一文字書名本はやめよう 読者不在、著者の自己満足

2014-6-18 水曜日

「! 、5、A、G、H、J、K、R、S 、W、し、ん、愛、花、海、階、角、鬼、橋、錦、空、穴、刻、黒、魂、手、術、瞬、瞬、盾、書、女、傷、蝕、神、人、粋、雪、線、線、窓、蝶、蝶、辻、田、答、道、毒、白、箱、飯、母、妹、無、杢、夜、欲、乱、旅、凛、弩、瘤、絆、聲、蛻、蝮、噓、々」

さてこれ何だと思います? 実はこれらの一文字、全て書名です。これらの本のほとんどが2010年以降に刊行された本なので、遡ればもっと大量に出てくるはずです。

こうした一文字書名本、果たして検索するとどういう結果が出るでしょう?

例えば『愛』をAmazonで検索しても50,331件、詳細検索で書名に入力しても25,031件もヒットしてしまいます。「愛」という漢字を含む書名の本が全部出てきてしまうからです。

hontoで『愛』を検索してみたところ10,000件以上出てしまいました。これも「詳細検索」の「書名」の欄に「愛」と入力しても10,000件出てしまいます。

書店の検索機で入力しても、「検索対象が多すぎます。二文字以上入力して下さい」という表示が出てきてしまいます。図書館の検索でも同様の結果が表示されます。

おまけにこの『愛』という書名の本に関しては同名の本が十数冊存在し、お目当ての本をヒットさせるのは至難の業です。

こうなると『愛』という書名だけでなく、著者名や出版社名まで入力しなければいけなくなります。しかし一般読者がそこまで知恵を働かせて入力するでしょうか?
途中で諦めてしまう人も多いと思われます。

読者がオンライン書店で検索する時や、リアル書店の検索機で検索する時だけでも、一文字書名本はこれだけのデメリットがありますが、そのデメリットは読者だけでなく本の作り手の著者や出版社にまで及びます。なぜならこの本の評価を知るためにGoogleやTwitterでエゴサーチしても、無関係の事が大量にヒットしてしまい、制作した本の評判や書評を浮かび上がらせるのが不可能に近いからです。

読者が検索出来ないとなるとこれはもう、書店で偶然見かける以外にその本と出会う機会はほとんどありません。またネットでの本の評判や書評を突き止めて、それを用いて宣伝する事も非常に難しいです。この様に機会損失が著しい一文字書名本について、私自身は編集者として以前から大きな問題だと感じていました。

一文字書名本は大きく分けて、3つのパターンがある様です。

●芸能人や有名人のエッセイや写真集で、その書名で検索するよりはその人物の名前で検索したり、書店で大々的に陳列される事が多そうな本。これらの本の場合、サブタイトルがメインタイトルと融合しているパターンも多く見られます。

例:
浜崎あゆみ『A』ソニー・マガジンズ
原紗央莉『H』彩文館出版
堀北真希『S』マガジンハウス
谷村新司『階』角川書店
原研哉『白』中央公論新社
荒木経惟『空』ワイズ出版
……等々

●著名作家による大手出版社から出された小説や文芸書で、表意文字である漢字の一文字インパクトを狙った様なもの。これも著者名で有名なので、書名検索する必要性があまりないのかもしれません。

例:
小山田浩子『穴』新潮社
橋本治『橋』文藝春秋
山崎ナオコーラ『手』文藝春秋
今邑彩『鬼』集英社
江上剛『絆』扶桑社
柳美里『黒』扶桑社
河原れん『瞬』幻冬舎
村上龍『盾』幻冬舎
……等々。

●小出版社や自費出版出版社から出ている詩集や体験記、自費出版と見られるもの。著者の一存で決まったと思われるものが多い様です。あるいは編集者が特に注文を付けなかったと見られるもの。一文字書名本ではこのパターンが一番多いと見らます。

例:
広沢正行『絆』牧歌舎
西川三郎『欲』幻冬舎ルネッサンス
松風園葉『線』風詠社
岩尾忍『箱』ふらんす堂
黒田如泉『蝮』文芸社ビジュアルアート
松井勇『母』蔕文庫舎
槇映子『乱』近代文芸社……
等々多数。

具体的な例を挙げるのは差し控えますが、最も問題と思われるのが、小出版、自費出版であるにも関わらず詩集や文芸書ではなく、具体的な対象物を題材に扱った歴史書や研究書。こうした本は書店で出会う事もなく、インターネットでヒットする事もありません。幾ら優れた内容でも日の目を見る事がないどころか、世の中に存在しないのと同じです。

著者のネームバリューありきの有名人が出す本で、一文字の書名はある程度仕方がないと思います(個人的には良いとは思えませんが)。しかし有名人でもなく、詩集でもないのに、奇を衒った感じのウケ狙い一文字書名は、読者不在の著者の自己満足にしか見えず、最終的には実際、本を手にとって貰える機会自体を自ら奪っているという点で、極力避けるべきだと感じています。

一文字書名本以外にも『+/−』や『ΑΩ』『ε−δ論法からトポロジーへ』『Χωρα 死都』『凸凹凹凸』『
♥×27=∞3rd』『!!!!』『#000000』など記号だけで成り立った本や、どうやって入力したら良いのか分からない本なども多数あります。機会があればまたそうした本をリストアップしたいと思いますが、なるべくこうした自己満足なタイトルは避けた方が良いのではないでしょうか。

