ETV特集「鬼の散りぎわ〜文楽・竹本住大夫 最後の舞台〜」 2014.06.21

(進行役)では参ります。
12の3!
(拍手)
(進行役)おめでとうございます!大阪ならではの華やかな正月。
文楽好きが待ちに待った劇場の鏡開きだ。
大阪で生まれ300年の歴史を刻む文楽は庶民の娯楽として愛されてきた。
人々が待ち望むのはこの方。
・太夫!
(拍手)おめでとうございます。
(拍手)ユネスコの無形文化遺産にも登録されている…三人遣いによる人形。
そして三味線と語り手が一つとなって作り出す世界に類のない舞台芸術だ。

(浄瑠璃)
(拍手)住大夫は語り手「太夫」の最高峰。
(観客)待ってました住大夫!
(住大夫の語り)「こりゃ何じゃ親父様」円熟の語りで人形に命を吹き込み聴く者の魂を揺さぶる。

(三味線)「なんで死ぬのじゃ腹切るのじゃ」「切らねばならぬ訳ならば」「アイ…アイ…アイ…アイ…」「アイアイアイアイアイ…」
(拍手)「アイナァ」
(拍手)住大夫は自らにそして弟子に厳しい稽古を課す事で知られる。
乗る乗る!乗る乗る乗る!人呼んで…深呼吸や!2月末住大夫は突然引退を表明。
この春の公演を自らの芸の集大成とする事を決意した。
その席で文楽への思いを語った。
「この刀で介錯すれば」おととし脳梗塞に倒れた事が住大夫に引退を決意させた。
口捌きが思うようにならない。
腹の底から声が出ない。
住大夫は後遺症と闘いながら再び芸の高みを目指した。
大阪が生み育んできた文楽。
語りの芸の神髄を再び届けたい。
89年の人生を懸けて挑む最後の舞台。
人間国宝・竹本住大夫。
「文楽の鬼」その散りぎわの記録。
引退を発表した住大夫の家を訪ねた。
脳梗塞に倒れた時住大夫は再起不能とされた。
今も右半身にマヒが残っている。
パタカパタカパタカ…。
特に言語障害は語り手である住大夫にとって深刻だった。
らさらしらすらせらそ。
らさらし…。
かつての口捌きを取り戻そうと地道な発声練習に取り組んでいる。
らす…らすらせらそ。
住大夫が倒れたのは2012年7月。
大阪市が突然文楽への補助金の削減を打ち出し住大夫が文楽を代表し市との交渉に当たっていたさなかの事だった。
4月の大阪5月の東京公演を最後に引退する事を表明した住大夫。
・上がってます。
いい姿勢で保ちましょう。
語りに必要な体力を回復するため始めたウォーキングは1kmのコースを週に2回。
住大夫は最後の舞台に向け懸命のリハビリに取り組んだ。
お疲れさまでした。
住大夫が大阪での最後の舞台で語るのは…江戸時代中期から語り継がれてきた名作中の名作だ。
菅原道真の失脚を題材にした大作。
住大夫が青年時代に手がけてから60年以上かけて磨き上げてきた思い入れの強い作品だ。
「百姓の倅なれども菅丞相の御不便を加えられ親人へは御扶持方」今回住大夫が語る「桜丸切腹の段」。
物語の大きな山場だ。
この段の主人公桜丸。
主君が敵に陥れられて流罪。
そのきっかけを作った桜丸は自責の念にかられ切腹の覚悟を固める。
見せ場は桜丸の妻・八重と老いた父・白太夫が嘆き悲しむ場面だ。
「こりゃ何じゃ親父様桜丸殿」太夫の語る「義太夫節」の神髄は「音」と呼ばれる言葉の抑揚にある。
「なんで死ぬのじゃ腹切るのじゃ」「切らぁ〜」「切らねば」これでは「音」がない。
「切らぁ〜ねばならぁ〜ぬ」「床本」には音の高さや節回しを示す書き込みが至る所に見られる。
太夫は代々伝えられてきた「音」によって物語に命を与え聴く者の感情を揺さぶるのだ。
ここはかわいらしゅう言わないかん。
(口上)住大夫〜!
(拍手)文楽の太夫は登場人物のせりふを全て一人で語りそれぞれの人物を浮かび上がらせる。
「でかしゃったでかしゃったでかしゃった」これは脂が乗りきった全盛期の住大夫。
「でかしゃったよのぉ〜」「身は煩悩につながるるを」抜群の口捌きと豊かな「音遣い」でさまざまな人物の喜怒哀楽をくっきりと描き出す。
「けったいだなぁアハハハハハッ」「エヘヘヘヘヘッ」「おかしいやら」「不便なやら」この豊かな声量と声の張りをどれだけ取り戻す事ができるのか。
それが引退公演の成功の鍵となる。
「アハァ〜ハァ〜ハァ〜ハァ〜」住大夫の語りは分野を超えさまざまな人に刺激を与えている。
住大夫の語りに魅せられ義太夫の手ほどきを受け始めた。
「尻引き」っていうやつですね。
これは後ろに敷いてこういう姿勢でやってるから。
もう大声養成ギプスですよ。
前にとにかく出て腹に力が入って全く落ち着いてないっていう。
どんだけすごいハードな芸なのっていうさ。
竹本住大夫は日本を代表する「声の表現者」だという。
(住大夫の語り)
(いとう)世界レベルの名人っているんですよね。
やっぱり竹本住大夫って人は世界レベルの名人。
例えば登場人物6人7人8人いても全部の気持ちを語り分けてる事がよくよく分かりまして。
それぞれの感情の揺れとかここはのみこんで義理でこう言わなきゃいけないという葛藤とかそういったものの奥行きが全部ピタッと違和感なく語られてるって事に気づいたんですね。
言ってみたら脚本をとてもよく読んでかみ砕いてすばらしい演技をする役者さん6人が1人の体の中に入ってるみたいなもんじゃないですか。
(花火の音)大阪の庶民の人情を描いてきた文楽。
ワッショイ!ワッショイ!この町の人々は文楽をこよなく愛してきた。
(太鼓の音)世話物の名作「曽根崎心中」の舞台となったお初天神。
住大夫はその境内のすぐそばで生まれ育った。
は〜…。
露天神て。
こんにちは。
こんにちは。
(住大夫)あれ!ありゃあこんなん貼ってくれたんや。
住大夫が文楽の太夫になるきっかけはこの子供時代にあった。
かつてこの界隈では至る所から義太夫の稽古の声が聞こえてきたという。
(取材者)家も近くだったんですね。
住大夫の父は後に文楽で初めて人間国宝となった太夫だった。
父の稽古を間近に聞きながら住大夫は育った。
太夫だった父。
そして文楽を愛してやまない大阪の空気が一人の少年を太夫の道へと誘った。
三味線の野澤錦糸が住大夫との稽古にやって来た。
20年近く住大夫の三味線を務めてきた錦糸は高齢の上に脳梗塞の後遺症が残る住大夫の体調を気遣っていた。
(取材者)錦糸さん稽古始めてどんな?いつもと一緒。
変わんない。
おはようございま〜す。
(錦糸)元気ないですねえ。
しょんぼりしてるじゃないですか。
あきませんよそんな事言ったって。
大丈夫ですよ。
アハハハッ。
お師匠はんがそんな弱気になったらあきませんよ。
(住大夫)弱気になるで。
なったらあきませんて。
(住大夫)心配やで。
住大夫が語る「桜丸切腹の段」は30分以上。
思うように語りきる事ができるのか?ボチボチと。

