8宇宙白熱教室 第1回「入門編(1)宇宙のスケールを体感する」 2014.06.20

この広い宇宙はどうやって始まったのか。
そして宇宙の未来は一体どうなるのか。
人類が何千年にもわたって探究してきた宇宙は今も多くの謎に包まれたままです。
そんな宇宙の謎に最新の数式を駆使して立ち向かっているのが…研究テーマは「宇宙の始まりから終わりまで」。
私たちの常識をはるかに超えた不思議で魅力に満ちた宇宙の姿を明らかにしてきました。
今回一般市民を対象に行われた特別講義。
最新の理論が描き出す驚きの宇宙像が次々と飛び出します。
「ダークマター」や「ダークエネルギー」など次々と紹介される最先端の宇宙論。
必死に講義についてゆき驚きの世界を体感しようとする生徒たち。
4回にわたる講義で宇宙物理学者が立ち向かう未解決の謎にまで迫っていきます。
この20年間宇宙論には革命が起きつつある。
過去1,000年間の進歩よりもはるかに大きな発展を遂げたのだ。
この講義を聞けば専門的な知識を持たない人でも科学への興味さえあれば宇宙論のフロンティアにまでたどりつけるようになる。
基本的な考え方を身につけそれを組み上げていけば宇宙の謎を理解できるだけでなくひょっとするともっと先にも進めるかもしれない。
「宇宙白熱教室」第1回の今日は宇宙論の入門編です。
宇宙を「空間」「時間」「物質」の観点から捉え最先端の宇宙論を理解するために必要な「ものの見方」をクラウス教授が伝授します。

(拍手)みんなこの講義にようこそ!これから4回にわたって宇宙最大のミステリーを扱うこの講義に君たちを迎えられてうれしい。
宇宙は謎に包まれた世界だ。
人類がこれまでさまざまな神話を生み出してきたのもこの宇宙を理解したかったからかもしれない。
でも科学こそがこの不思議で謎に包まれた宇宙を曖昧さなしにきちんと理解する手助けになるんだ。
だが君たちはまだ宇宙について何も知らない。
この講義の目的はそのおめでたい無知な状態の君たちを宇宙の謎と向き合い理解できるところまで連れてゆく事だ。
そのためには物理学の博士号などは必要ないがこれから教える基本的な「道具」が必要だ。
この4回の講義では初歩の初歩から始めて現代物理学の最先端にまでたどりつけるようにしよう。
さあでは私のお気に入りの一節から始めよう。
私は君たちを全ての始まりに連れていきたい。
だが驚くべき事に今日の我々にとっても解明できていない事が山ほどある。
君たちには何が明らかになっていないのかをきちんと理解してほしいと思っている。
さてもしアメフトの試合の事を理解したいとすればまずは競技場つまりフィールドの事を知らなければならない。
サッカーや野球も同じだ。
だから初回の講義ではまず君たちに「宇宙」というフィールドに浸ってもらいたい。
宇宙の謎を議論する前提としてそのフィールドについて知る事ができれば物理学者が行っているゲームの内容やそのルールがはっきりしてくるだろう。
さて宇宙論におけるフィールドとは…宇宙の広さというものは理解するのはとても困難だ。
君たちは「宇宙はとても広い」とか「顕微鏡の世界はすごく小さい」とかは何となく感じているだろうがその広がりをきちんと理解する事は非常に難しいんだ。
そこで通常とは異なる方法をとる事にしよう。
まず初めに「空間」について話をしよう。
だが通常の空間の捉え方をしていては宇宙という空間を捉える事は決してできない。
日常生活では「マイル」などを単位とした「均等な目盛りのものさし」を使っているがそんなものさしは宇宙を理解するためには全く役に立たない。
例えばこれを地球と太陽だと考えてくれ。
別の単位で表現すればそれはおよそ10光分とも言える。
太陽から地球まで光のスピードで10分かかるからだ。
だからもし今太陽が爆発しても10分後にならないと分からない。
この1億5,000万kmというのは巨大な長さに思えるがこれを一目盛りとしたものさしを使ったとしても宇宙について考える時には役に立たないんだ。
実際この手のものさしで更に大きな宇宙の距離を捉えようとすると問題が生じる。
このスクリーン上に描かれていた地球と太陽は大体1m離れていた。
この長さを基準にして例えば太陽とすぐ隣の恒星までの距離を表そうとすると60マイルの長さのスクリーンが必要になってしまうからだ。
そこで私たちが代わりに使うのは「『10の累乗』の目盛りのものさし」というやつだ。
