森村誠一の終着駅シリーズ・悪の魂 2014.06.21

(鳥の鳴き声)
(見友子)「眠れ眠れ私の中の悪の魂よ」
(友子)「私はそう祈りながら男を埋めた土を掘った」
(友子)「私のすべての悪の魂をそこに葬るために」「永遠にここで眠らせるために」「眠れ眠れ」「私の中の悪の魂よ」「そう祈りながら」
(パトカーのサイレン)
(無線)
(大上刑事)見友子38歳。
大型書店の末広堂の新宿支店勤務。
死因は絞殺。
背後からやわらかい布状のもので一気に…。
(大上)現金やカード類等々はそのままですから物盗りの犯行とは思えません。
(大上)顔見知りの犯行。
そう見ていいんじゃないでしょうか?
(牛尾正直)犯行時間は?
(海野)えー昨日6月3日午後10時頃から午前0時頃にかけてです。
(山路刑事)モーさん。
ガイシャは独身で武蔵野市内の賃貸マンションでひとり暮らし。
親兄弟はなく身寄りはいとこが一人だけだそうだ。
中野に住んでるのですぐ署の方に来ると言ってた。
わかった。
それにしてもなんだか行儀のいい静かなホトケさんだな。
同じ事を感じていました
行儀のいい静かなホトケさんだと…

(パトカーのサイレン)
(升田美奈子)友ちゃんは小さい頃から本が好きで本ばっかり読んでて。
引っ込み思案っていうか人見知りをするっていうか人付き合いがすごく苦手だったんです。
私たち以外は気を許すような友達なんかはほとんどいなかったと思います。
どなたか特定に付き合ってた男性は?いないと思いますそんな人は…。
でもどうして…?誰が友ちゃんを…!
(升田修一)美奈子…。
お疲れのところ申し訳ありませんが見さんの自宅を調べさせて頂きたいのでもう少しお付き合いください。
(梅谷千恵)あの…私管理人室におりますので。
ご苦労さまです。
本はこれだけですか?
(升田)ええ。
とても本好きだと伺ってたし家の中もしかしたら本で溢れ返ってるんじゃないかと思ってたもんですから。
(升田)近くに図書館があるので読みたい本はそこで読むとそう言っていました。
ですからここにある本は彼女にとって特別な思い入れのある本ばかりなんです。
何度でも読み返したい本。
いつでも手に取れるよう手元に置いておきたい本。
とても大事にしてました。
ここにある本は。
詳しいのねあなた。
私よりあなたの方がよく友ちゃんの事知ってるみたい。
君は本を読まないから…。
ご主人も本がお好きなんですか?ええまあ…。
いつも2人で本本本。
趣味が同じだったからすごく仲がよかったんです主人と友ちゃん。
私が誤解するぐらい。
美奈子…。
あらこの本…。
(美奈子)これ確か今年の現代なんとかって賞を取った小説よね。
現代文芸新人賞。
結局友ちゃんなんの賞も取れなかったわけだ。
作家を目指してたんですか?見さん。
現代文芸新人賞っていうのが一番権威があるから出来たらその賞を取りたいって2人でその賞を目指してたのよねあなたと友ちゃん。
昔の話だよもう。
(美奈子)残念ね取れなくて。