尚、検索システムによっては一文字書名本をヒットさせる為の演算子、例えば一文字の後に全角アキを付ける等が設けられたりしている事もあるみたいですが、その様な検索法はあらゆるシステムに共通のものではなく、また世間的には認知されておらず、あまり効果的とは思えません。

この記事を書いている版元ドットコムで一文字書名本を検索すると、かなりの高精度でヒットしますが、版元ドットコムに所属している出版社のものしか出てきません。従って一文字書名本を出す傾向が強い、大手出版社や自費出版社のものはありません。

詩など特に書名自体がすでに重要な作品であり創作物である場合には仕方がありませんが、特別な理由がない限り、一文字のタイトルの書名はなるべく避けた方が良いと思います。
 
 
社会評論社 の本一覧:版元ドットコム


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11 コメント »

  1. 興味深く拝読しました。

    とても細かいことですが1点だけ。「小出版社や自費出版出版社から出ている詩集や体験記、自費出版と見られるもの」に分類されている詩集『箱』(ふらんす堂)の著者は、「岩尾忍詩」さんではなく、「岩尾忍」さんです。

    コメント by 原口昇平 — 2014/06/18 水曜日 @ 13:45:10

  2. 私も興味深く拝読させていただきました。

    一文字書名本以外のところで名前があがった『ε−δ論法からトポロジーへ』ですが、「ε−δ論法」というのは数学で解析学を学ぶと必ずと言っていいほどでてくる重要な用語です。ですから、書名としては通常の表記である「ε−δ論法」とした方がわかりやすいかな、と思う反面、ご指摘の通り一般書店の店頭検索システムだと、日本語やアルファベットで検索するようにできていたりしますので、不都合が生じることも確かですね。

    私は理系の専門書を読むのですが、書名は似たような名前のものも多いです。「応用」「入門」とついているかいないかで区別できるようならましな方で、「新版」「改訂版」で中身が全然違ったりするため、著者や出版社、発行年で注意して区別するしかありません。専門書の場合は用語が決まっていて、あまり突飛な書名にもできないのだとは思いますが、副題をつける等、判別するために何か一工夫あると、読者は助かりますね。

    コメント by @danpansa — 2014/06/18 水曜日 @ 14:55:20

  3.  上の方も仰って居られますが、そもそもε-δ論法と聴いてイメージ出来ぬ者を対象とした初級入門書では無いので、殆ど難癖に近い引例と思います。 理系初歩の理解出来ぬと二進も三進も行かぬ概念なのですから。 εに誓ってホントです。

    コメント by 甕星亭主人 — 2014/06/18 水曜日 @ 17:32:18

  4. ε-δ論法は基本的な数学用語です。こういった記事はちゃんと裏を取ってから書いて下さいね

    コメント by みず — 2014/06/18 水曜日 @ 18:42:07

  5. ε−δ論法がダメな書名とは、もろに文系脳ですね。
    GIGZINEもこれを狙い撃ちして掲載したな。

    コメント by yasushi matsumoto — 2014/06/18 水曜日 @ 19:38:26

  6. ↑「文系脳」などというスラングを嬉々として遣う無教養さがすごいですね。
    もう少し文意を読み取る努力をなされては?
    確かに、「ε−δ論法~」を「自己満足なタイトル」と断じる所にはひっかかりましたが。
    田島一郎氏著の「イプシロン―デルタ」をご存じないはずはないでしょう?
    何が言いたいか、わかりますか?

    コメント by 名無し — 2014/06/18 水曜日 @ 20:01:57

  7. 「ε−δ論法」は数学の用語として通用している書き方ですので、“奇抜さを狙ったタイトル”の例としては不適切だと思います。

    コメント by アルファベータ — 2014/06/18 水曜日 @ 20:46:03

  8. むしろε-δに他の書き方があるなら教えていただきたい

    コメント by Bis — 2014/06/18 水曜日 @ 22:11:06

  9. 『詩など特に書名自体がすでに重要な作品であり創作物である場合には仕方がありませんが、』
    重要であるか否かは、あたなが決めることではありません。
    あなた、何様のつもりですか?

    コメント by k — 2014/06/19 木曜日 @ 22:58:13

  10. 「一文字書名本は、こういった副作があるよ」という注意喚起であるなら、少なくとも理解できるが、
    「一文字書名本は、読者不在、著者の自己満足」と言い切のは理解不能。
    どんなタイトルとつけようと、著者の意向。
    「著者の自己満足」うんうんまで言及するなら、それはタイトルにとどまらないはず。
    非常ひ腹立たしい。

    コメント by k — 2014/06/19 木曜日 @ 23:06:44

  11. ここは酷い超蛇足ですね…

    ヘイトスピーチ 表現の自由はどこまで認められるか明石書店 エリック・ブライシュ Amazonアソシエイト by
    すばらしい労作にもかかわらず解説が超蛇足との由
    (more…)

    トラックバック by 障害報告@webry — 2014/06/22 日曜日 @ 00:48:02

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