時論公論 「河野談話の検討結果 ~慰安婦問題は?~」2014年06月21日 (土) 午前0:00~

出石 直  解説委員

こんばんは。ニュース解説、時論公論です。
慰安婦問題への旧日本軍の関与などを認めたいわゆる河野談話について、その作成過程の検討結果が、(20日)公表されました。
なぜ今、河野談話の検討が行われたのか、その結果は、慰安婦問題や今後の日韓関係にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
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【河野談話】
河野談話は、1993年(平成5年)の8月に当時の河野洋平官房長官によって発表されました。当時、慰安婦問題が日韓の間の外交問題になっていたことから、日本側が行った調査に基づいてまとめられたものです。
その内容です。
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「慰安所は、当時の軍当局の要請により設置された」
「慰安所の設置、管理、慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した」
「当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた」
談話では、さらに
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「多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」として、「心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる」としています。
この河野談話をめぐっては、「旧日本軍の関与と強制性を日本政府として認め、謝罪と反省を示したもの」と評価する声がある一方、「客観的な事実に基づいておらず、慰安婦問題について誤った認識を生んでいる」という批判もあります。
 
【検討結果】
河野談話が発表されてから21年。今になってその作成過程を検討することになったのは、ことし2月、衆議院予算委員会での石原信雄元官房副長官の証言がきっかけでした。
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石原氏は当時、宮沢内閣の官房副長官として河野談話の作成にあたっていた当事者です。

石原氏の証言で浮上した検証のポイントは2つです。
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ひとつは、談話の発表に先立ってソウルで行われた16人の元慰安婦に対する聞き取り調査の信ぴょう性。
もうひとつは、談話の作成にあたって日韓両政府によるいわゆる「すり合わせ」があったのかどうかという点です。
この2点を中心に、今回、外部の有識者によって行われた検討結果を見ていきます。

【聞き取り調査】
まず「聞き取り調査の信ぴょう性」です。
これについて石原氏は「事実関係を確認するための裏づけ調査は行われていない」と証言していました。
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今回の検討結果では、
「聞き取り調査は『日本側の誠意を示して欲しい』という韓国側の要請を受けて行われた」
「(調査は)事実究明よりも、それまでの経緯を踏まえた一過程として、日本政府の真相究明に関する真摯な姿勢を示すという位置づけだった」としたうえで、「証言内容の裏づけ調査や他の証言との比較は行われなかった」と結論づけています。
ただその一方で「聞き取り調査が行われる前から、結果はほぼまとまっており、すでに談話の原案が作成されていた」としています。
つまり、聞き取り調査は、いわば儀式=セレモニーに過ぎなかったというのです。

【すり合わせ】
次に第2点目日韓両政府による「すり合わせ」です。
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 検討結果では、「談話の作成過程で表現や文言について、日韓両政府の間で、綿密な議論や、やりとり、調整が行われた」と指摘しています。
一例として、次のようなやりとりが紹介されています。
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 慰安婦の募集について、韓国政府は「軍の指示を受けた業者」とする案を提示しました。
これに対して日本政府は、募集は軍ではなく、軍の意向を受けた業者が主として行っていたとして、「軍の要望を受けた業者」と提案、さらに韓国側は「軍の指図」という案を求めてきたものの日本側は受け入れず、最終的には「軍の要請を受けた業者」という表現に落ち着きました。
 
【強制性】
今回の検討では、当時、最大の焦点だった慰安婦の募集に際しての「強制性」についてのやりとりも明らかにされています。
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韓国側は、「一部に強制性があった」という限定的な表現に強い難色を示しました。
しかし日本側は、それまでの調査結果を踏まえて「いわゆる強制連行は確認できない」という認識で韓国側との調整に当たり、「歴史的事実を曲げた結論を出すことはできない」として、最終的には、「総じて本人たちの意思に反して」という表現で決着したとしています。

以上、見てきましたように、検討結果は、先の衆議院予算委員会での石原氏の証言をおおむね裏付けるものとなっています。
 

検討チームの座長を務めた但木敬一(ただき・けいいち)元検事総長は次のような見解を示しています。
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「日本側は、認められない事実については認めておらず、韓国政府も譲れない点は譲っていない」つまり、表現や文言についてのすり合わせはあったものの、事実関係については、あくまでも調査で明らかになった範囲を逸脱していない、事実関係は曲げていないというのです。

【反応】
検討結果の公表を受けて菅官房長官は「河野談話を見直さない、これを継承するという政府の立場は何ら変わらない」と述べています。河野談話の作成過程や内容について繰り返されてきた議論に一応の決着をつけた形です。
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しかし、今回の検討結果は、今後の日韓関係という点では心配な材料も提供しています。
これまで公開されていなかった次のようなことも明らかにされているからです。
当時、両国の間ですり合わせが行われていたことについて、「日本側はマスコミに一切出さないようにすべき」と述べ、韓国側もこれを了承していた。さらに韓国政府は、当時、「両国の間の法的な問題は決着済みであり、個人的な賠償や補償は求めないことを確認していた」というのです。
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韓国外務省はさっそく声明を出して反発しています。
「日本側の要請で、非公式に意見を提示しただけだ」としたうえで、「事実関係をごまかすことで河野談話の信頼性を傷つける結果を招く内容を含んでいる」と今回の検討結果を批判。「日本政府が、真の反省に基づき、責任を認め、一日も早く被害者が納得する解決策を提示することを促す」としています。
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 【まとめ】
河野談話の作成にあたっては決着を急ぎたいという当時の政治状況から、様々な外交的な配慮がなされていたことは否定できないでしょう。当時、すでに終戦から50年近くが経ち、証言者の記憶や集められる資料に限りがあったことを考えれば、事実認定にもおのずと限界があったでしょう。日韓両政府のすり合わせがあったことも、双方が納得いく形でこの問題を早く決着させたいという意志の表れと見ることもできます。当時の外交努力を多とすべきではないでしょうか。
元慰安婦の女性達はいずれも高齢になり、生存しているのは50人あまりになっています。
今更、「言った、言わない」を繰り返しても被害者は救われません。
今回の検討結果の公表をひとつのけじめとして、日韓両国は、一方に責任を押し付けるのではなく、両国関係を改善し、被害者が納得できる方策を一緒になって考えるべきではないでしょうか。 
 

(出石 直 解説委員)