(坂本課長)いとこ夫婦?なんだかちょっと気になります。
奥さんがガイシャと夫との関係を疑っている節がありますし…。
(海野)失礼します。
解剖の結果が出ました。
死因は気道圧迫による窒息死。
まあ絞殺には間違いないんですが犯人にとってこの犯行は骨折り損のくたびれもうけだったようですね。
骨折り損のくたびれもうけ?はいガイシャは末期がんの状態でどう頑張ってもあと1か月か2か月の命だったと…。
知ってた?
(石田)まだ30代で若いしショックも考えて出来る事なら身内の方にと思ったんですが…。
そういえば…あの時なんであんな事を言ったんだろう?あの人…。
罰が当たった。
「罰が当たった」か…。
牛尾さんの読み当たってるんじゃないですかね?ガイシャと升田修一との関係。
不倫か?いとこの亭主を寝取ったわけですからその後ろめたさで…。
生命保険?10年前にいとこの升田美奈子を受取人にして1億の生命保険に加入してる。
(大上)1億!?
(西谷刑事)升田美奈子に頼まれて仕方なく加入したらしいんです。
となるとちょっと引っかかるな。
1億円の受取人の升田美奈子が。
それが升田美奈子には保険金はびた一文入らないんです。
はあ?
(山路)見友子は今年の3月5日に保険金の受取人を変えてるんです。
新しい1億円の受取人は川名恵。
身内ではなく知人だそうだ。
(川名恵)保険?見さんは1億円の生命保険に加入しててその1億円の受取人を川名恵さん…奥さんに指定してるんです。
(恵)あっ…すいません。
大丈夫ですか?すいません…。
すいません…。
奥さん。
はい。
なぜ1億円の受取人を奥さんに指定されたのか何か心当たりありませんか?ありません。
でしたら3月5日という日付に何か心当たりありませんか?
(恵)3月5日ですか?ええ。
その日に見さんは1億円の受取人を身内の方から川名さんに変更してるんです。
見さんは命の期限を切られていたそうなんです。
命の期限?末期がんの状態で去年の8月の時点であと半年から1年の命だろうと宣告されたそうなんです。
ですから受取人を川名さんに変更した3月の時点では見さんは自分はもうそんなに長くは生きられないだろうという事は知ってたはずなんです。
知ってた上で下した決断。
これは見さんの強い意思という風にも思えるんですが本当に心当たりおありになりませんか?ありません。
私があの人に会ったのは道を聞かれたあの時1回だけです。
そうですか。
(大上)失礼ですがご家族は?去年の…去年の1月に夫と離婚しました。
中2の娘が一人います。
今私の実家仙台に預かってもらってます。
あの…。
本当ですか?あの人そんなにお体が…。
どんなに頑張ってもあとひと月かふた月。
解剖医はそう言っていたそうなんです。
そうですか…。
たった一度だけしかも道を聞いただけの人物に1億円の保険金
見友子と川名恵
2人の女性の間には何か隠された接点があるのではないか
川名恵も捜査対象者となり身辺捜査が始められました
この女性見覚えありませんか?
(西谷)この女性なんですけどあちらのブティック美奈子に出入りしているのを見かけた事ないですかね?見た事ないですね。
(大上)すいません。
この方お客さんでいらっしゃいませんか?この方なんですけどお客さんで見た事ないですか?
事件当夜の被害者の目撃情報が出たのは事件発生から5日後の事でした
付近にある喫茶店の防犯カメラ映像です。
それにばっちり。
(山路)ガイシャの見友子です。
8時7分店に入っています。
(西谷)早送りします。
誰かと待ち合わせをしてたのかな?いや一人だったそうです。
紙袋を持ってますね。
(山路)店を出たのが9時26分。
1時間以上も一人でこの店にいたのか。
店へ入ってきた時から出て行く時までずっと一人で本を読んでたそうです。
『悪の魂』っていう本。
『悪の魂』?この本…。
どういう事なんだろう?どうした?ガイシャの自宅の本箱にも『悪の魂』という本があったんです。
時間的に考えるとその時読んでた本をあの夜自宅に持ち帰ったとは考えられません。
となると同じ本を2冊持っていた…。
そんな本の事より問題はこれ。
この紙袋だ。
そんな紙袋は現場にはありませんでしたよね。
現場にはガイシャが読んでいた『悪の魂』の本もなかった。
犯人がその紙袋の中に入れて持ち去ったって事に…。
本屋に山積みになってる本持ってってどうするんだよ。
その本はついでに持って行っただけであって紙袋の中に何かが入ってたんだ。
犯人に繋がる重要なものが何か。
だから犯人は紙袋を持ち去った。
そう考えていいんじゃないのか?よし明日からはその紙袋だ。
現場付近のゴミ箱の徹底的な再捜査。
並びに言うまでもないが目撃者だ。
全員でかかってくれ。
(一同)はい!
(踏切の警報音)
(牛尾澄枝)あらその本買ったの?うん。
やだ私持ってたのに。
ええ?新聞の書評欄にね面白いって書いてあったから。
ほらついでにこっちも買っちゃった。
この作者の受賞後第一作。
『猫の昼寝』…。
『悪の魂』と比べると随分のんびりしたタイトルだな。
うん。
『悪の魂』読んだらね面白かったからついこっちも買っちゃったんだけど…。
つまらなかったのか?二作目。
ううん別にそういうわけじゃないけど。
ああ…でもどっちかっていうとね私は『猫の昼寝』の方が好きかな。
なんていうのかな…『悪の魂』の方はすごくギラギラした骨っぽいなんかねアクの強い文章なのよ。
でも『猫の昼寝』の方は文章がデリケートで優しくて。
なんだか読んでて同じ人が書いた作品には思えなかったの。
新聞の書評欄にも出てたけどまさに水木晶一体何者か?って感じよね。
男なのか女なのか老人なのか若者なのか。
どういう事だ?それ。
この作者ね一切マスコミに出てこないの。
授賞式の時にも短いコメントを出しただけで年齢も性別も一切公開してないの。
私は夫婦かカップルだと思ってるんだけど。
2人で書いてるって事か?そう。
男の人の方が『悪の魂』を書いて女の人の方が『猫の昼寝』を書いている。
そんな気がするんだけどね。
ふーん…覆面作家か…。

「人は誰しも“善の魂”と“悪の魂”を持っている」
「“善の魂”だけの人間はいないし“悪の魂”だけの人間も又いないのではないだろうか」
それがこの本の書き出しでした

(牛尾の声)3月5日という日付に何か心当たりありませんか?3月5日…。
(本宮勝寿)ちょっと失礼します。
失礼ですが新宿西の?ええ。
牛尾と申します。
大上です。
ああやはりそうですか。
なんとなくわかるんですよ警察の方。
失礼しました。
弁護士の本宮といいます。
本宮さんはもしかしたら見さんの保険の事で?そうなんです。
升田さんご夫婦から相談されまして。
ですがどういう事なのかさっぱり…。
警察はその辺の事情はもう…?いえ…我々も全く…。
そうですか…。
見さんは余命宣告を受けられていたそうですね?かなり悪かったようです。
升田さん夫婦もかなりショックを受けてたようです。
なぜそんな大事な事を自分たちに話してくれなかったのかって。
もっとも保険金の受取人を変えられた事の方がショックだったようですが。
やはりご存じじゃなかったんですね。
升田さん夫婦はその事を。
あの…私そろそろ出掛けなくちゃいけないんですけど。
じゃあ奥さんまた相談に上がりますのでよろしくお願いします。
では。
お忙しいのに申し訳ありません。
わたくしの方は歩きながらでも構いませんので。
お忙しいのに申し訳ありません。
見さんの事はこの前お話しした以上の事は何も…。
その事なんですが見さんに道を聞かれたのは去年の11月の初め頃だったとおっしゃいましたね。
ええそうですけど。
たった1回しかも道を聞かれただけの人の顔を半年も経ってるのに川名さん覚えていらっしゃった。
何か強い印象のようなものがあってそれで覚えてらっしゃったんじゃないかと思ってそれで…。
そんな事ありません。
ニュースを見てもしかしたらあの時の人じゃないかってそう思っただけです。
(携帯電話)すいません。
もしもし。
すいませんはい。
申し訳ありません。
30分ほどで…はい。
申し訳ありません。
あの…遅れられないんです。
もういいですか?似てる?ええ。
『悪の魂』の主人公の女性と被害者の見友子が似てるというか重なるというか。
主人公の女性の職業書かれてませんけどこういう描写があるんです。
「部屋にはいつも白い花を飾った」「白は私の善の魂の色でもあるからだ」30代半ばで本が好きで部屋にはいつも白い花を飾って…。
その事がどうにも引っかかって前へ進めない感じなんです。
(田崎)ああモデル問題ですか。
最近多いんですよね。
どうぞ。
すいません。
水木先生には確認を取りましたけど登場人物は3人ともモデルは存在しないという事でした。
そうですか…。
この作家の方は男性なんですか?それとも…。
申し訳ありませんそういう事も…。
そうですか。
そういえばその事では本宮さんに随分嫌味を言われたなあ。
本宮さん?弁護士の本宮勝寿です。
本宮弁護士がどうしてそんな事を?わが社で『BooK』という月刊誌をやってまして…。
戸川君『BooK』を1冊持ってきて。
(戸川由紀)はい。
本宮さんはとにかく本の好きな人でしてね。
わが社の『BooK』に「私の十冊」という連載対談をやってもらってるんです。
今月号です。
サンキュー。
えーと…あっこれですこれです。
どうぞ。
どうも。
(田崎)政治家からお笑い芸人まで本好きを自称する人にその人の10冊を選んでもらって本宮さんと対談してもらうっていう企画なんです。
『悪の魂』が出た直後から本宮さん水木先生と「私の十冊」をやりたいからなんとかしろって何度も何度も連絡してきましてね。
でも水木先生は絶対NGだって言うし本当参りました。
『悪の魂』を2冊持っていたんだから…。

