1サイエンスZERO「心と体を支配する!神秘の物質ホルモン(2)オキシトシン」 2014.06.21

今日の「サイエンスZERO」その始まりはある感動的な現場から。
うあっ…。
こっちに向かって。
人生の一大イベント…母親が我が子に感じるいとおしさ。
まさに親子の絆ですね。
でもこんな人と人との絆が実はある化学物質によって操られているって知ってました?その物質とは脳の中にあるこの細胞が長い突起の先から出すホルモンの一種。
その名も…今日の主役です。
このオキシトシンが脳に作用し私たちの人間関係にすんごい影響を与えている事が最新研究から分かってきたんです。
例えば…。
けんかしているカップル。
でも…。
あれあれ?たちまち仲直り。
更にこのオキシトシンなんと…あなたの意思だと思っていたあの人への愛情や信頼まで実はホルモン次第だったなんて!一体オキシトシンって何なの!?
(テーマ音楽)うわ〜今日のスタジオすごいかわいいですね。
ラブリー。
今日はテーマが「ホルモンと愛情の関係」という事で愛がいっぱいっていう趣向ですね。
なるほど。
それにしても親子の間とか男女間の愛情がホルモンによって操られてるって本当ですかね?ねえ。
ちょっとビックリですよね。
昔から知られていました。
それがどうも最近…活発に研究が進んでるんですよ。
今日は「ZERO」ならではの面白い実験で深く探ってみたいと思います。
うわ〜ワクワクしますね。
何ですか何ですか?早速これを見て下さい。
オキシトシンを鼻から吸い込んで脳に送り込むためのスプレーなんですよ。
そんなのあるんですか?このスプレーでオキシトシンを吸い込むと男女の人間関係がガラリと変わってしまう。
こんな不思議な実験があるんです。
ここでは男女のカップルを集めてある実験を行っています。
実験に使うのがこちら…オキシトシンは鼻から吸うと脳にまで届きます。
オキシトシンがカップルの行動にどんな影響を与えるか調べようというんです。
50組のカップルを2つのグループに分け一方はオキシトシンなしもう一方はオキシトシンを吸ったあとで実験を行います。
…で何をするかというと現在2人が抱えている問題について真剣に話し合ってもらうのです。
その様子を研究者が別室で見守ります。
注目するポイントはこちら。
愛情を感じさせる言動はプラスポイント。
逆に…まずはオキシトシンを吸っていないカップルから実験開始。
すると間もなく…。
あらあら…けんかになっちゃった。
更に目を合わせるどころか顔を背けちゃった。
もう愛情どころではありません。
続いてオキシトシンを吸ったカップルで実験です。
こちらも徐々に言い争いに発展と思いきや…。
あっ!彼の手が彼女に触れました。
出ました愛情の証し。
ボディータッチ!更に…。
じっと見つめ合ってる!笑顔までこぼれています。
最後は仲直りで終わりました。
こうした実験をおよそ50組のカップルで行った結果です。
オキシトシンを吸わなかった半数のカップルは平均点がマイナス。
一方オキシトシンを吸ったもう半数のカップルは平均点がプラスになりました。
オキシトシンって愛情を促す魔法の薬みたい。
え〜!スプレーしただけでカップル仲直りしちゃいましたよ。
これ夫婦げんかにちょっともう特効薬なんじゃないかなと。
気になりますよね。
そこのところ専門家に詳しく伺っていきましょう。
先週に引き続き麻布大学獣医学部の菊水健史さんです。
実験でカップルが仲直りできたのは本当にオキシトシンが効いたからなんですか?スプレーを使ってオキシトシンを投与するという実験は欧米を中心に最近非常に盛んに行われるようになってきました。
