東日本大震災から3年。
あの日からたくさんの歌が詠まれています。
「ハートネットTV」の呼びかけに全国から697首が寄せられました。
先月福島県いわき市で選ばれた35首の作者たちが集う歌会が開かれました。
短歌を選んだのは仙台にお住まいの…そして震災の記憶を語り継ぐ活動を続けている…生きるっていう思いを…もっと強く思っていかなきゃいけないなと思って。
もうお見事です皆さんすばらしい!感動した!
(拍手)31文字に込められた思いを語り合います。
後半はこの歌からまいります。
飯舘村の場所皆さんご存じだと思いますが福島第一原発から北西の方向にあります。
ちょうど当日風に乗って放射性物質が運ばれていった地域で一部帰還困難区域になっています。
大部分は居住制限区域に今もなっています。
鈴木さんどちらにいらっしゃいますか?こんにちは。
(鈴木)ありがとうございます。
ふるさとがなくなってしまうというのはこういう事なのかなというのを母の思いと私自身も幼い頃に飯舘村で遊んだという記憶がありますのでそこをなくしてしまった。
本当に行くと何もかも変わらずにあるんですね。
田舎も家もそのままですしお墓もそのままですしでもそこを出なければいけない。
本当に「仕方がないし」って何度も何度もつぶやいていくような母と同じ気持ちでおります。
作者の鈴木里美さんは宮城県名取高校の国語の先生。
授業で生徒たちに震災を短歌に詠むという課題を出していました。
短歌を作るのはほとんどの生徒にとって初めての経験。
それぞれが震災の記憶と向き合い31文字で思いをつづりました。
3年生の新沼茜さん。
宮城県南三陸町で行方不明の祖母を捜した時の事を詠みました。
(新沼)これはおばあちゃんちが南三陸にあってとてもいい所だったんですけど何もかもが流されてしまって何もなかった現実をなかなか中学生だった私は受け入れられなかったですね。
それで前まではもうちょっと海が遠いと建物があったので感じていたんですが元あった家から海が見えた事が衝撃的で忘れられないという思いを込めて書きました。
全くこのとおりなんですよ。
もう今まで家屋とか松林で海が見えなくなった所が一気に見えるようになったと。
この驚きと驚きを超えてむごさですね。
なんとむごい事が起きたんだろうという実感がこの「受け入れられぬ海の近さよ」。
ここにまとまったとそういうふうに思いますね。
確かに僕も気仙沼が津波で特に妹の住んでた辺りというのはやっぱり埋め立て地だったので本当に多くの家が無くなってしまってそしてたどりつこうと思ったんですけど全然分からないんですよ。
目をつむってでも酔っ払ってでも行けるはずの場所が町じゅうがどこに何があったか分からないぐらいになっちゃう。
これは恐ろしいなと思いましたね。
距離感も全然違うしあるべきものが目印が無くなってしまうとこんなに生まれ育った土地なのに分からなくなってしまうんだっていうのね。
恐ろしかったですねあの津波はね。
ありがとうございました。
では続いての作品です。
震災があってから3年たった日に黙祷したのですがサイレンを聞いた時に地震があった時の事を…。
電気がつかない部屋で家族で眠ったりとか無事を喜び合ったりとかその時のたくさんの思いがよみがえってその時の事を短歌にしました。
この「サイレン」なんですけど下の句の「三年前にも鳴り響いてた」というのは緊急の感じがするんですよね。
「鳴り響いてた」っていう表現で。
それで今「黙祷をすると聞こえたサイレンは」というのは現在の普通のサイレン。
もちろん静かな黙祷のサイレンなんですけどこの二重のサイレンのみに焦点を当てているところが短歌としてはよく出来ていると思いました。
ありがとうございました。
では続いての作品です。
放射能の情報をテレビや新聞など見て放射能が近づいてくる恐怖とあと放射能によって福島の町や村の人々が家に近寄れないという福島の人々の不安を思ってこの短歌を作りました。
この子ども時代から思春期を迎えている皆さんの多感な時期にこういう大きな経験をされてやっぱり見えないものへの不安というのも自分が成長していく段階で決して拭い去る事はできないと思うんですね。
でもこうやって言葉にしたり誰かに語りかける事で自分たちは一人ではないという事を若い人たちも連帯感を持ってこういう一つの時代を自分たちが今度は創っていくんだというそういう気持ちにきっと変えていってくれるのではないかなと期待を持ちました。
では続いての作品です。
いろんな気持ちもいろんな感情も交ざっているんですけど…。
震災を経験した一人として生きるっていう思いを…もっと強く思っていかなきゃいけないなと思って。
この短歌には2回続けて意味を込めてみたんですけどしっかりと生きて亡くなった方たちやもっと自分よりもつらい思いをした人たちにも…。
強く強く生きていきたいなと思って。
いろんな感情もあるけれどそれでもしっかり自分の胸の中にしまって強く生きていきたいなと思ってこの短歌を書きました。
生島さん高校生がこういう言葉を。
この「生きて生きるわ」というところに前向きな思いとエネルギーがこの言葉に秘められていてとてもすばらしいなというふうに思いましたね。
それと感じたんですが先ほどから高校生の方々お話ししてらっしゃるんですけど非常に大人と言おうか冷静に人生を見つめているし深いなと思って。
僕みたいに60年以上生きてても何か一人軽佻浮薄な感じがあるんですがだけどやはり歌を詠むという事は人間性に深みを与えるものかなと感じましたね。
もうお見事です皆さん!すばらしい!感動した!