(千恵)刑事さん。
まだ犯人捕まらないんですか?ええ…。
作家になるのが夢だったんですよ見さん。
もうだいぶ前の話になりますけど「コンクールに出した小説が最終選考に残った」ってそれは嬉しそうに…。
(ため息)なんであんないい人…。
この2〜3か月なんだか元気がなくてどこか悪いんじゃないかなって心配してたんです。
でも亡くなられたあの日はとっても元気で「会社ずる休みしちゃったの」って。
だから今日一日のんびり過ごそうと思って。
お掃除してお洗濯してお花飾って一番好きな本を読んで。
それからゆっくり眠るの。
ゆっくり…。
ゆっくり…。
一番好きな本…。
だから2冊…。
(本宮)同じ本を2冊ですか?本宮さんが本好きだと伺ったものですから。
本好きな人は同じ本を2冊買うという事はよくある事なのかどうか教えて頂きたいと思いまして。
どうなんでしょうね…。
まあそういう人もいるとは思いますが…。
そうですか…。
申し訳ありませんがもう一つだけ。
本宮さんがナンバーワンに推してらっしゃる『魔術師の孤独』…。
ああ…。
この本はどういった内容なんですか?う〜ん…ひと口で言うのは難しいですね。
でもどうしてそんな事を?実は見友子さんの部屋から本が1冊消えてるんです。
その本がもしかしたらこの『魔術師の孤独』という本なんじゃないかと思って。
お読みになってないんでしたらお読みになるべきですよどうぞ。
ああどうも。
外国のものはどうも苦手で…。
失礼します。
その本が事件と何か関係があるんですか?いえいえ…ただなんとなく気になって。
お〜…蔵書印ですか。
ああ。
私は婚姻届と言ってますが。
婚姻届?一生連れ添う覚悟が出来た本だけに。
まあ「私の十冊」はもちろんですが蔵書印を押してる本は門外不出なんです。
この本たちが外に出る日は私が死んだ日だ。
亡くなった日?家内に言ってあるんです。
死んだらお棺に入れてくれって。
そしたら行き先が天国だろうと地獄だろうと退屈せずに楽しくいけるからって。
本当に本がお好きなんですね。
ありがとうございました。

『魔術師の孤独』そして『悪の魂』2冊の本が事件に絡んでいるという確証は何もなく捜査の方も一向に進展を見せませんでした
そういえばあの保険金の1億受け取るんですかね?あの奥さん。
(そばをすする音)川名恵。
え?テレビ…。
(記者)「…何か特別な事情がおありになったんですか?」
(恵)「ええまあ…」
(記者)「差し支えなかったら聞かせて頂けませんか?」牛尾さんあの原作者って…!川名恵。
えっ!?あの奥さん…!
(記者)デビュー作と二作目の作風ががらりと変わりましたが?『悪の魂』と『猫の昼寝』の違いですか?
(記者)「別の人が書いてるんじゃないかっていう評論家の先生方もいらっしゃるようですが」「多重人格なんです私」
(記者)「それは事実ですか?」「それとも比喩としての表現ですか?」「書きたいテーマ書きたい人物を絞ったらその人になって書き切る…」
(本宮理子)あなたごめん。
時間だから出掛ける。
うん行っといで。
(恵)「…『悪の魂』はああいう形になり『猫の昼寝』はああいう形になりました」「単にそれだけです」「あっカルチャースクールに通っていました」「大日新聞さんで行っている“あなたも小説家になれます”という…」この女…あの女よ!「ありがとうございます」本宮先生が写真を見せてくれた友ちゃんの1億円の受取人の!
(美奈子)そうよ間違いないわ。
あの女よ。
私から1億円盗んだ川名恵。
絶対…絶対取り返してやる!1億円。
(恵)「幸せいっぱいです」見友子の在籍はなしか。
見友子と川名恵2人の接点は絶対にここそう思ったけど外れでしたね。
なんだか光と影みたいだな。
見友子と川名恵は…。
作家になりたいという同じ夢を抱いてた2人なのに見友子の方は病気になり命の期限を切られ作品なんか何一つ残さずあげくの果てに殺されてしまったというのに…。
川名恵の方は『悪の魂』を引っ提げてまるで見友子が死ぬのを待ってたみたいに華やかな表舞台に…。
死ぬのを待ってたみたいに…?死ぬのを待ってた…?なんだか読んでて同じ人が書いた作品に思えなかったの。
(記者)別の人が書いてるんじゃないかっていう評論家の先生方もいらっしゃるようですが。
別の人間…。
もうだいぶ前の話になりますけど「コンクールに出した小説が最終選考に残った」ってそれは嬉しそうに…。
牛尾さん?これがコンクールで最終選考に残った作品です。
私も1冊頂いて持ってるんですよ。
村美砂というのは?見さんのペンネームだそうです。
もう7年前になりますか…。
あの時は本当に嬉しそうだったわ見さん。
最終選考に残っただけで受賞はもちろん佳作にも入らなかったんだけど私嬉しくて嬉しくて!知り合いの印刷屋さんに頼んで本にしてもらったの。
たった5冊しか出来なかったけどなんか気分はもう大作家。
で管理人さんにも1冊と思って。
へえ嬉しい!ありがとう。
盗作?
(大上)『悪の魂』は川名恵が書いたものじゃなく被害者の見友子が書いたものなんじゃないかって…牛尾さん。
「もしかしたら」という思いは「やはり」に変わり出し始めていました
漢字の使い方句読点の打ち方送り仮名の振り方
素材は全く違うものの『悪の魂』と見友子の書いた『白い部屋』にはいくつもの共通点がありました

