仏連合への対抗軸を形成するか。23日に57歳を迎えたケーザー社長の次の一手が業界地図を変える可能性を秘める。
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