沖縄はきのう、慰霊の日を迎えた。

 69年前の沖縄戦最後の激戦地、摩文仁(まぶに)の丘であった追悼式で、安倍晋三首相は米軍基地の負担軽減にふれ、「沖縄の方々の気持ちに寄り添いながら、できることはすべて行う」と約束した。

 「鉄の暴風」と表現される米軍の猛烈な艦砲射撃や空襲。日本兵に殺されたり、集団死に追い込まれたりした住民もいた。沖縄戦は住民を巻き込んだ地獄だった。犠牲者は日米合わせて20万人を超えた。

 慰霊の日は、「本土防衛の捨て石」となった沖縄の悲劇を後世に伝え、平和を誓う日だ。

 そんな苦痛の記憶を抱える沖縄県民の多くにとって、安倍政権の進める外交・安全保障政策は、「気持ちに寄り添う」どころか、不安をかき立てる。

 昨年暮れ、特定秘密保護法が成立。今年4月、武器輸出三原則を緩和し、輸出禁止政策を放棄した。そしていま、集団的自衛権行使容認に向け、憲法解釈変更の閣議決定を急ぐ。

 政府は、日本を取り巻く安全保障環境の変化を指摘する。尖閣諸島をめぐる中国との関係悪化など、不穏な空気が存在しているのは事実だろう。

 だが、現在でも国内の米軍基地の74%が集中する沖縄に、さらなる負担を押しつけていいのか。普天間飛行場の移設先を名護市辺野古にすれば、負担増にしかならない。

 一方、集団的自衛権の行使が認められれば、沖縄の自衛隊もさらに強化されるのではないかと心配する声が沖縄にはある。

 米軍に加えて自衛隊まで出撃基地となれば、沖縄の軍事的負担はさらに増す。他国から攻撃される危険性が高まり、沖縄をさらに国防の最前線へと押しやることになるのではないか。

 きのう、沖縄戦に動員された瑞泉(ずいせん)学徒看護隊の生存者、宮城巳知子(みやぎみちこ)さん(88)の証言を記録した映画「17才(さい)の別れ」が県平和祈念資料館で初上映された。

 軍医から重傷者を毒殺するよう命じられ、注射を打つふりをしてごまかしたことなど、当時の過酷な体験を全国から来る修学旅行生らに語り続けてきた。だが近年、体力の衰えで講演を断ることも増えたため、証言の映画化に協力した。

 その宮城さんは「本土の方は沖縄戦のことをご存じない。もっと知って戦争をなくすことに協力して」と訴える。

 沖縄に負担を強いて成り立つ今の平和は、20万の犠牲者に誇れる平和だろうか。国民全員がそう問いかけられている。