この小さな白い部屋でひとりの女が生きていたのだと思いました
本を読み…
花を飾り…
物語を紡ぎ…
そしておそらく秘められた恋をして…
秘められた恋…。
「行先が天国だろうと地獄だろうと…」
(堺)死因はおそらく転落による全身打撲。
7階の自宅ベランダあそこから転落したものと思われます。
死体を発見して通報してきたのは升田美奈子の夫と弁護士の本宮勝寿です。
本宮弁護士…?
(堺)本宮さん。
(本宮)はい。
(本宮)あ…。
驚きました。
まさかこんな事になるなんて…。
どういった状況だったんですか?例の保険金の事で今晩9時にここでご夫婦と打ち合わせをする事になってたんです。
(升田)美奈子!?美奈子!美奈子!
(本宮)升田さん?
(升田)美奈子!
(本宮)升田さん。
(升田)あ…先生!美奈子…美奈子下…地面に…!あ…救急車…救急車!
(堺)それがこれです。
ん?「あなたごめんなさい」「私あなたと友ちゃんの事を疑ってました」「友ちゃんが憎かった。
もうこうするしかありません」「許して下さい。
美奈子」
(堺)奥さんの字に間違いないそうですし遺書と見ていいんじゃないですかね。

東中野署は升田美奈子が見友子を殺害して自殺そう結論づけました
納得出来ませんでした
見友子を殺して自殺したとしたら升田美奈子はなぜあの遺書にはっきりと自分が殺したと書かなかったのか
川名恵はなぜ1億円の受取人になったのか
そして見友子が書いたと思われる『悪の魂』はなぜ川名恵の名前で発表されたのか
罰が当たった。
罰…?罰…。
まさか…。
一つの疑惑が湧き上がっていました
『悪の魂』に描かれた殺人は物語などではなく現実に起きた殺人を描いたものだったのではないかという疑惑が…

(三上久子)そういうお客様確かにいらっしゃいました。
いつの事ですか?それは。
去年の5月12日です。
その方の名前と住所を教えて頂けませんか?あっ夏川稔様と奥様の陽子様で。
連絡先なんですけどねご予約を頂いた時に東京のご住所とお電話番号をちょうだいしたんですけど両方ともデタラメだったようで連絡は…。
じゃあどこの誰だかわかんないわけですね?その夫婦は。
はい…。
あっあの日お見えにならなかったお客様もう一人いらっしゃいました。
もう一人?その客は男性客ですか?それとも…。
男の方です。
勝又武様とおっしゃいました。
その勝又という人はその後連絡は?それがこの方とも結局連絡は…。
前日に「明日奥篠に行くので帰りに寄るからいいお部屋を」とおっしゃいましたのでお待ちしてたんですけどね。
奥篠…?
(久子)この先の集落です。
そちらに親戚があるとおっしゃってました。
(勝又誠)武なら私の弟ですが何か?武さんの事で少し…詳しくお聞きしたいんですが。
勝又さんは去年の5月12日にこちらにいらっしゃいましたか?5月…ええ来ましたけど。
金をせびりにね。
お金をですか?いつもの事ですよ。
フン…。
10万20万30万…。
返したためしがないんだからあいつは。
(ため息)あの日はさすがに私も頭にきて「お前に貸す金はない帰れ」って。
そしたらあいつ怒って家中の家具やら食器やらたたき壊してあげくの果てに女房の車勝手に持ち出して。
その車…その車のボディーに傷はありませんでしたか?対向車と接触したような傷ですが…。
(誠)ああありましたけど。
この近くに落雷を受けて立ち枯れしてしまったような奇妙な形をした木がある場所ありませんか?
(誠)ええありますよ。