先ほどの「均等な目盛りのものさし」では010203040というふうに書いていくとスクリーンの一番上では170ぐらいになりより大きな数字を表すためにはもっと大きなスクリーンが必要になる。
「10の累乗の目盛りのものさし」とは「均等な目盛りのものさし」の0から10の間を拡大した時01234となるだろう。
ここが10だ。
ここが0だ。
「10の累乗のものさし」ではまず「1」という数字を「10の0乗」というふうに表す。
0乗というのは「0が0個ある」という意味だ。
数字の10は「10の1乗」。
0が1つだ。
すると100は「10の2乗」だ。
この「10の累乗のものさし」では100という数字をとても短い距離で表せる。
1,000になるとよりありがたみが分かる。
普通はスクリーンからはみ出してしまうが「10の累乗のものさし」では簡単に「10の3乗」と書ける。
つまり10の0乗10の1乗10の2乗というふうに一目盛りごとに10倍ずつ大きくなっているわけだ。
これに慣れてくれ。
これで巨大な数を表す事ができるようになる。
もちろん10の4乗は1万だし10の5乗は10万だ。
「均等な目盛り」ではこうした数を表す事は困難だがこれならたった5つの目盛りで10万までいけるわけだ。
ちなみに「0.1」は「10のマイナス1乗」と表す。
マイナス1乗というのは小数点の1つ後ろに1がある事を意味している。
0.01は「10のマイナス2乗」。
小数点の2つあとの場所に1がある。
この講義で「10の累乗のものさし」を使うのはこのたった一つのものさしで宇宙全体の事柄について話す事ができるようになるからだ。
さあこれが観測可能な宇宙の全てだ。
長さの単位は「m」だ。
「10のマイナス28乗」から「10の28乗」mまで実に56桁の広がりを持つ。
この目盛りに慣れてほしい。
とにかく一目盛り違うと10倍違う。
ではこれから普通のスケールに慣れてしまっている君たちをとてつもなく大きなそしてとてつもなく小さな空間の旅へと連れていく事にしよう。
そこでチャールズ&レイ・イームズの映画の画像を使おう。
「パワーズ・オブ・テン」というタイトルのすばらしい映画だ。
これから順番に見ていく画像はスケールが10倍ずつ大きくなっていく。
これはシカゴの公園で昼寝をしている男性の写真だ。
彼は自分の周りに驚くべき宇宙が広がっている事なんか全く気にも留めていない様子だ。
これは1m×1mの大きさで10の0乗mだ。
ざっくり言えば本など生活で目にする日用雑貨の大きさで君たちにとって最もなじみのある大きさと言える。
では10の1乗mに飛んでみよう。
さっきの男性はちょうど真ん中にいる。
この横幅は10mでまだよく見慣れた大きさだ。
男性が芝生のある公園にいる事は分かるが特に変わったものは見られない。
次は100mだ。
100mというのはまだなじみのある長さで人間が10秒で走る事ができるスケールだ。
地球上に存在した最も大きな動物の大きさでもある。
最も大きな多細胞動物でも100mよりは小さいサイズだ。
次は1km。
男性はもう見えない。
人間の技術が作り上げた物体はまだ見えている。
ビルが見えているが1kmより大きなビルは存在しない。
1kmは人間が作った最大の建物のスケールと言える。
ちなみに人間が作った最大の機械はもっと大きい。
ジュネーブにある大型の加速器は周囲が30km近くもあって人間が作った最も複雑な機械だ。
1kmというのは概して人間の技術に関する最も大きなスケールと言える。
10kmに進もう。
シカゴの町の姿が見え始め人々の姿は消える。
1日の行動範囲が1kmぐらいという人たちの中には人生を通して自宅から10km以上離れて歩く事が一度もない人もいる。
10kmはそういう人たちにとっては宇宙の全体像だ。
100kmではシカゴ全体を見渡す事ができるが個々の物体の姿は消える。
この10の5乗mでは文明が存在する事はまだ見てとれる。
もう一桁上がろう。
注意深く見れば人間が存在している形跡を見つける事はできる。
でもチラッと見ただけだと文明が存在するかどうかは分からない。
五大湖など地質学的な構造が見え始めるのが10の6乗mだ。
さあもう一桁上がって10の7乗mになると1万kmだ。
既に地球の大きさになっている。
シカゴの公園で寝ている男性からたった7目盛りで地球全体までやって来た。
文明の存在は夜なら都市の明かりで見る事はできるが昼間は雲の動きの方が目立っていて人間の存在は明らかではなくなっている。
私が言いたいのは君たちなんて取るに足らないものなんだという事だ。
私は違うけどね。
10の9乗mにいってみよう。