例えば…じゃあオキシトシンの働きは愛情の強さを強めるっていうだけじゃないんですね。
例えば投資ゲームというゲームを被験者の方々にやって頂くと。
オキシトシンのスプレーをすると「この人は信頼できるから」と言ってたくさんのお金をその人に預ける訳ですね。
その預けるお金の額が増えてくると。
へえ〜!使い方次第では怖いですよね。
何かヨーロッパでは悪用されたら困るっていう事でオキシトシン・スプレーの販売に対して反対運動も起きてるみたいですね。
ところでオキシトシンって人間の体内だとどこから出てくるんだろう?オキシトシンを出す細胞いわゆるオキシトシン細胞は脳の視床下部という所にあるんです。
思春期に男女の体を変化させる最初のホルモンが放出されるのも視床下部でしたよね。
へえ〜。
そのオキシトシンと脳をつなぐ謎が最新の研究で解明されてきているんです。
訪れたのは…ここで2年前オキシトシンについて大発見がありました。
これは…特殊な薬品で処理します。
すると…あっ縮んだ!しかも目盛りが透けて見えます。
脳が透明になったんです。
この透明な脳に特殊な光を当て脳の奥深くにあるオキシトシン細胞を画像で捉えようというのです。
撮影した画像を重ねて脳を立体的に表しました。
その内部明るく光らせた部分が初めて鮮明に捉えられたオキシトシン細胞の塊。
その数8,000個。
その細胞から下に細長い突起が伸びています。
その先にある血管を伝って体中にオキシトシンを送り込んでいるのです。
でも注目すべきは別の方向へ伸びる突起です。
体に向かうのとは別に脳の中に直接オキシトシンを送り込むルートが存在していたんです。
へえ〜オキシトシンって脳に直接放出されてるんですね。
こういうホルモンって珍しいんですか?脳の視床下部から放出されるホルモンっていうのは血中に向かってホルモンが分泌されます。
しかし血中に乗ったホルモンというのは脳には入っていきません。
脳の中の血管には血液脳関門といわれるフィルターのようなものが入ってます。
血中に乗ったホルモンが脳の中に作用するのをブロックするという効果を持っている訳ですね。
しかしオキシトシン細胞というのは突起を伸ばして脳の中に分泌するというのを獲得してきたという事が分かってます。
でもオキシトシンって脳のどの部分に届いて人間の愛情を変化させたりしてるんですかね。
脳に放出されたオキシトシンは一体どこでどんな働きをするのか。
その答えを教えてくれたのはこんなかわいらしい生き物。
ハタネズミというネズミの一種です。
こちらは山に住む…雄と雌はいつも別行動でペアを作る事はありません。
一方こちらは見た目は同じですが平原に住む…雄と雌はいつも一緒で生涯同じ相手と添い遂げるという全く違う習性があります。
子育てだって雄と雌が協力し合って行います。
夫婦や家族間の強い愛着行動が特徴なのです。
この2種類のハタネズミ同じ種なのになぜこんなに違うのでしょうか。
オキシトシン研究の世界的な権威ヤング博士は2種類のハタネズミの脳を徹底的に調べました。
これはハタネズミの脳の断面。
あるものを黒く染めてあります。
それはオキシトシンを受け取る受容体です。
受容体とは細胞が持っているタンパク質。
ホルモンが受容体にくっつくと細胞が反応しその活動を変えます。
オキシトシンの受容体があるという事はその細胞がオキシトシンによって変化するという証拠です。
見ると山岳ハタネズミに比べ平原ハタネズミの脳では特に側座核と呼ばれる場所に多くの受容体が集中しているのが分かります。
この場所にある神経細胞がオキシトシンを大量に受け取っているのです。
ほう〜。
側座核って何をする場所なんですか?