(三味線)「兄弟夫婦に」「引き別れ」「こりゃ何じゃ親父様」桜丸を巡る悲劇を語るには腹の底から息を出し劇場の隅々まで登場人物の息遣いを伝えなければならない。
「いやぁ…」一番の聞かせどころ。
泣き崩れる妻と悲しみをこらえながら気丈に振る舞う父との掛け合い。
「ウウ…ウウウ…」「アイ」腹に力が入らず妻の高い声が思うように伸びない。
「ウウ…ウウ…ウウウ…」「アイ」「白太夫目を」クライマックスの桜丸を送る念仏。
込み上げる父の悲しさを一気に語り上げる。
「なまいだあ…なまいだあ…」「なまいだあ…なまいだあ」「なまいだあ…」しかし太く長い息が続かない。
「ウウ…ウウ…」「まいだあ…」「なまいだあ…」
(床本をたたく音)このままで大丈夫です。
住大夫は大舞台を前に克服しきれていない課題と向き合った。
足も極力ゆっくりいきましょうか。
自らの語りを取り戻すには腹の力を鍛え直さなければならない。
そう繰り返しましょう。
しっかりとね引き上げて。
おへそのぞくように頭をめいっぱい。
呼吸吐きながらですね。
じゃあね次ボールを間に挟んで頂きます。
はい上げます。
12345。
住大夫は自ら89歳の肉体にむちを打ち続けた。
じゃああと2回。
12345。
はいゆっくり戻します。
12345678910。
123456789…。
引退公演が2週間後に迫ったこの日住大夫は文楽にゆかりの深い特別な場所を訪れた。
(神主)お頭をお下げ下さい。
住大夫は引退公演の成功を祈った。
(祝詞)この神社には文楽の礎を築いた先人たちが祀られている。
上方の言葉で語り上げる義太夫節の創始者竹本義太夫。
その奥義は…独特の節回しで深く心に訴える芸風は大阪庶民の心をわしづかみにした。
その義太夫節に三味線と人形が加わった人形浄瑠璃。
歌舞伎と人気を二分して発展し昭和に入っても庶民の娯楽の王様であり続けた。
中でも要である語り手の太夫は憧れの存在だった。