線が描かれているのが見えるがこれは地球を回る月の軌道だ。
この図は一辺100万kmだが既に地球の姿が背景の中に埋もれかけている。
地球から一番近い星までの距離がものさしで9目盛り。
月は地球の周りを40億年以上回り続けている。
更に1桁上がって1,000万km10の10乗mだ。
真ん中に月の軌道が見える。
この1,000万kmというのは太陽の周りを地球が4日で移動する距離でもある。
君たちは秒速30kmの宇宙船に乗って旅をしているんだ。
この前シカゴでタイムマシンについての話をしたんだがタイムマシンの大きな問題の一つは宇宙船の機能も持っていないといけないという事だ。
もし君たちがタイムトラベラーとして2時間前の地球に戻ろうとしても地球は秒速30kmで動いているから戻った時は同じ場所に地球はなくて君たちは宇宙空間に放り出されてすぐに死んでしまう。
だからタイムマシンは非現実的なんだ。
その事は非常に明らかな事なんだが全く議論されていない。
タイムマシンでは場所も移動しなければならないから宇宙船の機能が必要なんだ。
10億km10の12乗mにいってみよう。
シカゴの公園で寝ている男性のスケールからたった12目盛りだが木星の軌道のスケールまでやって来た。
木星は太陽系で2番目に大きな物体で地球の1,000倍の規模の質量がある。
木星は宇宙の歴史を通じて地球を救ってくれている。
まずは地球上の生命を絶滅させかねない彗星や小惑星のほとんどを飲み込んでくれた。
地球が出来て最初の1億年ほどの間は時々惑星のもとになる岩石などが衝突していた。
巨大すぎて海にぶつかれば出来たばかりの海を全て蒸発させかねないような物体もあったがそんな衝突がもし100万年に1回の割合で起こっていたとしたらたとえ生命が誕生しても滅んでしまっていただろう。
木星がそういった物体を飲み込んでくれたおかげで地球への小惑星や彗星の衝突の確率が劇的に下がったんだ。
また木星の巨大な重力の影響で太陽系にかつて存在した余計な物体が外へとはね飛ばされたから地球の周囲の物体は減った。
だから地球への小惑星の衝突は1億年に1回程度しか起きないし万が一起きても恐竜は絶滅させたが生命を根絶やしにしない程度の小さなものとなった。
私たちは10億km離れた木星からたくさんの恩恵を受けているわけだ。
次は100億kmだ。
太陽系の全体がこのスケールにすっぽりと入る。
このスケールは人間が人工物を送り込む事ができた最大のスケールで探査機の「ボイジャー」は既にこの端を越えている。
ちなみにこの画像は冥王星がまだ惑星に分類されていた頃に作られた。
とてつもなく風変わりな軌道の冥王星は私にとってはいつまでも惑星であり続けている。
というのも私の娘が4年生の時に冥王星について研究したからねそれを大切にしてあげたいしね。
他の惑星についても探査機による調査は始まっている。
そんな中で私のお気に入りの写真はこれだ。
「カッシーニ」という探査機が土星の裏側に回り込んで撮った皆既日食の写真だ。
とても美しい写真だが何よりすばらしいのはかなり見づらいかもしれないがちょうどここの場所。
よく見ると輪の間に淡い青の点が見える。
その青の点が土星の辺りから見た地球だ。
私たちのあらゆる人間模様争いや幸せ愛死そういった全てがこのないも同然の大きさの小さな点の中で起こっている。
私たちは繊細で儚い地球の生態系を守る事も壊す事もできるがそれを気にかける者は私たち以外に宇宙には誰もいないんだ。
さて更に先に進もう。
1,000億km10の14乗mでもまだ太陽が見える。
太陽は恒星だから実際にはこの範囲の全ての星よりも明るい。
さあ10の16乗m。
およそ1光年の距離までやって来た。
ものさしの16個目の目盛りはおよそ1光年で「1光年」というのは光が進むのに1年かかる距離だ。
つまり光がこの端から端まで行くのにほぼ1年かかる。
1光年というのは恒星と恒星の間の典型的な距離でいい指標になる。
私たちが「光年」というのを一つの指標として使うのは恒星間の典型的な距離が1光年だからだ。
100光年の規模の大きさになると何千もの恒星が見える。
ところで私たちは宇宙のどこかに生命の痕跡があるかどうか見つけようとしているんだが最近「ケプラー」という探査機による調査で恒星の周りには大抵の場合惑星が存在する事が分かってきた。
もともと私たち宇宙物理学者はコンピューターによるシミュレーションで恒星の周りには必ず惑星が出来ると分かってはいたが実際に観測でほとんど全ての恒星に惑星がある事が判明した。