間違いないそう思いました
『悪の魂』の中で描かれていた殺人は1年前にここで現実に起きた勝又殺しを描いたものなのだと
ほとんどが『悪の魂』に書かれてるとおりでした。
勝又武の義理の姉の車に残されていた接触事故の痕跡。
その車が山梨県内の釜無神社に乗り捨ててあったという事実。
死体遺棄現場の崖の上に現実に存在していた落雷を受けて立ち枯れしてしまっている木。
勝又武の死体は今年の3月26日に営林署の職員が発見しています。
発見時はすでに白骨化しており死後10か月ほど経過したという事なので殺されたのは去年の5月頃と見て間違いなさそうです。
死因は残っていた着衣にいくつか刃物と思われる亀裂が残っていて刺殺と特定されたそうですのでこの『悪の魂』の中の男の殺され方と一致しています。
違うのは死体の処理の仕方だけです。
『悪の魂』の中では落雷を受けて立ち枯れた木の根元に死体を埋めたとありますが現実には刺殺した上で崖から突き落としています。
で『悪の魂』を書いたのは川名恵ではなく勝又を殺害したと思われる見友子であり見友子が殺害された原因はこの本『悪の魂』にある。
そういう事か…。
そう思います私は。
(山路)証拠はあるのか?モーさん。
見友子が勝又武という男を殺したという証拠。
罰が当たった…。
(山路)ん?去年の8月命の期限を切られた時に見友子はそう呟いています。
最初は不倫をしているという後ろめたさでそう呟いたんだと思いました。
ですがこの本にこういう文章があるんです。
「私は殺人という大罪を犯した」「いつか必ずその罰を受けるだろう」「その時が来たら私はその罰を逃げずに受け入れようそう思っていた」「泣かずわめかず静かに落ち着いてそしてホンの少しだけ微笑みを浮かべて」あの時の見友子はまさにそのとおりだったんじゃないかって気がしています。
罰が当たった。
見友子はそれ以降一切の治療を受けていません。
死刑宣告を受け入れたんじゃないでしょうか。
それが殺人という大罪を犯してしまった自分に与えられた罰。
そう思って…。
(山路)全てがその本のとおりだとすると一緒に旅行に行った不倫相手の男殺人の共犯者にもなるわけだけどその男も現実に存在する男って事になるわけか?おそらくそうだと…。
誰だかわかってるのか?その男。
弁護士の本宮勝寿じゃないかと…。
この本は図書館に勤めてる女性と大学教授の不倫を描いたものでその中で大学教授は本宮弁護士と全く同じ事を言ってます。
死んだら私の本たちをお棺に入れてほしい。
そしたら行き先が天国だろうと地獄だろうと退屈せずに楽しく行けるからって。
本宮弁護士の事はもちろん今話した事は私の推測であって証拠は何もありません。
ですが何かを知ってると思われる人物が一人だけいます。
本当の事を話して頂けませんか?川名さん。
見さんは3月5日に1億円の受取人の名義を川名さんに変えています。
3月5日これは『悪の魂』が現代文芸新人賞を受賞したその日です。
あなた方の間には『悪の魂』に関して何か特別な約束のようなものがあったんじゃないですか?1億円の保険金はそのための代価だったんじゃないでしょうか?川名さん。
私たちが知りたい事はただ一点だけなんです。
誰がどういう目的で見友子さんを殺害したのか。
升田美奈子さんは本当に見さんを殺害して自殺したのか。
その事を知るためにはどうしても川名さんに本当の事を…。
その事については何度もお話ししたはずです。
川名さん。
それに『悪の魂』は私自身の創作です。
私は他人の作品を盗んだりなんかしません。
現実に起きた殺人とたとえどれほど似通っていたとしてもそれは偶然。
『悪の魂』は見さんが書いた作品ではなく川名さん自身がお書きになった作品。
そういう事ですか?そうです。
私の作品です。
『悪の魂』は。
どういう事なんですか?牛尾さん。
なんでこんな事をお聞きになるんですか?見さんの事件は終わったんじゃないんですか?升田さんの奥さんが見さんを殺してそれで自殺を。
我々の捜査はまだ終わっておりません。
犯人はあの奥さんじゃなくて別にいて私もその容疑者の一人ってわけだ。
事務所をこちらに移転される4年前までは本宮さんの事務所は新宿にあり本を購入される時には必ず末広堂の新宿店へいらしてたと聞きました。
それで私とそこに勤めてた見友子さんは知り合いになった。
そういう事ですか?まあいいでしょう。
6月3日ですね?ちょっと待ってください。
ええ…。
うーん…。
ああその日は予定が何も入ってませんからおそらく自宅にいたんだと思いますが残念ながらそれを証明してくれる人はいません。
いいですか?それで。
本宮さん去年5月10日から13日までの4日間お休み取られてますよね?どこに行かれてたんですか?その時。
どういう事なんですか?牛尾さん。
今年の3月26日山梨県の国仲山の山中で勝又武という男の白骨死体が発見されたんです。
この男です。
この人が何か?本宮さん私たちは『悪の魂』は物語などではなく現実に起きた勝又殺しを描いたものでありそれを書いたのは勝又を殺してしまったと思われる見友子さんだったのではないか。
そう考えております。
ああ…それでようやくわかりました。
『悪の魂』の主人公の「私」は見友子さんでありその彼女の不倫相手の「彼」は私。
私と見友子さんの2人で山の中でその勝又っていう男を殺した。
そう思ってらっしゃるわけだ牛尾さんは。
証拠ありますか?私と見友子さんが不倫関係にあったっていう証拠。
2人で山の中でその勝又っていう男を殺したっていう証拠。
『悪の魂』を書いたのは川名さんではなくて見友子さんだっていう証拠。
あっそれから『悪の魂』の中で描かれてる殺人は現実に起きた殺人であるというはっきりした明白な証拠が。
今のところ証拠も根拠も何もありません。
証拠も根拠もまるでない?じゃあ話にならないじゃないですか。
お相手してるだけ時間の無駄だ。
今度いらっしゃる時はぜひその証拠と根拠を見つけ出してからにしてください。
そうしたらしっかりとお相手しますんで。
もしもし。
崖っぷち?
(恵)「本宮さんと私は今や同じ立場」「崖っぷちに立っているという事です」私はやっとの思いで手に入れた作家という立場を失いたくないし本宮さんだってそうでしょ?今の立場を失いたくないはずです。
だったら組むしかないでしょ?私たち。
おっしゃってる意味が私には全くわかりませんが。
私はある物を見さんから預かっています。
え?組みたくなったでしょ?私と。

