健康ブームを追い風に今、世界で魚の消費が急増中。
そのマーケットを支えているのが養殖ビジネスです。
世界各国で養殖を成長産業にする動きが加速。
生産量が飛躍的に伸びています。
一方、魚の養殖技術で世界をリードしてきた日本。
世界で初めて不可能とされていたクロマグロの完全養殖に成功。
今や、私たちの食卓に上るようになりました。
おいしい。
ところが養殖の生産量は下落を続けています。
中にはピーク時の半分以下にまで落ち込む産地も出てきています。
世界の養殖産業が飛躍へと大きくかじを切る中日本は生まれ変わることができるのか。
今夜は、その可能性を考えます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
やっぱり日本で食べるおすしや、お刺身は格別。
日本に来る大きな楽しみの一つが日本食という外国人の声をよく耳にします。
魚を食べる文化が根づいている日本。
その日本人が長い年月をかけて培ってきた魚の養殖技術は世界一といわれています。
世界に先駆けて成功したクロマグロやブリの完全養殖。
歯応えのあるヒラメ。
海のフォアグラと呼ばれるとろりとした肝と食べるとおいしいカワハギなど優れた養殖技術で育てられた日本の魚は、日本食というブランド力を追い風にすれば世界で市場を拡大するチャンスがあります。
加えて養殖は成長産業です。
世界的に水産物の需要が拡大する中でご覧のように漁業の漁獲量は横ばいです。
養殖で生産された水産物は増え続けていまして2030年には漁業と並ぶと予想されています。
こうした中、人口減少などで国内の市場の縮小が予想されている日本。
海外への販路拡大は養殖業にとって不可欠なのですけれども今度は、こちらご覧ください。
この20年5倍に養殖の生産量を増やした中国を筆頭に各国で養殖が成長産業として伸びています。
日本はといいますと中国に次ぐ生産量を誇っていましたが生産量を減らしマイナス成長となっています。
高品質の養殖の魚を作れるものの長らく国内市場だけをターゲットにしてきたため輸出戦略が出遅れ海外の市場拡大の波に乗ることができていないのです。
日本の弱みは何か。
どんな戦略が求められているのか。
まず初めに、生産が伸び悩む中規模縮小を強いられている日本の養殖の実態からご覧ください。
日本で1、2を争う養殖ヒラメの産地大分県佐伯市です。
今、町の飲食店では特別に育てられたヒラメがふるまわれています。
大分県が最大の生産量を誇るかぼす。
その果汁をエサに混ぜ込み育てたかぼすヒラメです。
かぼすヒラメの商品化に取り組んできた養殖業者の一人森岡道彦さんです。
一匹一匹丁寧な個体管理には定評がありましたが仲間と工夫を重ね2年がかりでかぼすの成分を浸透させる方法を開発しました。
その結果、通常のヒラメよりも最大でキロ当たり800円余り上乗せして取り引きできるようになりました。
こうした取り組みの背景にあるのは長期にわたる国内市場の縮小です。
海外からの安い養殖ヒラメの流入も追い打ちをかけました。
90年代からおよそ2割も安い韓国産が輸入された結果国内産ヒラメの市場では値崩れが起き生産量は97年をピークに半分以下にまで落ち込んだのです。
森岡さんたち養殖業者は付加価値の高い商品で対抗しようとしていますが一度落ち込んだ生産量を取り戻すには至っていません。
高い養殖技術を持ちながら生産量が伸び悩む養殖業者が今、全国各地で増えています。
養殖カンパチで日本一の生産量を誇る鹿児島県垂水市です。
漁協では水揚げしたカンパチをその日のうちに出荷することで新鮮さを売りにしてきました。
しかし、国内需要の冷え込みによる価格低迷でこの5年間で養殖業者の3割が廃業に追い込まれています。
こうした中国が3年前から導入したのが資源保護を目的とした養殖業の生産管理の仕組みです。
魚が供給過剰にならないよう業者ごとに生産量の上限が割り当てられその範囲内で魚を育てます。
万が一、価格が暴落しても損失は国などから補填されます。
一方、限度を超えて生産すると補填はされない仕組みです。