(浄瑠璃)
(住大夫)ようこれ残ってた。
昭和の初年この浄瑠璃神社に太夫が一堂に会した写真だ。
(取材者)どんな時代でした?この当時は。
(取材者)活気ありましたか?あった。
住大夫が子供の頃大阪の町には父親をはじめ義太夫節の名人上手がひしめきしのぎを削っていた。
その名人たちの中でも誰もが仰ぎ見る存在だったのが不世出の太夫…そばに仕え日々その名人芸を吸収した。
「父上には生き別れ」山城少掾は浄瑠璃の深い解釈と豊かな音遣いで至高の芸風を確立した。
住大夫は魂を揺さぶる「語りの神髄」をしかと心に刻んだ。
(山城少掾の語り)住大夫は師の背中を追い続けた。
そして大阪の心をうたいあげる義太夫節の伝統を受け継ぎたいと芸の道を突き進んだ。
おはようございます。
住大夫は3人の弟子に自宅で稽古をつけている。
引退公演を前にしても弟子への稽古を欠かさない。
入門して30年になる…中堅の実力派だ。
肩の力抜きや。
ここもここもええな。
こうやりなや。
体は反りや。
ええか気張ったらあかんで。
お願いいたします。
太夫の芸は師から弟子へ1対1で伝えていく。
「文楽の鬼」といわれる住大夫骨身を削って稽古に臨む。
(文字久大夫)「ヤイそこな馬鹿者」
(机をたたく音)「年は寄っても」「年は」…とこうや。
お前今「年は寄っても」。
(住大夫)しっかりせえ!「今日の御祝儀」多くの先達によって磨き上げられてきた音による語りを耳から耳へ口から口へじかに伝えてゆく。
「祝儀は述べても」
(住大夫)「祝儀は述べても」「祝儀は述べ…」武士から娘泣きから笑いまで人物が浮かび上がるように語らなければ感動を伝える事はできない。
(住大夫文字久大夫)「絞って」ハア…。
「絞って」で止めて深呼吸せんかい!「勘当を受けたいとなハハハ…」
(住大夫)何を言うとんねん。
「ハハハハ」息を先出してな。
同じ笑いでも人物によって全く違う音遣いが必要とされる。
息を先出して声は後から。
音や音やこれも音や。
「ハハハハ」
(住大夫)違う。
太夫は自らの語りが固まるのが50代。
更にその芸を深めるのは60を過ぎてからといわれる。
「ヤイ松王」「ヤイ」っちゅうんだよ。
「ヤイ松王」普通に言うたらええ。
言うてみ。
(住大夫文字久大夫)「ヤイ松王」
(住大夫)ちょっと水飲ましたり。
厳しい稽古は1時間半に及んだ。
一番やっぱり大切なところというのは太夫の自分自身の息で息を詰めて情を語るというかそこが一番本当の太夫の使命というか細かいそういう怒られる上っ面の事じゃなくて一番根本的なところを教えて頂いてるんだというのはようやく最近少し見えてきたと思います。
この日住大夫は30年にわたり通い続けてきたある場所に向かった。
(一同)おはようございます。
義太夫節のカルチャースクール。
住大夫は素人にも稽古をつけてきた。
こんにちは。
(一同)よろしくお願いします。
(笑い声)
(笑い声)「表御門は家中の」大阪では素人たちが芸を競い合うほど義太夫節が盛んだった。
(女性)「喧嘩の次第相済んだ出頭の師直様へ」
(住大夫女性)「料理塩梅食ろうて見よ」「庶民に愛されてこその文楽」。
住大夫はその裾野を大切にしてきた。
「梅王立ち寄りどなたぞ」
(住大夫)気張ったらいかん。
難儀やな。
「梅王立ち寄りどなたぞ」こう言うたらええねん。
住大夫素人にも決して手を抜かない。
もっとみんな本読みしてこなあかん!なんぼ忙しいかしらんけどむちゃくちゃや。
こんな掛け合いは順番に言うてんのと違う。
もっと本読みが足らん。
「母御の…」「母御の」
(住大夫女性)「母御の因果か」手本を示しながらの稽古はみっちり2時間。
(住大夫女性)「追っつけ廻って」
(泣き)え?生徒は引退公演を控えた住大夫の体を気遣うが…。
亀ちゃんあんたやり。
(笑い声)
(住大夫)大塚はんあんた遠いとこから来てんねん。
遠慮せんとやり。
まだ時間あるが。
住大夫師匠にまあ心穏やかにお稽古を終わって頂こうという我々の総意であります。
本気で教えてくれはるからもうそれがうれしくてうれしくてすばらしい義太夫の本質にちょっとでも我々下手くそな素人やけどもそれに触れられるって事でありがたいと思って。
(拍手)住大夫の影響は歌舞伎にも及んでいる。
歌舞伎は人形浄瑠璃から作品を取り込んできた。
「義経千本桜」や「仮名手本忠臣蔵」など数多くある。
「御船を」住大夫は請われれば本家の立場から歌舞伎俳優に稽古をつけてきた。
その「かあ…」っちゅうた時な僕な見ててみこう…こう…っておなか出るやろ僕。
こう…って声出るやろ。
あんたの見たらおなか出えへんわ。
おなかの崛起運動。
その時に…。
(住大夫團十郎)こう…こう…。
(せりふ)歌舞伎の人間国宝坂田藤十郎も住大夫に教えを受けた1人だ。
義太夫のお芝居の場合はほとんどと言っていいぐらい住さんをはじめ義太夫の方たちのところへお習いに行くんですよ。
それはやっぱりね一番大事な事でございますからね。
私とうちの子供たちももちろんそうですけれどもいろいろ伺ってお勉強してるんですよ。
「これを言うておきませんと今夜うちへ帰っても寝る事ができまへんによってな」。
(藤十郎)義太夫のお芝居というのは歌舞伎にはなくてはならないものですからね。
そういう作品において住さんと親しくさせてもらってたおかげで深いところへずっと追求しながらお勉強させて頂きましたね。
お辞めになっても私はやっぱりお目にかかっていろんな事を伺いたいと思っております。
大阪の文楽劇場では総力を挙げ住大夫の引退公演「菅原伝授手習鑑」に向けて動き始めていた。
陰謀によって陥れられた菅原道真を題材にした悲劇の物語。
人形遣いは衣装を着付けながら物語の世界に入ってゆく。
桜丸を遣うのは…住大夫と数知れぬ舞台を共にし60年以上苦楽を分かち合ってきた簑助が最後の舞台に臨む。
桜丸の妻八重を遣うのは…桜丸の父白太夫を遣うのは…白太夫というのは師匠が得意にされているもので重要な役を遣わせて頂くというのは私にとってもね大変ありがたい巡り合わせだと思っていますし思い切りぶつかっていきたいと思います。
武者震いしてます。
(取材者)おはようございます。
おはよう。
大阪での引退公演の前日。
本番への試金石となる劇場での通し稽古。
住大夫はこの日に照準を合わせ日々稽古を重ねてきた。
太夫は800人の客を前に腹から息を出す。
その声は隅々まで届いているか?「親父様の思案はないか」高い音は語りきれているか?「コレコレ」住大夫は自らの語りを一つ一つ入念に確認していた。
「アイ」「泣くない」「ウウ…ウウ…」大丈夫大丈夫。
大丈夫ですから。
全盛期に戻る事は決してできない。
それでも住大夫は今できる最高の語りを追い求めていた。
「残る二樹は松王梅王」「三つ子の親が」そこだけ。
そこです。
もうそれだけです。
家では妻の光子さんが引退公演直前まで稽古に励む夫の体を気遣っていた。
(取材者)自宅でリラックスして。
(笑い声)この人野球好きやからね。
今僕ほど稽古するのないで。
光子さんは文楽の三味線の名人の家に生まれ育った。
芸一筋の住大夫を光子さんは耳の肥えた批評家として支えてきた。
きれいなぁ。
外に出ると家の前の桜が満開だった。
(光子)きれいですね。
(取材者)そうですね。
空気いいですねまたね。

