技術職の人間に無料で仕事をしてもらうことの是非について、度々話題にあがる。最近話題になったのは、「天王寺区広報デザイナー無償の募集」だろう。
この手への反論は、「お店で商品をタダでくれとは言わないだろ。イラストレーターにタダで絵を描けと言うのは、それと同じだ」。つまり、無償でお願いすると言うのは失礼だという意見だ。
全く持ってその通り。正論である。だからこそ、つまらない。
私はコンサル業をしている。どちらかというと、技術よりも知恵を売る商にあたる。実は、技術職の「タダで依頼される」話よりもえげつない話がしょっちゅう来る。
たとえばメールで、「今度、お茶しませんか? 私のビジネスモデルなどの相談がしたいのです」。文脈上、お茶だけで知恵を授けてもらおうとする魂胆が見え見えである。私が「有償ですよ」と伝えると、「じゃいいです」と断わってくる。知り合いから相談されるならまだ理解できる。なぜ、会ったこともない見ず知らずの人(しかも男)から、さも当たり前のようにこんな要望を言われなければならないのだ。
ほかにもある。
メールで「あなたが提供しているノウハウを教えてほしい」と言われ、「教材売っているのでそちらを買ってください」と返せば、「いやいや、教材にはない情報も知りたいのですよ」と恥ずかしげもなく言ってくる。「まずは、教材買ってからその台詞を吐いてください」と返して連絡を絶った。
失礼な奴だとは思う。
だが人は、物よりサービスを軽視し、サービスよりコンテンツを軽視する生き物なのだ。私はそう結論付けている。そのため、冒頭で話した正論をいくら唱えても、人が持つ性にはあがらえない。
では、どうすればいいのか。
形のない商売は、売り方を工夫して自らを守らなくてはならない。それが技術や知恵を売る者の務めなのだ。
先にゴッズを払いな
プレイステーションゲームに「アーク・ザ・ラッドⅡ」というゲームソフトがある。私が中学生のときよく遊んだソフトだ。ゲームの中でいまだに記憶に残る印象深いシーンがある。それは、主人公があるハンターに聞きたいことがあり質問するシーンだ。
ハンターはこう言った。「その情報が知りたければ、○○ゴッズ払いな」と。主人公たちは「えっ、お金取るのかよ」と反応するが、結局、渋々お金を払うことになる。私はこのシーンを見て「うまい!」と思った。
ハンターは情報を提供するのだが、あるところで話すのを止めてしまう。当然、主人公たちは「その続きは?」と訊ねる。するとハンターはこう言う。「続きを知りたければ、あと○○ゴッズ払いな」と。それを見た私はまたしても「うまい!」と思い通り膝を打った。※記憶で書いているので、台詞などは正確ではありません。
情報というのは、先に提示したらお金がもらいづらくなる代物だ。それを理解して売り方を工夫する。私はこのゲームから得た教訓を覚えており、起業時からすべてのサービスは前金制にしている。
タダでサービスを依頼してくる輩がいる。
これは、どの時代もどこの国も抱える問題だろう。先ほども言ったように人は、「物>サービス>知恵」のランク付けが自然となされているのだ。現に、この世で一番高い物は、家、車、宝石などの物質だ。そして、この世で最もFree化したのは、コンテンツである。
わかるだろうか。
技術や知恵を売るのであれば、売る者が売り方を工夫するしかないのだ。いくら批判してもこの現実は変わりようがない。
きつい言い方をすれば、タダで仕事を依頼してくる人もおかしいが、形ある商品と形のないサービス・知恵が同じ売り方で売れると思っているほうもおかしいのである。
もし無料で仕事依頼されたら
とはいえ、タダ、または安く仕事を請け負うこともあるだろう。そんなとき、どうするのか。答えは2つある。
その答えを言う前に、私が知る某有名カメラマンの話をしたい。
私は10年前にとあるプロカメラマンと話す機会があり、業界の話をいくつか教えてもらった。その中で、某有名カメラマンの商い根性の話題が出た。
その某有名カメラマンは、撮影料に見合った写真を撮影する。つまり、1万円なら1万のクオリティ、5万円なら5万円のクオリティ、10万円なら10万円のクオリティだそうだ。価格に応じて、実力をコントロールできるのがプロというわけだ。
もしあなたが無料で仕事を依頼されたら、それ相応の手抜きのクオリティを差し出せばいい。そんなことをすれば嫌われるって? 無料で頼んでくる人に嫌われて一体何の実害があるのだろうか。
今の話を聞いて、そんなのは解せないとお思いなら、次の考え方を提供しよう。無料だろうが安価だろうが120%の実力で高クオリティのものを提供すればいい。半端な作品を世に出すぐらいなら作らない。これがプロのクリエイターの考え方だ。
「お金をもらったらプロ」と言う方がいるが、それは間違いだ。私の詩論を述べれば、「仕事を請け負った時点でプロ」である。タダだろうが安かろうが高かろうが関係なく、プロとしての仕事をする。それが、プロのクリエイターなのだ。
私は答えが二つあると言った。
それは、プロの商いの道を選ぶか、それともプロのクリエイターの道を選ぶかだ。
どちらを選ぶかは、あなた次第である。
筆者:深井貴明のFacebook
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