(大上)牛尾さんの言うようにここに『魔術師の孤独』が入っていたんですよ。
門外不出のはずの本宮の蔵書印のある本。
だから本宮はその本を取り返したかった。
なぜなんだろう…。
見友子は殺される直前まで『悪の魂』を読んでいた。
本宮に会いに行くのに『悪の魂』を持っていく必要があったんだろうか…。
(大上)それは…。
あの日見友子はとても楽しそうだったって言うんだ。
(友子)お掃除してお洗濯して…一番好きな本を読んで。
彼女にとって一番好きだった本は…この本だったんじゃないかと思うんだ。
なのになぜ『悪の魂』を…。
あの時本当に『悪の魂』を読んでたんだろうか?見友子は…。
(向井守)間違いありませんよ。
はっきり覚えてるんです。
あの時…。
(向井)お待たせしました。
(友子)ありがとう。
(向井)でも別バージョンでしたけどね。
別バージョン?僕が友達から借りた『悪の魂』は一段だけだったんですけどあの女の人が読んでた『悪の魂』は上下二段になってて。
上下二段!?その…君が見たその本は…こういう感じじゃなかった?
(向井)ええそうです。
そんな感じでした。
カバーだ…。
カバー?見友子は本宮の蔵書印のある『魔術師の孤独』に『悪の魂』のカバーを掛けて読んでたんじゃないかって。
(西谷)カバーを掛け替えたって事か。
そういう事です。
見友子はあの日本宮に殺されるんじゃないかという予感みたいなものがあって意図的にそうしたんじゃないかって。
その本は元々本宮の蔵書だったのでカバーには当然本宮の指紋がついておりそれは2人の関係を裏付ける物証になり得ると。
そういう事だな?
(大上)はい。
そのカバーは一体どこにあるんだ?もしかすると川名恵が持ってるんじゃないかと。
(由紀)水木先生でしたらついさっきお出掛けになりましたけど。
どちらに行かれたかわかりませんか?さあ…。
でも『悪の魂』の原点へ行かれたんじゃないかと思いますけど。
『悪の魂』の原点?レンタカーで出掛けられましたし山梨と静岡の道路地図を用意してくれっておっしゃってましたので。
本宮と川名恵が!?本宮もついさっき車で出掛けて所在不明です。
本宮と川名恵は今まさに同じ立場に立っています。
2人が手を組む可能性が考えられます。
川名恵があのカバーを本宮に渡してしまったら…。
それだけならまだいい。
もしかしたら…!大至急緊急車両お願いします!大至急!本宮さん。
本宮さんの名刺を見た時あれ?って思ったんです。
私の知り合いにも一人だけ本宮って人がいましたから。
文学館で行われている本の特別展示を見に行くってそう言っていました彼女…。
(恵の声)初対面でお互いの事なんて何も知らないのに本好きだってわかった瞬間から私たちもう十年来の友達みたいになってしまって…。
(恵の声)読んでもらったの。
私の書いたものをいくつか。
すごいです。
とっても感動しました!
(恵の声)褒めてくれたあの人。
嬉しかったわ。
本当に嬉しかった…。
話は尽きなくて結局あの人うちに泊まったの。
朝起きたらねもう帰ってて…。
名前も住所も聞き忘れちゃったなって残念に思ってたらそしたら…5日後宅配便が届いた。
「先日はありがとう」「川名さんのおかげで久しぶりに幸せな時間を過ごせました」ああ…。
(恵の声)「同封したのは私が書いた小説です」「よかったら読んでみてください」
(恵)『悪の魂』…。

(恵の声)ショックだった。
どうしてこんなすごいものが書けるんだろうと思った。
私と同じぐらいの歳の…しかもあんなにおとなしそうな感じの人がって。
圧倒されて打ちのめされて…。
腹が立って…泣きたくなって。

(恵の声)「『悪の魂』をあなたにあげる」そう書いてあった。
(恵)つまらなかったら焼き捨てていいしもし面白いと思ってくれたんだったらあなたの名前でどこかのコンクールに出してくれても構わないって。
私は訳がわからなくて彼女に連絡を取ろうとした。
でも宅配便に書いてあった住所も電話番号もデタラメで…。
見さんを殺したのはあなたでしょ。
川名さん。
私が見さんからある物を預かっている。
そう言ったからあなたはそれが気になった。
(恵)それを取り戻すためにここへ来た。
それは…あなたが見さんを殺したという決定的な証拠になるから。
そんな証拠があるんですか?
(恵)あるわ。
でしたらその証拠を見せて頂けませんか?見せて頂けますよね?本宮さん。
そこまでにしてください。
邪魔しないでください!!今この人に喋らそうとしていたのに!何もかも喋らせて証拠にしようとしていたんです!やめてください!!川名さん。
見さんを殺したのはこの人です!間違いありません!川名さん!私は証拠を持っている。
あなたが見さんを殺したという決定的な証拠を。
(本宮)ですからさっきからその証拠を見せてほしいって何度も…。
こんなところに持ってくるわけないでしょう。
持ってきたらどうなるかくらい私にだって見当がつくわ。
あなたはそれを奪い私を殺す。
今まさにあなたがそうしようとしたように。
(恵)そうでしょう?川名さん。
あの送り状は私の命を保証する保険。
大切にしまってあります。
送り状?
(恵の声)「本宮友子」そうはっきり書いてあるわあの送り状には。
フッ…。
(本宮)牛尾さん。
その送り状は証拠になりますか?私が見友子さんを殺したっていう決定的な証拠に。
残念ですが…。
(恵)どうしてですか!?どうして?証拠じゃないですか!あの送り状はこの人と見さんが関係あるってれっきとした…!あなたが電話でわけのわからない事を言うから心配になってこんなとこまで来たけど時間の無駄だったようです。
ばかばかしい。
よろしいですか?帰っても。
本宮さん。
はい。
もう少しお付き合い頂けませんか?本宮さんがおっしゃっていた証拠と根拠がここで眠ってる可能性が考えられますので。
山さん。
(地面を掘る音)見さんは私たちに教えてくれていたんです。
『悪の魂』の中でちゃんと…。
「眠れ眠れ私の中の悪の魂よ」「私はそう祈りながら男を埋めた土を掘った」「私のすべての悪の魂をそこに葬るために」「永遠にここで眠らせるために」「眠れ眠れ」「私の中の悪の魂よ」「そう祈りながら」山さん。
ん?
(山路)モーさん。
私…迷ったのよ。
本当に迷ったの。
本宮さんが捕まったりしたら『悪の魂』の事は当然明るみに出てしまう。
出来る事なら…出来る事なら捕まってほしくない。
そうも思った。
でも思い出したの。
(恵の声)あの日の夜の事…。
今日は誰も恨まなかった…。
今日は誰も憎まなかった…。
つらい涙じゃなくて悲しい涙じゃなくて幸せな涙がこぼれた。
この世界を…また少し愛せた…。
こういう日に死にたい私…。
(恵の声)この人はすごくつらい事を抱えている…そう思った。
誰にも言えないすごくつらい事を…。
でもあの時私は聞かなかった。
聞いちゃいけないと思ったから。
でも今は後悔しています。
どうしてあの時聞かなかったんだろうって。
見さんは聞いても答えなかったと思います。
でももしも…もしもあの時聞いていたら私と彼女の関係はもっと違うものになっていたんじゃないかって。
私は病気を治してあげられないし…。
人を殺した罪の重さも軽くしてあげられない。
でもそばにいて…。
そばにいて…。
大丈夫よ。
大丈夫だからねってそう言ってあげたかった…。
そうしてあげたかった…。
これで終わりだね本宮さんも…。
それから作家水木晶も…。
(本宮)何もかも全部『悪の魂』に書いてあるとおりです。
去年のあの日…。
(衝突音)
(勝又武)おい!どうしてくれるんだよ?これ。
あれ?あんたよくテレビで見る弁護士さんか?
(本宮の声)気づいたんですあの男は。
私が誰かって事に。
それから彼女が私の家内じゃないって事も…。
それで…。
(本宮)100万?
(武)ああ。
先生は街まで行ってとりあえず100万持ってきてよ。
俺は先生の愛人さんとここで待ってるから。
楽しい事しながら。
何言ってるんだ?君は。
だったら電話しようか?テレビ局に。
それから先生の奥さんにも…。
先生のお許しも出たみたいだからさね愛人さん。
やめて!
(本宮)おいやめろ!この愛人さんなんもわかってないみたいだよ。
先生からちゃんと言い聞かせてやってよ!この男の言う事聞かないと俺が破滅するって。
頼む…この男の言うとおりにしてくれ。
すぐ戻ってくる。
先生!?金は持ってくる。
だけどその前に約束してくれ。
彼女を絶対に傷つけたりしないって。
わかってるよ先生。
少し楽しむだけだ。
(武)ほら。
(友子)先生!?先生!
(友子)いやっやめて!離して!
(友子)離して!
(刺す音)
(武)うわあーっ!
(本宮の声)まさに『悪の魂』に書かれているとおりでした。
彼女の中で眠っていた悪の魂が突然覚醒したっていうか…。
凄まじい音を立てて目を覚ましたっていうか…。
止める事も動く事も出来なかった。

