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2014.06.17
B型肝炎、変わる常識
母子対策だけでは防げず
怖い再活性化
母から子への感染を徹底して予防すれば制圧可能と考えられていたB型肝炎をめぐる常識が変わってきた。大人が感染した場合も慢性肝炎になる恐れが明らかになったほか、「治った」と思われていた人たちが別の病気の治療をきっかけに、死亡率が高い劇症肝炎になる例があることも判明した。専門家は「ワクチンの接種方式をはじめ、B型肝炎対策を見直す必要がある。検討を急ぐべきだ」と指摘している。
▽増える欧米型
B型肝炎の原因はB型肝炎ウイルス(HBV)だ。主な感染経路は血液への接触、出産時の母子感染、性交渉。 この中で将来肝がんへと進む可能性がある慢性肝炎を減らすには、母子感染予防が最も有効とされてきた。「免疫が不完全な乳幼児期に感染すると慢性化しやすいと考えられる」(加藤直也・東京大医科学研究所 准教授)ためだ。
日本は感染した妊婦から生まれた赤ちゃんへのワクチン接種を1986年から全国で展開。その成果で20代以下の感染者は激減した。しかし、予想に反し制圧は遠い。従来と遺伝子タイプが異なるHBVによる急性肝炎が増加中なのだ。
HBVの遺伝子タイプはA~Jの10種あり、タイプにより病状などに差があることが最近の研究で分かってきた。日本に多いCとBは、大人が感染し倦怠感や黄疸など急性肝炎の症状が出ても、多くは自然に回復し慢性化しない特徴があった。
ところが、新たに増えてきたAタイプはもともと欧米に多く、急性肝炎の症状は軽いが「1~2割が慢性肝炎になるとの報告がある」(加藤さん)。厚生労働省研究班の全国調査によると、B型の急性肝炎に占めるAタイプの割合は90年代半ばから増え始め、2010年時点では過半数に。原因のほとんどは性交渉とされる。
「母子感染以外の人の肝がんをどう防ぐかを考えなければならなくなった」と加藤さんは言う。
▽消えないウイルス
もう一つの大きな問題が、HBVの「再活性化」と呼ばれる現象。血液中のHBV抗原や抗体を調べる従来の検査法で完治と考えられた人たちが、抗がん剤や免疫を抑える治療を受けた後、症状が急激に進む劇症肝炎になり、死亡例も出た。
再活性化に関する厚労省研究班代表の溝上雅史国立国際医療研究センター肝炎・免疫研究センター 長によると、悪性リンパ腫の標準治療で使われる薬「リツキシマブ」を投与された人の8%程度でHBVの再活性化が起き、劇症肝炎につながりやすいことが分かった。
治ったら「肝臓から消える」と考えられていたHBVだが、実はこっそり潜んでいて、特定の治療を引き金に再び増殖、それを免疫システムが攻撃して重症の肝炎になるのだという。予防にはHBVの頻繁な検査が欠かせない。溝上さんは「HBVの感染は一生続くという認識に切り替える必要がある」と話す。
▽ワクチン必要だが
こうした新たな問題を受け「現在のように対象を限定したワクチン接種では不十分」と、見直しを求める声が専門家の間で強くなってきた。
世界保健機関(WHO)は乳児全員へのワクチン接種を推奨しており、日本肝臓学会によれば世界180カ国以上が全員接種方式。厚労省の予防接種部会も12年、B型ワクチンを、接種を受けやすい「定期接種」に加えるべきだと提言した。
溝上さんは「全員接種が望ましいことは明らかだが、新生児だけでも年に100億円以上が必要になる。HBVの遺伝子タイプの変化がワクチンの予防効果に影響しないかなど、全員接種方式の費用対効果について総合的な検討を早急に進める必要がある」と話す。(共同通信 吉本明美)