(菊水)脳の報酬系と呼ばれる部位にあたります。
ここにオキシトシンが作用するとそこの神経細胞が興奮すると。
相手に対して執着を持つようになるという事が分かりました。
一緒にいたいという気持ちが強くなるという事です。
側座核が強く働くだけでそこまで行動って変わっちゃうもんなんですか?もう一つ大事な脳の部位がありましてそれは…
(菊水)オキシトシンが作用するとその興奮が下げられると。
つまり怖くない。
安心できる。
リラックスするようになると。
目の前の相手とも仲良くできるという事が分かってきてます。
人間の場合もやっぱり側座核とそれからへんとう体にオキシトシンが働くんですか?そうですね。
でもただそれだけではなくて人間みたいに複雑な脳機能を持っている生物というのはもっと違う部位にも作用し始めたというふうに考えられます。
オキシトシンの機能も多様化してきていると。
あ〜そうなんだ。
これは魚類のオキシトシン細胞になります。
長く伸びた突起から放卵する際にだけオキシトシンが出て体の中だけ働くと。
人類の祖先のオキシトシン細胞も魚類と同じような形をしてたというふうに考えられてます。
ところがこれがは虫類や鳥類になってくると枝が横にポイと伸びてくる訳ですね。
母性子どもを大事に思うような場所にオキシトシンが作用するようになったと。
更に哺乳類ではこの突起が更に分化していって男女の愛であったりとか友達同士の信頼関係であったりと。
そういう所をつかさどる脳にもオキシトシンが作用するようになったと考えられてます。
オキシトシンの働きも先週の性ホルモンと同じように子孫を残すためっていうのがやっぱり出発点な訳ですね。
おっしゃるとおりですね。
人間の場合は発育にすごく時間がかかる訳ですね。
その間お母さん一人で育て上げるのは非常に大変になると。
そこにはお父さんが関わってきたりとか周りの友人から手助けをもらったりすると。
そういうところもオキシトシンが機能してるんじゃないかなというふうに考えられてます。
でもそうやっていろんな人に対して絆を強めるようになったら例えば竹内さんの奥さんがオキシトシンを吸ってほかの異性に愛情感じちゃったりとか…。
それは困りますよね。
困りますよね。
それを確かめるこんな面白い実験が行われているんです。
最近ドイツのボン大学で興味深い実験が行われました。
実験に参加したのは結婚している男性30人。
そして1人のうら若き独身女性。
若い女性は既婚男性との距離をジリジリと縮めていきます。
一体何をするつもりなの!?あれ?女性が男性との距離を精密に測っています。
実はこれ相手がどこまで近づくと違和感を感じるかその距離を調べる実験。
15人の男性の平均は……とここで登場したのはあのオキシトシン・スプレー。
参加した男性30人のうちもう半数にはオキシトシンを吸ってもらい同じ実験を行いました。
オキシトシンは目の前の人に愛情を感じさせるホルモン。
…って事は距離が更に縮まるのでは?あらさっきより遠い?結果は…逆に距離が広がっちゃいました。
一体どうして?えっ不思議。
距離縮まると思ったのに。
パートナー以外は寄せつけない働きがあるって事…?オキシトシンが浮気防止薬になるっていう事ですかね。
部外者に対してはあまり仲良くなっては困ると。
海馬は脳にある記憶の中枢です。
常日頃放出されるオキシトシンはこの海馬にも届いています。
すると海馬の中では何が起きるのか?絡み合ったケーブルのように見えるのは神経細胞から伸びる樹状突起です。
表面にはスパインという出っ張りがたくさんあります。
ここにオキシトシンが作用するとスパインが動き始めほかの神経細胞の突起とつながります。
こうしてオキシトシンは新たな神経回路を生み出します。
そしてオキシトシンが多く出た時の記憶つまり配偶者や恋人との愛情の記憶を日々脳に深く刻みつけていくんです。
そこへ実験でオキシトシンを吸い込むと何が起こるんでしょう?ハールマン博士の仮説では吸い込んだオキシトシンによって海馬に刻まれたパートナーへの愛情の記憶が呼び覚まされそれがほかの女性に対する脳の興奮を抑えて女性を遠ざけようとしたと考えられるんです。
そこまでオキシトシンにコントロールされてるんですか。
引き付け合ってお互いに交流を持って密な関係が形成されていく過程でオキシトシンがだんだん出てくると。
…という事は例えばよく浮気しちゃう人っていうのはドーパミンはたくさん出るけどオキシトシンはあまり出ないとか…。
(菊水)そうですね。
おお〜そうですか。
そうなんですか。
でも平原ハタネズミみたいないちずな人がいるといいなって思いますね。
奈央さんそうですね。
出会えるといいです。
愛情の強さを左右する不思議なホルモンオキシトシン。
実は最近の調査である意外な事実が明らかになってきました。