(本宮の声)彼女は殺人という一つの罪を共有した事で私たちの絆は永遠のものになったそう信じたんだと思います。
でも私の方は違った。
怖い女だ。
そう思ったんです。
それが彼女の本当の姿なんだって…。
全く逆の事を考えてたんです私たちは。
彼女は新しい始まりだと思い私の方はこれで終わったと思った。
それであなたは見さんとの連絡を断った。
そういう事ですね?何か連絡してくると思いました。
でも彼女は何も言ってこなかった。
納得したんだ…。
そう…。
1か月が過ぎて半年が過ぎて…。
あの時の事は夢だったんじゃないかそんな風に思えてきていて…。
その時にこの本です。
驚きました。
最初は偶然だと思いました。
作家の水木晶って人が頭の中で想像した事がたまたまあの時の私たちの状況と似てたんだって…。
でも何度も読んでるうちに偶然なんて事はありえない。
こんな事書けるのは彼女しかいないって…。
なんでなんだよ?なんであんな事…。
奥さんと別れてください。
え?
(友子)結婚してください私と。
何言ってるんだよ。
今そんな話を…。
結婚してくださらないんだったら警察へ行って1年前の事を何もかも全部話します。
あなたが私にくださった蔵書印のある『魔術師の孤独』。
あの本も警察へ持っていきます。
あなたとこういう関係になってもう12年。
その間私があなたに何かを頼んだ事はたったの1回だけです。
あなたの蔵書印のある『魔術師の孤独』がほしい。
その本がそばにあればあなたに会えなくてもあなたと一緒にいるような気がするからって…。
私があなたに何かを頼んだ事は今度で二度目です。
二度目でもう最後です。
約束してくださるだけでいいんです。
約束してくださったらあの本もあなたに返すし警察へも行きません。
約束してください。
私を本宮友子にしてやるって。
(本宮の声)その時になってようやく気がついたんです。
(本宮の声)『悪の魂』は私に対する脅迫状だったんだって事に。
脅迫に対する答えは一つしかありません。
本を返してくれたら結婚する。
彼女にそう言ったんです。
彼女は全く疑わなかった。
なんの疑いも持たずに私の言ったとおりにあの日の夜…。