(拍手)今回高校生が詠んだ短歌は8首選ばれました。
会場に来られなかった人たちの歌です。
言葉にするっていう事はやっぱり時間が1年2年かかるなと思いました。
ちょうど今日来ている高校生の皆さんは小学6年か中学1〜2年で体験している訳ですからね。
とてもすぐには言葉が出てこない。
やはり1年2年3年かかってやっとこういうふうに若い世代が言葉にできるんだなとそういうふうに思いました。
ありがとうございました。
「仮設住宅とは別の市営住宅を市当局が用意してくれました。
その仮住居にて詠みました」。
これはもうこのままストレートに分かりますよね。
こういう歌ね政治家に送ってやりたい。
読んでほしい。
「あての無き『みなし住居』に雪ふり続く」なんてね技法としてはもちろんうまい。
うまいんだけどもこういうふうな形として初めてそこに住んでいるあるいは移らざるをえなかった人の心が初めて分かってくる。
そういう歌ですね。
私は漁師ですから言葉なんか飾れませんとても。
んだもんでそのままずばり言うんですが震災住宅というんですか?造ってくれた。
国とか市とか。
それの外れ組になっちゃったんですよ。
今年のそれは外れ組だって分かったのが2月でしたね。
その時も大雪だったでしょ。
そんなもんで昔なら若い時なら酒飲んでわってやっちゃうとこなんですがそれもできない年だし。
それで考えてやっぱりこんな歌でも詠めたらいいんだけどなと思ってるうちに頭がす〜っとしてきてこのままの歌が詠めた訳です。
どうもありがとうございました。
歌を詠んです〜っとされたんですか?そうですね。
どんどん思いが内に内にいっちゃいますものね。
人間軽いんでしょうね。
歌が出来るとさ〜っとしちまうんですよ。
それでもう一つは私はトイレなんですよ。
トイレで座ってると何と言うんですかね。
肩の力がふわっと抜けていって。
(生島)トイレで浮かぶの?トイレが一番?
(染谷)トイレが一番です。
トイレが一番。
んなもんですから下の息子はおやじは大じぬしだもんねと言うんですよ。
(生島)ああ〜!あっちの方の痔主。
どうもありがとうございました。
お後がよろしいようで。
東日本大震災で大きな被害を受けた…染谷武さんは市内の集合住宅で独り暮らしをしています。
もともと住んでいた家には住めなくなり市が用意したこの部屋で暮らし始めて3年がたちました。
太平洋に面する港の近くで生まれ育った染谷さん。
69歳で漁師を引退するまで40年以上海と共に生きてきました。
私らには子どもの頃は昭和20年代の大津の浜というのは我々を育ててくれる海だったんですよ。
この部屋に住めるのは今のところあと1年。
同じ市内に住む息子夫婦が一緒に住まないかと言ってくれていますが迷惑をかけたくないと考えています。
そんなこんなでもやっぱり雪降った時には切なかったですよ。
3日ぐらい続いたでしょここは。
出入りできなかったんですよ。
そんなもんだってあの歌は出来たんです。
千葉県松戸市の千葉むつ子さん。
出身は岩手県陸前高田市。
震災で母と弟を亡くしました。
実家は陸前高田市でみそしょうゆの醸造業を170年にわたって営んできました。
蔵は町のシンボルともいわれていたそうです。
私と弟がここの家に来た時なんです。
50年前元男さんが千葉の学校に通う事になった時2人でこの家に暮らし始めました。
およそ10年弟の面倒を見ました。
その後元男さんは家業を継ぐため故郷に戻り千葉さんは結婚してこの家に残りました。
離れていても頻繁に連絡を取り合っていました。
あの日大津波がふるさとの町を襲いました。
何でこんな…もっと何て言うんですかね高い所に逃げればよかったのにって皆さんのお世話してたみたいで点呼とってたみたいですね。
大体顔見知りの人たちだから「誰々さんいますか?」あるいは「誰々さん足が悪いけど来てますか?」とか。
そういうのでこう点呼とってるうちに何て言うんですかこう白煙っていうか火事だと思ったくらいのまず白煙っていうか煙…家を壊していく訳だからその家のほこりなんでしょうね。
そのあとに黒い波で流されて…。
一生懸命まあ仕事をして生きてきたんだなってそれがここで終わってしまったのかと思うと悔しくてね…。
今でもふと気付くと亡くなった母と弟の事を考えている事があるといいます。
3年という日々これ皆さんそれぞれの思いで捉えているのだなと強く感じます。
では続いての作品です。
「生まれ育った土地を追われる人々の計り知れない無念さを思います。
私にとっても福島は生まれ育った故郷です。