しかも生命が存在する可能性がある惑星があるらしい事も分かってきたんだ。
地球のような大きさで水があるかもしれない惑星だ。
さて1,000光年になると星々の散らばり方に微妙な密度の差が見え始める。
いわば波のような構造があって密度の高い領域と低い領域があるのが分かるようになる。
更に進んでいくと私たちの銀河系の構造が見え始める。
そして10の21乗mで美しい渦巻き銀河の構造が現れる。
10万光年というのは銀河の平均的な大きさで私たちの銀河系やアンドロメダ銀河の大きさだ。
ところでアンドロメダ銀河は私たちの方向に向かってきていておよそ50億年後にぶつかる予定だ。
でももし君たちが生きていたとしてもその衝突には気付かないだろう。
銀河はほとんど空っぽの空間だからぶつかっても星々はお互いの間をすり抜ける。
ほとんどの星はぶつかる事のないまま2つの銀河は合体して渦巻き銀河ではなくなり倍の規模の楕円形の銀河を形成する。
でももし君がその中の星の一つにいたとしても数十億年もかかる合体のプロセスに気付く事はないだろう。
はい質問だね?どうぞ。
いい質問だね。
銀河系の形を知るには2つの方法がある。
一つは他の銀河を見てみる事だ。
これはアンドロメダ銀河だ。
私たちの銀河系から近い場所にあり形は渦巻き型だ。
100万光年単位の距離にある。
私たちの銀河系の大きさはおよそ10万光年だからその大きさの10倍ぐらい離れた場所にある。
我々はそれこそ何十億という渦巻き型の銀河を外側から観測して銀河の形というものを調べてきた。
また私たちの銀河系の形は星だけでなくガスの分布からも推測する事ができる。
ガスは光を出しそれは電波として測る事ができるからだ。
出された電波の強さからどの辺りの密度が高くてどの辺りが低いのかを調べる。
ガスは星の周りに集まるからより多くの星がある所にはより多くのガスがある。
でも私が君ぐらいの年齢の頃は全ては推測にすぎず私たちの銀河系の形については間接的な証拠しかなかった。
でも1989年に「COBE衛星」と呼ばれるものが打ち上げられた。
星からの光は宇宙に漂うちりなどの影響を受けて見えなくなってしまうがCOBE衛星は「マイクロ波」と呼ばれるものを観測した。
マイクロ波はちりなどの影響を受けず通り抜ける事ができる。
私が君よりちょっと年を取った頃この写真が撮影された時の事を鮮明に覚えている。
これは地球から私たちの銀河系を写した最初の写真だ。
渦巻き銀河の端の方に住んでいる私たちからその渦巻きの真ん中の方角を見たものだが空飛ぶ円盤のようだ。
膨らんでいる部分があるが以前からガスや電波を測定する事でそこに膨らみがある事は分かっていた。
写真の端から端までは10光年。
今では私たちの銀河系がどんな形なのか分かるようになった。
こうした写真も撮れたし他のたくさんの銀河を見た事で私たちの銀河系の形も似ていると考えたわけだ。
ところでこれが私たちの銀河系の中心部だ。
とても密度が高く他の領域と比べると100倍1,000倍場所によっては100万倍密度が高い。
たくさんの星が存在しているがある部分はとてつもなく密度が高い。
それは見る事ができないある物体のせいだ。
銀河系の中心にある大きなブラックホールだ。
ブラックホールの質量は太陽の100万倍でしかもそれがとても小さな領域に押し込められている。
この写真はたった20光年の幅だ。
その小さな領域に少なくとも太陽の100万倍の質量があるわけだ。
普通の星ではなくブラックホールがあるからだ。
君ならなぜそこにブラックホールがあると分かるのかと聞くだろうね。
そんな質問は大歓迎だ。
というのもこれはここ数年で分かったすばらしい観測結果の一つだからだ。
実際観測には20年かかった。
とても忍耐強い天文学者がこの写真のちょうど真ん中辺りを見つめ続け星々の軌道を観測した。
すると星がある暗い物体の周りを回っている事が分かったんだ。
その物体の質量を決めるのには君たちもこれからすぐ好きになるニュートンの「万有引力の法則」を用いた。
こうしてその物体が周りに星を引き寄せていて太陽の100万倍の質量がある事が分かったんだ。
とても小さく光を放つ事もなくしかも太陽の100万倍の質量を持つという事実から我々はそれがブラックホールだと考えている。
君たちも犬のように歩いていて犬のようにフンをする動物がいたらそれは犬だと考えるだろう?もちろん残念なのはそれを見る事ができない事だ。