(本宮の声)驚きました。
その様子を目撃してた人物がいた。
升田美奈子。
違いますか?そうです彼女です。
(美奈子)先生!本宮先生。
はい。
私先生に相談に乗って頂きたい事があって…。
ああご相談でしたら事務所の方に…。
実はつい先日私のいとこが殺されてしまったんです。
ああそれはどうも…。
じゃあお話はその時に。
彼女が殺される直前私道でばったり彼女に会って彼女のあとをつけていったんです。
主人と彼女の事疑ってましたしもしかしたら主人と会う約束してるんじゃないかと思って…。
そしたら私見ちゃったんです。
ワインレッドの紙袋。
なんていう本かは知らないけど地面に落ちた1冊の本。
それから…白いスカーフ。
相談に乗って頂けますよね。
これから先も色々と。
(本宮の声)あの時からもう考えてました。
この女を犯人にして死んでもらおうと…。
それであの遺書めいたメモを書かせた。
そういう事ですか。
保険金は間違いなく奥さんに入るようにする。
その前に去り状を書いておくと離婚がすんなり決まりますよ。
…とささやいたら何も疑わずに書いてくれました。
(美奈子)びっくりするでしょうねあの人離婚なんて切り出したら。
でももううんざりなの!本ばっかり読んで仕事しない人は…。
今度は本は読んでもいいけどしっかり働いて山ほどお金を稼いでくれる人を見つけるわ。
先生みたいな。
ああ…。
(本宮の声)ワインには奥さんが常用していた睡眠薬を入れておいたんです。
なんだか眠くなっちゃった。
さっきからなんだか眠くて眠くて…。
少し風に当たりますか?ご主人に離婚を切り出すにしてもあんまり酔ってると…。
うん。
(美奈子)ああ気持ちいい。
でも本当に眠たい。
どうしてこんなに眠いのかしら。
眠った方がいいですよ。
眠った方が…。
それにしても皮肉なもんですよね。
一番愛してやまなかったこの本が結局自分の首を絞める事になったんですから。
(本宮)でも彼女はどうしてカバーを掛け替えるなんて事したんだろ?うっかりとは考えられない。
意図的だったんだとしたらどうしてあんなところに埋めたり…。
それが…見さんの願いだったんじゃないでしょうか?願い?『魔術師の孤独』は本宮さんにとってはナンバーワンの本です。
カバーを掛け替えておけばあなたがその本を手にするたびに今みたいに思うんじゃないでしょうか?彼女は一体なぜあんな事したんだろう。
あのカバーは一体どこにあるんだろう。
そのたびに本宮さんは見友子という女性の事を思い出すはずです。
覚えていてほしかったんじゃないでしょうか。
見友子という女がいたという事を…。
それが彼女を捨てた私への復讐ですか。
(本宮)一度目はあの男を殺した時。
二度目は…本。
三度目は私が彼女を殺すという手段で…。
行儀のいい静かなホトケさんだ。
見さんの死体を見た時に同僚がそう言ったんです。
私も同じ感じを受けました。
見さんの死体は静かでひっそりしていて私たちに何も伝えてはくれませんでした。
まだ30代の若さで命の期限を切られ見さんはどんな思いでこの1年を過ごしてきたのか…。
自分がやってしまった事を悔いたに違いありません。
自分自身を憎みたくさんの涙を流して死んでしまいたいと思った事も何度もあるはずです。
そんな時に思いついたんじゃないでしょうか。
あの時の事を書こう。
『悪の魂』を書いて世に出せばあなたは必ず連絡してくるはずだ。
そしてなぜこんなものを書いたんだと自分に怒りをぶつけるはずだ。
そんなあなたを脅せばあなたはもしかしたら自分を殺してくれるかもしれない。
見友子という名前で『悪の魂』を世に出していたらあなたはおそらく見さんを殺せなかったはずです。
『悪の魂』という強烈な作品と共に新星のように文壇に現れたまだ若い新進作家。
しかも余命いくばくもない女性の作家が殺害されたとなればマスコミはこぞってその事件を追いかけます。
見さんの私生活が暴かれ過去が暴かれ…。
もしかしたらあなたとの関係も1年前の事も明るみに出てしまう。
…かもしれない。
でも…。
書店に勤務する38歳の地味な女性が殺されてもマスコミはもちろん彼女の死に興味を示す人などまずいない。
だから見さんは『悪の魂』を川名さんに託したんじゃないでしょうか。
静かにひっそりと本宮さんに殺してほしかったから。
自分自身の手で自分の命を断ち切る事は怖くて出来なかった。
でもあなたが殺してくれるんだったら怖くはない。
静かに自分の死を迎えられる。
そう思ったんじゃないでしょうか見さんは…。
あの日の朝見さんは…。
(友子)お掃除してお洗濯してお花飾って一番好きな本を読んで。
それからゆっくり眠るの。
ゆっくり…ゆっくり…。
自分が望んでいたとおりの死を迎えたんじゃないでしょうか。
だからあんなに静かでひっそりして…。
今にして思えばですがあの時見さんは私たちに一つの事を伝えてくれていたのかもしれません。
私は殺されたのではない。
この世で一番愛した人に助けてもらったんだ。
なんだかそんな気がします私は…。
すっごく売れてるみたいですね『悪の魂』。
そうみたいですね。
フフッ。
私読み返してみて思ったんですけどあの本は本宮さんにとっては脅迫状だったかもしれませんけど見さんにとっては罪の告白本であり本宮さんに対するラブレターだったんじゃないかって。
本当に好きだったのよ彼女本宮さんの事。
あっそろそろ行かなきゃ。
私また前のスーパーで働き始めたんです。
みんなには出戻りって言われてますけど…。
もう小説はお書きにならないんですか?書いたってしょうがないでしょ。
どこの出版社が出してくれるんです?誰が読んでくれるんです?水木晶は終わり。
完全に死にました。
そうですか…。
残念です。
私も家内も『猫の昼寝』が好きでまたああいう作品が読めるかと思っていたんですが…。
ファンが3人に増えた。
え?娘がね言ってくれたんです。
私は『猫の昼寝』の方が好きだって。
ああいうものを書いたお母さんの事尊敬してあげるって。
そうですか…。
それは心強いファンだ。
ですがファンはもう一人いるんじゃないでしょうか。
もう一人?見友子さん。
川名さんと見さんは結局一度しか会わなかった。
でも一晩話して川名さんの作品を読んでみて見さんは川名さんの絶大なファンになったんじゃないでしょうか。
だからこそ見さんは川名さんに『悪の魂』を託した。
私はそう思います。
私って幸せなパートのおばさんですね。
フフッ。
ファンが4人もいる。
あっまずい…本当に行かなくちゃ。
刑事さん見さんの保険金の1億円もらう事にしました。
構わないですよね?問題ないと思います。
それが見さんが一番望んでいた事ですから。
あ…この事がマスコミにバレたらきっとまたたたかれちゃう。
ハハッ。
でもたたかれ慣れてるから。
ありがとうございました。
お元気で。

川名恵から宅配便が届いたのは1か月後の事でした
ねえ保険金ってなんの事?え?「保険金は全額親のいない子供たちのための教育財団に寄付しました」って書いてある。
そうか…。
あの奥さんらしいな。
これからもいい作品をたくさん書いてほしいわよね。
そうだな。
見友子の残したその言葉を思い出していました
今日は誰も恨まなかった
今日は誰も憎まなかった
つらい涙じゃなく悲しい涙じゃなく幸せな涙がこぼれた
この世界を少しまた愛せた
けれどこのあと見友子は本当はこう続けたかったのではないだろうかと思っていました
だからもう少し生きたいと…
2014/06/21(土) 12:00〜13:55
ABCテレビ1
森村誠一の終着駅シリーズ・悪の魂[再][字]

ベストセラー小説に仕組まれた二重殺人の罠!!見知らぬ女が依頼する1億の殺人!?

詳細情報
◇番組内容
大好評“終着駅シリーズ”第27弾!女性書店員の死からはじまった連続殺人。ベストセラー小説“悪の魂”が告発する、殺人の秘密!?謎の作家の正体とは!? 牛尾刑事が真実に挑む!
◇出演者
片岡鶴太郎、岡江久美子、国生さゆり、清水美沙、益岡徹、野村真美、秋野太作、東根作寿英、徳井優、佐戸井けん太

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32723(0x7FD3)
TransportStreamID:32723(0x7FD3)
ServiceID:2072(0×0818)
EventID:960(0x03C0)