何年たったらその人たちは戻れるのでしょう」。
毎日のように福島のニュースが流れます向こうでも。
そうすると昔でしたら福島っていえばうれしくて見たんですがここ3年はね悲しいニュースばかりですし片仮名で「フクシマ」って書かれているのがとってもつらいですね。
「福の島」って書くんですから本当はね。
とってもつらい気持ちで今日それでこの現場に来させて頂いてなお一層何か…はい。
竹下さんいかがですか。
(竹下)はい。
「ヒロシマ」とかあるいは「ミナマタ」とかそういう形で日本の昔からある名前が世界に知られるという事は今までもありました。
でもそこで終わらずに是非この福島がこんなふうになっていったんだよという事を後々語れるようにしなくてはいけないんだと思います。
言い方を変えたからといって決して現実は変わるものではないしこの福島っていう豊かなイメージをむしろこれから作っていかなくてはいけないその決意の歌のようにも読めるような気がしました。
それはもちろん福島の方だけではなくて今いる私たちみんなが心に留め置いて毎日を送らなくてはいけない事だと思いますね。
いやでも今の竹下さんの言葉を聞きながらですね前を向いて世界にこれだけ変わったんだという事を知らしめる。
その決意と強さも大切なんだなと思いました。
本当に遠くから今日はありがとうございました。
ありがとうございました。
「震災を詠む2014」続いてご紹介する短歌が最後の歌となります。
「震災に遭った時は母親と2人暮らしでした。
その母親も間もなく老人ホームに入所。
1人暮らしを始めて3年目の春を迎えましたが一日中誰とも会話のない日もあり孤独を感じます」。
うちはもろとも無くなったんですけど津波に潰されて。
現在はその土地から約10km離れた所に高台に一戸建てのみなし仮設っていうんですか?そういう…住んでましてですね辺りの方々は津波の被害に遭ってないから話をしても分からない。
声かけても分からない。
そういう時はですねまた元の流されたうちの近くに行ってですね誰かを探してですね何か話しかけてまたほっとして帰ってくると。
私何て言うんですか口下手で冗談も言えないんですけど震災後意を決してですね冗談もざれごとも言わなければこれからは生きていけないんだというそういう気持ちでおります。
以上です。
孤立してしまう人がなかなか増えてしまっている中で本当ちょっとでいいんですよね。
話すと何か心のストレスが少し取れたりとか悲しみを分かち合える仲間がいるといいですよね。
ざれごとっていうのは冗談とか取りとめもない事なんですけれども言葉を発して言葉を伝えて言葉を聞いてくれる人がいるっていう事がいかに私たち人間にとって大切かというのをこの歌で知りました。
そして一人一人の立場が少しずつ違ってきているのが3年たつと東京もそうですけれどもその立場で微妙な心理が歌われてきているように思って私はそれはこれからが短歌の本領を発するところだと思っています。
ありがとうございます。
皆さん思いをのせてそしてその思いを分かち合う歌会いかがだったでしょうか?またこれからも続けていければと思っております。
今日は長時間どうもありがとうございました。
(拍手)
(テーマ音楽)2014/06/19(木) 20:00〜20:30
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV「震災を詠む 2014」(後編)[字]
NHKでは、東日本大震災に関する歌を詠み合う歌会を、5月に福島県いわき市でひらきました。歌の作者と、竹下景子さん、生島ヒロシさんたちが、思いを語り合います。
詳細情報
番組内容
ハートネットTVでは、東日本大震災に関する歌を視聴者から募集。5月に、福島県いわき市で開かれた「公開復興サポート 明日へin いわき」にあわせて、「震災を詠む」と題する歌会を開きました。全国から寄せられた短歌はおよそ700首。歌人の佐藤通雅さん・佐伯裕子さん、俳優の竹下景子さん、そして宮城県出身のフリーアナウンサー・生島ヒロシさんとともに、歌にこめた思いを語り合いました。2回シリーズの第2回。
出演者
【ゲスト】竹下景子,生島ヒロシ,【講師】歌人…佐藤通雅,歌人…佐伯裕子,【司会】山田賢治,【朗読】河野多紀
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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