もっとさまざまな観測を重ねてそれが本当にブラックホールだと言えるのかを見極めたいと思っている。
ブラックホールは密度が高すぎて光さえ逃れる事はできない。
脱出には光より速い速度が必要なんだ。
さて100万光年に行こう。
100万光年は銀河と銀河の間の典型的な距離のスケールだ。
アンドロメダはおよそ200万光年離れている。
1,000万光年にいくと点が見えるがこれは星ではなく銀河だ。
私たちの局部銀河群が見え始めている。
銀河同士は重力によって集まって群れのようになるんだ。
なぜそんな構造を作るのかというのが今回の講義で取り組むミステリーの一つだ。
局部銀河群では全ての物体が重力によって結び付いている。
お互いの周りを回ったり近づいたりしているものもあるが最終的には1つにまとまって「銀河団」と呼ばれるものに成長する。
1,000万光年は銀河団の平均的な大きさだが大きい銀河団は3,000万光年ある。
更にこの宇宙で最も大きな結合物は「超銀河団」と呼ばれるものだ。
それより大きなものは形成されていない。
ここ10年で分かった驚きの一つは将来にわたってそれより大きなものは形成されないという事だ。
10億光年の距離ともなると宇宙は概してどこを見ても同じに見えてくる。
これはハッブル宇宙望遠鏡によって撮られた美しい写真の一つだ。
一つ一つの点は銀河だ。
この点をのぞいてね。
この辺の最も遠い銀河は恐らく100億光年ぐらい離れている。
宇宙が誕生したのはおよそ130億年前だが光が届くまでに100億年かかるという事は私たちは100億年前の姿を見ているという事だ。
青く見えるのは銀河が100億年前はとても若かったという事だ。
宇宙の初期に形成された星たちはとても熱く燃えていたから青く見える。
ところで太陽のような星は50億年ほど燃え続ける事ができるんだが青い銀河が100億年以上前に出来た事を考えると今私たちが見ている銀河のほとんどはもはや存在していないという事になる。
私たちがこの写真を撮った時よりもはるか大昔に燃え尽きてしまったという事だ。
我々は想像できる限りの大きなスケールで宇宙について調べてきた。
これは宇宙に広がる無数の銀河の配置を示したものだ。
この画像から分かるのはちょうど私たちの銀河系内に星の分布の濃淡が見られたように銀河同士にもより密度の高い領域と低い領域があるという事だ。
なぜか。
この「フィラメント構造」を引き起こすものは何なのか。
そんな宇宙をつくり出した宇宙の始まりにおける条件とは何なのか。
これは地球を起点にこれまで調べられた最も遠くの距離に向かって旅をしてゆくシミュレーションだ。
一つ一つの点は星ではなくて銀河なんだが最初はランダムとしか言いようのない構造に見える。
だが実は網の目のようなフィラメント構造を作っていて銀河がたくさんある部分とあまりない部分がある事が分かるようになる。
その事が最初に発見された時当時は部分的にしか見えなかったんだがこの構造が見えた時は衝撃的だった。
後の講義で話すように今ではなぜこうなっているのか分かっている。
さあそろそろ観測可能な一番遠くの距離に近づいてくる。
今日我々が見る事ができる最も遠い距離だ。
真ん中にある地球からこの球の表面まではおよそ130億光年で直径260億光年。
この球面より外側は後で説明するように光を通さないため観測はできない。
というのも遠くの宇宙を見るという事は昔の姿を見るという事だが時間を遡ると宇宙はどんどん熱くなっていく。
そして一番遠い場所は宇宙が熱すぎた時で中性のものが存在できなかった時だ。
陽子は電子を捕まえて中性になろうとするがそれができなかった。
初期の宇宙はプラズマ状態にあってプラズマは光を通さない。
だから球面より外側の昔を見ようとしても見えないんだ。
これが私たちが見る事のできる最大の距離だ。
10の26乗mぐらいの距離についての話をしてきた。
シカゴの公園で寝ている男性から出発してたった26目盛りで今日宇宙について語る事ができる最大の距離まで行き着いた。
ここまで大きなスケールでの宇宙の話をしてきた。
さて私たちは小さなスケールの事も考える必要がある。
なぜなら宇宙は膨張していて今日宇宙の最も大きなスケールの構造を決めているのは実はとても小さなスケールのミクロの物理学でもあるからだ。
大きな宇宙の話をする時小さな事についても考えなければならない。
では画像1つごとにより小さなスケールに下がっていこう。
最も小さな領域にたどりつくまで10倍ずつ拡大していこう。
10倍小さくしてみるとちょっと奇妙に見えるが手だという事は分かるだろう。