(取材者)桜の季節に桜丸切腹ですね。
4月5日大阪での引退公演が始まった。
前売り券はすぐに売り切れ僅かな当日券を求めて客が押し寄せた。
住大夫の引退を惜しむ客でかつてない大入りとなった。
ほんと残念ですよね。
大阪の宝物なんでね。
残念です。
もったいないなって思って。
いやぁもうなんか始まる前から涙が出そうですね。
ほんとに大阪の心をずっと語ってこられて。
あの味わい深い語りが今回でもう生では聴かれへんのかと思うと…。
おはよう。
おはよう。
(鈴の音)
(かしわ手)楽屋はいつにない空気に包まれた。
お師匠さんおめでとうございます。
(住大夫)おおきにありがとう。
住大夫に別れを告げる客が引きも切らない。
お師匠さんの顔見たらいろんな事思い出して…。
(蓑助)おはようございます。
おめでとう。
盟友の人形遣い吉田簑助。
おおきにありがとう。
まあ寂しい。
ああ…。
(拍子木)20人もの太夫がいくつもの場面を語り継ぐ10時間に及ぶ大作だ。
桜丸の悲劇に向け舞台は進む。
主君を陥れた敵に桜丸は斬り込もうとするが果たせず追い込まれてゆく。
住大夫が語る山場「桜丸切腹の段」が近づく。
文楽のふるさと大阪での最後の舞台へ。
(拍手)いつにもまして大きな拍手が沸き起こる。
(拍手)
(東西声)と〜…。
(観客)太夫!
(観客)待ってました!
(拍手)
(三味線)竹本住大夫いざ。
「呑み込んで」「エェェ…」切腹の覚悟を決めている桜丸。
妻の八重が嘆きの声を上げる。
「どうぞいなア」「なんで死ぬのじゃ腹切るのじゃ」「切らねばならぬ訳ならば」「未練な根性さぎゃしませぬ」「定業と諦めて」一番の山場泣き崩れる妻と父との掛け合い。
「そなたも泣きやんなヤア」「アア…アアア…」「アイ」「泣くない」「アア…アアア…」「アイ」「泣くない」「アア…アアア…」「アイ」住大夫は二人の心の叫びを張りを取り戻した慈愛あふれる語りで客の一人一人に届けた。
「アイアイアイ…」「アイナァ」
(拍手)「泣きやんなやい」そしてクライマックス。
桜丸を送る念仏。
「なまいだあ」「なまいだあ」「なまいだあ」「ウウ…ウゥ〜…ウウ…」住大夫89年の歳月を重ねたからこその語りだった。
「知られける」
(拍子木)
(拍手)
(拍手)
(拍手)ありがとう。
おおきに。
おおきにありがとう…。
(拍手)
(一同)おめでとうございます。
ありがとう。
おおきに。