養殖生産に限度を設けるこの仕組みが始まって以来漁協では生産量をピーク時の6割程度に抑えるようになりました。
こうした養殖業の縮小生産が続く日本に対し世界各国では養殖をビジネスと捉え生産量を急拡大させています。
その成功例とされるのがノルウェーです。
人口3000人の漁業の町シャルベイ。
従業員200人を抱えるこの養殖会社では徹底したIT化と機械化を進めています。
生産加工から輸出まで1社でコントロール。
サーモンを生のまま36時間以内に日本の市場へ届けます。
こうして年間4000トンを日本に輸出しています。
実は、このサーモン日本人の好みに合わせて養殖されています。
エサの調合などによって色合いを調整しています。
さらに日本では脂の乗った魚が好まれていることを知るとサーモンの脂肪の量が増えるように養殖方法も変えました。
市場を徹底的に意識して行われるノルウェーの養殖ビジネス。
その鍵になっているのが国有会社のノルウェー水産物審議会です。
ここではマーケティングの専門家が世界各地での市場調査や広報活動を行っています。
生食サーモンの場合最初から日本市場がターゲットでした。
個別の養殖業者がバラバラに行うのではなくこの国有会社がすべての業者から運営資金を集め一括して日本市場を徹底調査。
PRまで行います。
その結果はフィードバックされ各社の商品開発に活用されます。
サーモンを生で食べる文化のなかったノルウェーが官民挙げての売り込みで日本市場を切り開くことに成功したのです。
今では日本にとどまらず世界各国に駐在員を配置して情報収集力を強化しています。
日本人が認めたサーモンとして売り込みをかけた結果今では世界90か国以上に輸出。
6000億円の市場を築き上げることに成功しました。
今夜は、漁業経済学がご専門でいらっしゃいます、近畿大学准教授の有路昌彦さんにお越しいただきました。
日本人が認めたサーモンということで、世界中に売り上げを伸ばしているノルウェー。
一方で日本人自身が作った魚は、苦しい、なかなか売れないと、どうしてこんなことになってしまったんでしょうか。
日本は、もともと養殖に関して言うと、本当にぶっちぎりで、すごい技術を持ってるんですね。
例えば、種苗の生産で言うんであれば、十数魚種の完全養殖が可能であると。
こんなの持ってるのは、日本しかないんですね。
だけれども、ずっと日本は非常にいい市場を日本に抱えていたので、海外に打って出ていくというふうなやり方を全くしてこなかったので、早い話が、海外向けのマーケティングの能力がないと。
しかも、それをみんな、バラバラと今、やり始めているところなんで組織力がないというところが一番大きいんじゃないでしょうかね。
国内マーケットが縮小するのであれば、本当に海外に打って出るしかないというふうに思うんですけれども、一方で、今のリポートにありましたように、供給過剰を防ぐため、そして価格の暴落を防ごうということで、国が取った政策というのは、いわば生産調整、あまり作らないようにするという方向ですよね。
何か成長していくための輸出が必要な状況と矛盾しているように思えてならないんですが。
確かに小さくなっていくマーケットに対して、日本の市場が小さくなっていっていることに対して、対症療法的に生産調整をしようというのは、ある意味、生産者を守っていくのに必要だという考えは、理解できる部分はありますね。
ただ、やはり、海外へマーケットを向けていくことで、需給バランスを取っていくということは、根本的な解決としては、そっちを選ばないといけないと。
幸い、現在、水産庁が考えている生産調整も、その部分に関しては、海外への輸出に関しては、生産調整の範囲外ですよというふうにはなってますんで、流れとしては、海外のほうに向かうようにはなるんじゃないかと思いますね。
供給過剰の一方で、おそれがある中で、しかし、日本国内で食べられている養殖魚。
かなり海外から養殖魚が入ってきているという、これも矛盾した状況が起きてますよね。
なぜそうなってしまうんですか?