10のマイナス1乗mで10cmの距離だ。
1cmのところまでいくと肌の構造が見え始める。
人間だと分かるかもしれないし分からないかもしれない。
肌の柔軟性が明らかになってくるが人間だという性質は消え始める。
ミリメートルに行き着くと肌のしわに焦点が当たるようになる。
ものさしの目盛りは3つ下がって10のマイナス3乗m。
さて10のマイナス4乗m0.1mm。
個々の細胞が見えるところまで進んできた。
更に1桁下がって10万分の1m10のマイナス5乗m。
白血球が見える。
人間の細胞の大きさだ。
シカゴで寝ている男性の大きさから10の累乗で5目盛り小さい大きさだ。
更に10倍進むと今度は細胞の中に入る。
細胞の表面を突き抜けてその中心に向かって進もうとしている。
中心には細胞核があって生命に重要な遺伝子が入っている。
更に1桁進んで10のマイナス7乗m。
1,000万分の1mでDNAの螺旋構造が見え始める。
DNAは私たちをつくり上げる遺伝情報の全てを持つ染色体を構成する。
母親から23本父親から23本合計46本の染色体が人間をつくっている。
DNAは大体どんな動物でも構造はそれほど変わらない。
10のマイナス9乗m10億分の1mにいくとこれはイラストだが個々の原子や分子が見え始める。
10のマイナス10乗m100億分の1mにいくと原子の内部に入る。
原子は実はほとんど空っぽの空間なんだが驚くべき事に…こういう固体でも中はほとんど何もない空間なんだ。
実は原子の重さの大半は原子の中心部に集中していてそこに行こうとすると10万倍も中へと進まなければならない。
10のマイナス13乗mまで中に進んでやっととてつもなく密度の高い中心部原子核が現れる。
原子のほとんどの空間は空っぽなんだが私の手がこの机をすり抜けないのは机にたくさんのものが詰まっているからではなく机の原子核の周囲を回る電子が私の手の電子に反発しているからだ。
物同士がすり抜けない理由はすり抜けるのを防ぐだけの「力」が働いているという事なんだ。
もちろん今では私たちは原子核が陽子と中性子で構成されている事を知っている。
中性子は1932年に発見された。
それまでは陽子の方しか知られていなかった。
それらは10のマイナス14乗mで見る事ができる。
原子核はとてつもなく密度の高い存在だ。
もう一桁進むと個々の陽子が見え始める。
これは陽子がより小さな素粒子から構成されている事を表す図だ。
それは「クォーク」と呼ばれる素粒子で陽子はクォークから出来ている。
クォークには3種類の色がある。
色といっても私たちがそう呼ぶ事に決めただけだ。
このスケールを研究する事で我々が発見したのは量子力学と相対性理論両方を満たす数式を使わなければならないという事だ。
量子力学では素粒子は単なる粒ではなくなり波のようにも振る舞う。
粒のように振る舞うのと同時に波のようにも振る舞うんだ。
量子力学と相対性理論を同時に使った結果クォークが陽子の中にある唯一の基本素粒子だと分かったわけだ。
更にたとえ空っぽの空間であっても現れては消える揺らぎのようなものが存在する事まで分かった。
陽子の内側の空間はこんな状態になっている。
測定不可能なスケールで常に粒子が現れたり消えたりしている。
実はこのおかげで私たちは存在しているという事が分かっている。
君たちの質量のほとんど君たちの陽子の重さのほとんどはクォークからではなく現れては消えるこの「仮想フィールド」と呼ばれるものから来ている。
仮想フィールドのおかげで重さが生まれ原子核が安定し君たちが存在できているんだ。
さてもっと小さいスケールにもいける。
陽子の中を見る事ができるだけでなく更に小さいスケールにいけるようになったんだ。
それはなんと宇宙に作られた最も大きな機械を使って調べる事ができる。
これは大型ハドロン衝突型加速器の検出器の一つだ。
30km近い長さのトンネルの中で陽子を光速の99.999%にまで加速し正面衝突させる。
トンネルの内側には超伝導磁石が取り付けられている。
今や陽子の1,000分の1のスケールまで調べる事ができるんだ。
そしてこの巨大な機械を使う事で発見されたものがある。
それが2012年7月4日にその存在が明らかになった「ヒッグス粒子」だ。
ヒッグス粒子は私たちの存在の全てを担っているとされているものだ。
ヒッグス粒子がなぜ存在するかは謎だ。
だがだからこそ我々はより小さなスケールへの探究を続けたいと思っている。