ここにはスウェーデン国民30万人分の遺伝子情報が保管されています。
2年前この遺伝子バンクを使って行われたある調査に世界の注目が集まっています。
解析されたのはオキシトシンに関わる10種類ほどの遺伝子です。
実はこれらの遺伝子がある特定のタイプだとオキシトシンやそれを受け取る受容体が減る事が分かっています。
調査の結果こうしたオキシトシンの働きが弱い遺伝子タイプを1つ以上持つ人が実に全体の4割を占めていたのです。
調査を行ったワラム博士です生まれつきこの遺伝子タイプを持つ既婚者に対し夫婦生活に関するアンケート調査を行いました。
その結果夫婦生活の満足度や夫婦の協調性などの項目でこの遺伝子タイプを持つ人の方がいずれもポイントが低い事が分かりました。
更に過去1年間で離婚の危機があった人もこの遺伝子タイプを持つ人の方が5%多かったのです。
へえ〜。
それってこう…進化の過程でオキシトシンが少ない遺伝子のタイプの人たちも何かいい面があったという事ですか?そうですね。
高いだけではなくて低い事にもちゃんと意味があるだろうと。
(菊水)そうですね。
そういうメリットもある訳ですね。
お〜。
いろんなタイプがいる事っていうのが大事なんですね。
でも結局…最近の研究で何か自分で行動するとかいろんなアクティビティーに参加するとオキシトシンの量が増えたりするという事も分かってます。
そうなんですか?そうなんです!そのオキシトシンを増やす方法を研究しているのがこちら…スタッフにまでハグをするやけにフレンドリーな人ですが実はこうした行動にオキシトシンを増やすカギがあるっていうんです。
博士はいろんな行動をした前後で血液中のオキシトシンがどれだけ増えるかを調べています。
その結果オキシトシンが増えたのがまずハグ。
ふれ合うだけでも効果があるといいます。
会話をする時にも相手の目を見るとオキシトシンが増加します。
相手の立場や気持ちを想像すると更に効果があがるそうです。
初対面の相手とだって大丈夫。
スポーツやゲームなど何かを一緒にするだけでオキシトシンが数十%増える事が分かっています。
更に一人でもオキシトシンを増やせる方法が!それは…登場人物に共感する事でオキシトシンが増えるんですって。
ちょっとした事で増えるんですねオキシトシン。
ちょっとビックリですよね。
私結構人見知りなので新しい現場行った時に最初にゲームとかやると一気に距離が縮まるんじゃないかなって思いましたね。
確かに…。
オキシトシンを出す行動を心掛けると脳内でオキシトシンの分泌量が更に増えてきます。
(菊水)そうすると受け手側の細胞はたくさんのオキシトシンを受けられるようになる訳ですね。
非常に興味深い事に…
(菊水)更にその自分自身が持っている受容体までも増やしていく。
こうやって作用が強くなるという事が分かってきてます。
すごい仕組みですね。
オキシトシンってめちゃめちゃすごいやつですね。
すごいですね。
これまで愛情とか絆っていうと感覚的に捉えてましたけど現在は科学的に定量的にそれを測る事ができるって事ですか?そうですね。
私たちが漠然としか見えなかったもの心の動きっていうのも実はもう数字にして観察する事ができるようになってきてると。
そんな事までできるんですね。
菊水さん2週にわたってありがとうございました。
ありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに。
2014/06/21(土) 12:30〜13:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「心と体を支配する!神秘の物質ホルモン(2)オキシトシン」[字][再]

親子や男女の愛情を操る驚異の物質!それが脳内で分泌される「オキシトシン」というホルモンだ。男女のケンカを仲直りさせたり、浮気防止の薬にも?愛の謎に科学で迫る!

詳細情報
番組内容
親が我が子をいとおしく感じたり、夫婦や恋人が相手と離れがたいと感じたり…そんな人と人の愛情が、実は脳内で分泌されるホルモン「オキシトシン」によって操られていた!このホルモンを鼻から吸入すると、男女のケンカも仲直り。さらに、なんとパートナーの浮気防止にも効果あり?最新科学でオキシトシンが人間の愛情や信頼を操るメカニズムを徹底究明。ちょっとした日々の行動でオキシトシンを増やす意外な方法も紹介する。
出演者
【ゲスト】麻布大学教授…菊水健史,【司会】南沢奈央,竹内薫,【キャスター】江崎史恵,【語り】土田大,【声】宗矢樹頼,樫井笙人,棟方真梨子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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