(光子)どうぞ。
最後の舞台の4日後住大夫の家を訪ねた。
どうですか?
(取材者)張ってましたもんね。
しかし住大夫。
引退後も弟子への稽古を続け文楽を支えてゆく覚悟だ。
「鉄棒喰ろうな」弟子入りして5年目の…「言い捨てて」
(住大夫)「言い…」と思ったら詰めるねん。
詰める。
それも覚えなあかん。
「文楽の鬼」竹本住大夫。
鬼の情熱は衰える事を知らない。
(小住大夫)「程なく」
(住大夫)違う!みんな音がある。
まだそれ分からんか。
常識。
基本。
しっかりせえ!2014/06/21(土) 23:00〜00:00
NHKEテレ1大阪
ETV特集「鬼の散りぎわ〜文楽・竹本住大夫 最後の舞台〜」[字]

大阪の伝統芸能・文楽の最高峰、人間国宝の竹本住大夫(89歳)がこの春、引退公演を行った。最後の舞台に挑む住大夫に密着、その芸の神髄と気骨ある引き際の姿を伝える。

詳細情報
番組内容
大阪が生んだ伝統芸能・文楽の最高峰、人間国宝の竹本住大夫(89歳)が、この春引退公演を行った。義太夫語りの住大夫は、勇ましい武将から貧しい町人、老婆から生娘まで、あらゆる登場人物を一人で自在に語り分け、観客に涙を絞らせてきた不世出の名人。芸に一切妥協を許さず、自他に厳しい稽古を課し、「文楽の鬼」と言われた名物男でもある。番組は最後の舞台に挑む住大夫に密着、その芸の神髄と気骨ある引き際の姿を伝える。
出演者
【出演】竹本住大夫,【語り】國村隼

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸

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