というのもヒッグス粒子がなぜこのスケールで存在するのかが明らかにならないかぎり私たちがなぜ存在するのかも分からないからだ。
ヒッグス粒子が宇宙で突然生まれた事は分かっている。
でももしヒッグス粒子が初期の宇宙で宇宙全体に広がっていなかったら安定した物質は出来ず私たちも存在しなかっただろう。
私たちの存在が決して必然とは言えない事を示す一つの例だ。
ヒッグス粒子のありようがほんの少しでも違っていたら星や銀河や人間のいない宇宙になっていたかもしれない。
宇宙は人間のためにつくられたわけではないんだ。
さあ宇宙というものを見てきた。
ところで面白いのは10のマイナス20乗辺りから10の28乗m辺りまで見てきたがここである疑問がわく。
私たちはなぜ宇宙で最も大きいスケールと最も小さいスケールのちょうど真ん中辺りに位置しているのだろうか?単なる偶然なのかそれとも何か根源的な理由があるのか。
それはまだ分からない。
さて面白いのは「重力」が宇宙において人間のスケールから始まりより大きなスケール全てを支配しているという事だ。
たった一つの力を理解する事で人間のレベルから宇宙のレベルまでを理解する事ができる。
逆に人間のレベルから原子のレベルまでの世界を支配しているのが「電磁気力」だ。
この2つの力は私たちが日常生活で経験するあらゆる事に関わっている。
朝ベッドから起き上がる時に感じる力もこの部屋の電気についても。
しかし自然界にはより小さいスケールで働くあと2つの力がある。
「弱い力」そして「強い力」と呼ばれるものだ。
強い力はクォークの間に働く自然界で最も強い力だ。
驚くべき事に40年前には私たちがきちんと理解していたのはこれら4つの力のうち「重力」と「電磁気力」だけだった。
ミクロの世界で働く力は電磁気力しか解明されていなかったがここ40年でやっとこの3つの力を量子力学を使って理解できるようになった。
宇宙の空間と時間全てのスケールにわたって働いているのはたった4つの力だ。
驚くべき事は重力がその中で最も弱いという事だ。
朝起きた時真っ先に気付く力なのにこれはなぜか。
物理学者のリチャード・ファインマンがその理由を考えるためのいい例を挙げてくれているから君たちもやってみるといいかもしれない。
ビルの上から飛び降りるというものなんだが。
30mの高さから重力で地面まで加速される事になるがコンクリートの中の電磁気力が一瞬のうちに君を止めてしまう。
地球全体が君たちを引っ張る力つまり重力が30mの距離をもって君を加速させてもコンクリートを作る物質の電磁気力が1cmにも満たない距離で君を止めるんだ。
実際電磁気力は重力より10の40乗倍40桁ほど強い。
40桁だ!だから重力は地球のようにたくさんの物質がある時だけしか力を発揮しない。
地球全体が人間の体に対して働くからこそ私たちはようやく重力を感じるんだ。
一方個々の原子のスケールでは重力なんて誤差の範囲だ。
だからミクロの世界を理解しようとする時や加速器を扱う時は重力は無視する。
それほど重力は小さいんだ。
そして強い力は自然界で最も強い力で重力よりも45桁強い。
なぜここまで力の強さが異なるのかはいまだ解明されていないミステリーだ。
とてもいい質問だ。
重力や電磁気力を感じるのはそれが長距離に達する力だからだ。
君が今私に対して働かせている重力だってとても弱いけど0ではない。
でも強い力と弱い力は原子核のスケールでのみ作用するんだ。
ではなぜこっちは原子核のスケールのみで重力などは長距離に達するのか。
それは解明されている。
理由はヒッグス粒子だ。
例えば原子核のスケールでしか働かない弱い力を伝える粒子はヒッグス粒子の影響で原子核のスケールの距離しか届かない。
一方電磁気力と重力は重さのない粒子によってその力が伝えられている。
そのためその力は宇宙を自由に飛び交う事ができる。
ところが弱い力を伝える粒子はヒッグスの影響で質量を持つようになり届く距離が短くなるんだ。
ではなぜ質量を持つ粒子と持たない粒子があるのか。
それも分かっていない。
さて以上が「空間」についてだ。
最も長い時間を割いてきた。
もしまだ時間があればだが残りの時間で「物質」と「時間」について話したいと思う。
物質はとても簡単だ。
この部屋の中や自然界で見るあらゆるものはたった2種類の基礎的な素粒子から出来ている。
「レプトン」と「クォーク」と呼ばれる素粒子だ。
クォークが3つまとまって中性子や陽子を作っている。
レプトンの一つである電子がその周りを回っている。