これはですね、最終的に使っている人っていうのは、いわゆる回転ずしとか、そういう所の大手の外食チェーンになりますけど、ここでは職人さんが魚を切っているわけじゃないというふうになると、それに合わせたようないわゆる皮もむいたフィレと呼ばれる状態じゃないといけないんですが、これは産地加工しないと、いい品質にはならないんですよね。
ノルウェーの場合だったら、もうそれで攻めてきてると。
日本の場合は、過去の流通の方法なので、鮮魚を流通して、その魚を、要するに店頭でさばきましょうという話になるので、なかなか対応ができない。
つまり使い勝手が悪いから、勝負に負けてるというところが、まずあります。
そうなると国内のマーケティングも、十分ではないということですか?
そうですね、取り組まれてるところは増えていますけれども、まだまだ全体の主流ではない、これは言えますね。
ノルウェーの様子を見ますと、本当に国を挙げて、輸出を促進しているという様子がうかがえるんですけれども、その成功した最大の鍵はなんですか?
一番大きいポイントは、ノルウェーは自分の国に、マーケットをそもそも持ってなかったので、海外に挑むということは、新しい市場を作っていくっていう、いわゆるブルーオーシャン戦略しか取りようがなかったんですよね。
だから、そこで今までの方法にとらわれることなく、新しい方法に挑んでいったというのがあります。
日本は過去に成功して、もともと持っていたので、なかなか、そのブルーオーシャン戦略のほうに切り替えられなかったというのはあるでしょう。
ただもう一つ、言えることは、やはり大きいところは、ジェネリックマーケティングと呼ばれる包括的なマーケティング、つまり、みんなで取りに行って、取ってきた成果を、みんなで分配しましょうというようなやり方をノルウェーは取りましたが、今、日本は、お互いにいがみ合う状態でして、なかなか、みんなで、そういうふうに組織力で取りにいくということが、まだそこまで至っていないというのはいえると思います。
それぞれが自分の力で輸出をしようとしていて、もう少し、まとまった戦略が必要だと?
そうですね。
さあ、このままでは市場の縮小に伴って、養殖魚のほうも衰退ということが懸念されています。
こうした中で、世界のマーケットの動向をつかんで、積極的に輸出を行おうという動きも出てきました。
三重県尾鷲市にある水産加工会社です。
あちらがブリの水揚げの現場です。
桑原宏さんたちは年間1200トンのブリの養殖を手がけています。
これまでは海外への販売ルートを持たずブリは、もっぱら国内に出荷されていました。
今、ブリは日本の養殖魚の中でも輸出の最有望株として期待を集めています。
日本近海でしか取れず刺身や、すしのネタとして海外の需要を大きく伸ばしているからです。
そこで桑原さんたちはサーモン輸出を手がけるノルウェーの会社に毎年、社員を派遣し輸出のノウハウを学んでいます。
さらに今、漁業関係者と共にこれまでとは全く違う仕組みを作ろうとしています。
加工や冷凍の業者。
海外市場に強い商社。
銀行などと手を組み新たな会社を作ろうというのです。
川上から川下までが一体となりしっかりと海外のニーズを把握して生産を行うことがねらいです。
桑原さんたちがねらいを定めているのが健康志向の高いヨーロッパ。
DHAやEPAなどの魚の成分を増強する新たなエサの開発にも着手しました。
日本勢が参入を始めた国際養殖ビジネスの世界ではすでに新たな動きが出てきています。
養殖の魚の認証制度、ASCです。
この認証は環境に悪影響を及ぼさない持続可能な養殖を行う業者に与えられます。
この認証を受けた魚はすでにヨーロッパを中心に37か国で扱われ売り上げを伸ばしています。
この国際認証を海外輸出の武器にあえて取り組むところも出てきました。
宮崎県にあるブリ養殖の会社は国内初のASC認証の取得を目指しています。
認証を得るためには海の環境をできるかぎり守りながら養殖することが必要です。
そこで取り組んだのがエサの改良です。
これまで養殖業者によっては生魚や魚粉などのエサを大量に使い水質を悪化させてしまうことがありました。
この会社では2年前から植物性たんぱく質を配合した固形のエサを本格的に導入。
食べ残しによる水質汚染のリスクを大きく減らすことができました。
高い技術力と徹底した管理で国際マーケットでのブリのシェアを拡大したいと考えています。
ブリが最有力と思ってよろしいんでしょうか?
