June 23, 2014
宇宙に関する最も壮大な理論の1つが崩壊するかもしれない。今年3月、“重力波”が宇宙の背景放射に刻んだ痕跡を検出したとのニュースが大々的に発表され、当初は“最大級の”発見と評された。
この重力波による渦巻き模様は、“Bモード偏光”と呼ばれるもので、宇宙のインフレーション理論の証拠とされる。ビッグバン発生直後、わずか1兆分の1兆分の1兆分の1秒の間に、宇宙が急激に膨張したというのがインフレーション理論だ。
しかし発表から数カ月の間に、この発見を疑問視する声が寄せられている。研究チームのデータの分析方法に問題があるのではないかというのだ。主に懸念の焦点となっているのは銀河のちりがもたらす偏光で、その影響をチームが適切に除外していない可能性が指摘されている。
そうした中、当のBICEP(Background Imaging of ・・・
この重力波による渦巻き模様は、“Bモード偏光”と呼ばれるもので、宇宙のインフレーション理論の証拠とされる。ビッグバン発生直後、わずか1兆分の1兆分の1兆分の1秒の間に、宇宙が急激に膨張したというのがインフレーション理論だ。
しかし発表から数カ月の間に、この発見を疑問視する声が寄せられている。研究チームのデータの分析方法に問題があるのではないかというのだ。主に懸念の焦点となっているのは銀河のちりがもたらす偏光で、その影響をチームが適切に除外していない可能性が指摘されている。
そうした中、当のBICEP(Background Imaging of Cosmic Extragalactic Polarization)2チームはこのほど、先の発見に関する論文を「Physical Review Letters」誌に発表した。この数カ月間、チームは観測結果に自信を示していたが、今回の論文では当初の主張をトーンダウンさせている。
「(われわれは)すべての余分な信号が、明るいちりの放射によって説明される可能性を実験的に排除できていない」と研究チームは述べており、それでも自分たちが観測したのは本物の重力波による信号であることを、データは示唆しているとの考えを示した。
◆宇宙の渦巻き
BICEP2チームが3月に発見を公表すると、たちまち未来のノーベル賞候補との声が上がり始めた。ところが、当時まだ正式な論文として発表されていなかった観測結果を他の研究者が精査し始めると、その評価は急速にしぼんだ。
まずインターネットのブログなどで、研究チームは銀河のちりによる前景放射の偏光の量を適切に推定したのかという疑問が出始めた。Bモード偏光は、銀河のちりによっても生じうるからだ。検出された渦巻きパターンの信号のうち、重力波によるものがどの程度含まれるかを判断するには、まず銀河のちりの影響が信号全体に占める割合を明らかにし、その上で、ちりの影響を全体から差し引かなければならない。
研究チームが一連の分析の1つに用いた”前景のちりの地図”は、欧州宇宙機関(ESA)の人工衛星プランクのチームのメンバーが「Powerpoint」で作成したプレゼンテーション資料をデジタル化したものだ。
「これは堅実な手法ではない」と、プリンストン大学の物理学者ライマン・ページ(Lyman Page)氏は、5月15日に同大学で開かれたセミナーで述べている。「他人の画像をデジタル化したもので科学研究は行えない」。
次いで、プリンストン大学およびニューヨーク大学の物理学者ラファエル・フローガー(Raphael Flauger)氏が、BICEP2チームのデータ分析の再現を試みた。フローガー氏は、BICEP2チームが肝心のプランクチームの地図を誤って解釈したと考えており、その観測結果は不確実な点が多すぎて、重力波からの信号を証明できるものではないと結論づけている。「それでもなお、宇宙のインフレーションによる信号が含まれていることを期待しているが、確認にはさらなるデータが必要だ」とフローガー氏は述べている。
◆結果待ち
重力波検出の詳細を正式に報告した今回の研究論文の中で、BICEP2チームは「この地図も、そのほかに提示されているちりのモデルも不確実性が大きい」として、プランクチームの地図を用いた問題の分析を除外している。それでもチームは当初からの主張を変えていないが、その姿勢はやや慎重になっているようだ。
「自信が薄れたかといわれれば、その通りだ」と、チームリーダーであるミネソタ大学のクレメント・プライク(Clement Pryke)氏は「New Scientist」誌の取材に対して述べている。
フローガー氏らは、BICEP2の分析結果の再現を試みたデータが、プランクやその他の研究チームから出るのを待つべきだと考えている。
「BICEP2が観測したものが、少なくとも一部は本当に初期のインフレーション期の信号なのか、それともわれわれの属する銀河のちりの偏光放射なのかが、近いうちにはっきりするだろう」とフローガー氏は述べている。
ILLUSTRATION BY BICEP2 COLLABORATION