つまり電子と陽子と中性子を合わせると原子が出来る。
全ての物質の基本的な構成要素はこれだけだ。
原子を並べ替えれば我々の知っている全ての物質を作り出す事ができる。
これは驚くべき事だ。
複雑な宇宙の全てにわたり物質はたった2種類の基本的な素粒子の組み合わせで出来ている。
なぜそうなのかも分かっていない。
最後に短く「時間」の話をしよう。
また10の累乗を使って時間の歴史を見てみよう。
横軸が時間単位は秒だ。
縦軸が宇宙の大きさ。
宇宙は膨張してきたからそれを遡りながら見ていこう。
宇宙の年齢は今10の17乗秒。
ざっと100億歳。
大きさは10の28乗cmだ。
この歴史の中でいくつか重要な時がある。
次のaからcだ。
aはビッグバンからおよそ10億年後に私たちの銀河系がつくられた時を表している。
bは太陽が形成された時。
cはビッグバンから137億年後の現在だ。
全てがこのスケールの中で起こったんだが横軸の時間は目盛り1つで4桁違う事を表している。
均等な目盛りではなく10の累乗のものさしで考えるのに慣れてほしい。
このグラフの事をより深く理解してもらうために他の重要な時間も示そう。
ビッグバンから数十万年たった時初めて原子が生まれた。
今後の講義で教える「宇宙マイクロ波背景放射」が出来た時だ。
更に遡ると原子核は宇宙がたった1秒の時につくられた。
この時の状態は加速器を使って再現し調べる事ができる。
宇宙誕生から1秒後宇宙は100億℃の熱さだった。
それを再現できるんだ。
陽子がつくられたのはビッグバンから1,000万分の1秒の時だがそれ以前の宇宙はクォークで満ちていてその後陽子や中性子が生まれた。
この事も実験で調べられるが更に高いエネルギーの機械を作ればビッグバンにより近づく事ができる。
ここがヒッグス粒子が宇宙全体に広がった瞬間。
現在調べる事ができる宇宙の最も初期の段階だ。
ビッグバンから100万分の1の100万分の1秒後の事で大型ハドロン衝突型加速器で研究されている。
理論を駆使すれば更に初期の事だって考えられる。
ビッグバンから10のマイナス35乗秒後の事。
重力以外の3つの力が統一されていたとされる頃の事だ。
こんな途方もなく初期の事なんかをまじめに議論している。
そのころは宇宙全体1,000憶の星や1,000憶の銀河全ての質量がバスケットボールよりも小さなサイズに入っていた。
ほとんど理解しがたいがそういう事なんだ。
こうして宇宙の歴史の事を考えてくると人間の歴史悲劇やロマンスなんていうのはほんのささいな事にすぎない。
宇宙の歴史では重要な事がさまざまな時点で起こった。
宇宙の空間宇宙の時間というスケールで話をする時人間の歴史なんて全く歴史と呼べるようなものではない事が分かる。
だから科学は人類の歴史よりもはるかに面白いんだ。
ここまで宇宙の旅について話をしてきた。
次回は私たちがどうやってここにたどりついたのかという話をするのでお楽しみに。
Thankyouverymuch.
(拍手)2014/06/20(金) 23:00〜23:55
NHKEテレ1大阪
宇宙白熱教室 第1回「入門編(1)宇宙のスケールを体感する」[二][字]

このわずか20年間で飛躍的な進歩を遂げた宇宙論。気が遠くなるほどの大宇宙から、原子、クォークなどが飛びかうミクロの世界へ。宇宙への大冒険へとあなたをご招待する!

詳細情報
番組内容
宇宙はどのようにして生まれ、今後は一体どうなるのか? 宇宙論はこのわずか20年間で、過去1000年間より驚くほど飛躍的な進歩を遂げた。それを理解するためには第一に、宇宙論の3つのフィールド、空間、時間、物質を理解し、宇宙のスケールを体感することが肝心だ。気が遠くなるほどの巨大な宇宙の世界から、原子、クォークなどが飛びかうミクロの世界へ。目くるめく宇宙への大冒険へとあなたをご招待する!
出演者
【出演】アリゾナ州立大学教授…ローレンス・クラウス

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
趣味/教育 – その他
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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英語
サンプリングレート : 48kHz

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