そうですね。
やっぱり日本でしか生産できない魚なんですよね。
種苗もそうですし、成育環境もそうなんですけど。
今、世界では非常に、魚が食べられるようになってますけども、その中でも、いわゆるマグロとサケに次いでブリというのは、3番手に評価される魚になってますんで。
ただですね、それだけでは日本のビジネスは勝てないんで、いわゆるマダイであるとか、トラフグであるとか、ヒラメとか、いろいろなものを持っていって、その中でブリが主流になっていくのはあると思うんですけれども、いろいろな魚種で勝負するのが一番、日本にとってはいい戦略だと思いますね。
今のリポートで、業者の方が、日本は水産立国っていわれながら、管理が遅れているのではないかと、今、海外では認証制度と、ASCというのがありましたけれども、こうした認証制度と、どう向き合っていけばいいと思いますか?競争力を高めていくために。
そうですね、国際的なマーケットで言うと、ああいうラベルをつけるってことは非常に重要で、ああいう識別可能性というのは、やはり非常に商品力を持たせるうえで、大きな鍵になるんですね。
これは日本もそれを知っておくべきだと思うんです。
ただですね、やはり順番はまず、衛生管理、これはきちっとできている、安全性の話です。
2つ目は品質。
3つ目にようやく環境がくるんですよね。
そういう順番で認証なり、ラベルなりをつけていくということをやると、十分、競争力は持てるんじゃないかなと思いますね。
それぞれのそういう分野では、認証制度が?
存在していますね。
ただ、こうした輸出競争力を高めていこうとすると、ノルウェーを見ますと、大規模化ですとか、垂直統合とか、そうした試みが必要だというふうに見えるんですけれども、ただ、一方で、もう長年、一生懸命、養殖をされてきた、その小さな業者さんたちがたくさんいる中で、どうやって摩擦を生まないで、そうした体制を作っていけるのか、これも大きな課題になりませんか?
そうですね。
ただ、実際、生産される方々っていうのは、現場の方々なので、つまり養殖業者さんなんですよね。
この人たちは、日本の最高の技術を持っている人たちそのものなわけですから、この人たちが個人でする状態ではなくて、組織で、つまり会社形態の中で技術者として入り込めるような状況というのを作るほうが、恐らく大規模化の鍵だと思うんですね。
あくまで排除するのではなくて、一緒にやると、中で一緒に働いて、勝ちを取りにいくっていうところが、答えなんだというふうに思いますね。
それにあと1点加えると、そういうふうに、大規模化していくってことで、輸出が増えていくと、価格も上がってきますから、中小もどんどん経営がよくなると思いますけど。
最後に、日本のポテンシャル・潜在力をどう見てらっしゃいますか?
ポテンシャルは世界最高だと思います。
これは間違いないでしょう。
海も非常に広いですし、技術もたくさんあって、そして人もいると。
こういうふうな中で、さらに文化も持っているということを考えると、世界に日本の魚を出していって、世界のマーケットを取ったらいいんじゃないかと思います。
きょうはどうもありがとうございました。
ありがとうございました。
2014/06/20(金) 00:10〜00:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「養殖ビジネス 国際競争時代〜日本の活路は?〜」[字][再]
今や激烈な国際競争時代を迎えている世界の養殖漁業。ノルウェーサーモンなど、戦略的ビジネスで押してくる海外養殖魚を前に日本の養殖は劣勢に立つ。巻き返しはなるか。
詳細情報
番組内容
【出演】近畿大学農学部准教授…有路昌彦,【キャスター】国谷裕子
出演者
【出演】近畿大学農学部准教授…有路昌彦,【キャスター】国谷裕子
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ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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