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都議会議員の「責任」は?議会におけるセクハラ的な野次について

アビタス米国弁護士コース担当の坂本です。

東京都議会で女性議員の質問中に飛んだ「早く結婚しろ」や「産めないのか」といったセクハラめいた野次が、大きな話題になっています。

通常、野次は発言者が特定されません。しかし、野次の内容への世論の批判が大きいこともあり、女性議員の所属政党は、声紋分析などを活用した発言者の特定と、その責任追及を求める方向です。

では、そもそも野次に対してはどのような責任が発生するのでしょうか?

ちなみに、国会議員については憲法51条に免責特権が定められています。これによれば、議院で行った演説や評決などを理由に院外で責任を追及されることはありません。

ただ、裁判例などによると、
・地方議会の議員については、必ずしも憲法の保障が及ばない
・演説や評決はある程度例示列挙であるものの、野次や私語は含まれない
・責任の範囲は、院外における刑事責任や民事責任といった法的責任であり、
議院での懲罰や所属会派からの処分が免れるわけではない
と解されています。

なお、東京都議会規則によれば、「騒ぎその他議事の妨害となる言動をしてはならない。」とのみ規定されています。

女性議員は処分要求の書面を提出したものの、被処分議員の氏名が明らかではないことを理由に、議長は要求書面の補正を求めましたが、言い換えれば、特定されれば何らかの対応をせざるを得なくなると思います。

以上から、本件の野次の発言者が特定されることを前提、名誉棄損などの刑事、民事の責任も発生しうることになるでしょうし、懲罰や、所属会派による処分なども、ありうるでしょう。

一部の議員は、「ここまで問題になるとは・・・」と感想を述べたそうです。

確かに、従来から野次の品格については話題になりましたが、このような個人の責任追及が盛り上がるのは、あまり例がありません。

しかしこれは、議員の発言に対する世間の態度や、議員に要求される能力が、時代によって変わってきたと捉えるべきかもしれません。

議会は、仲間内の閉鎖的なクラブではなく、あくまで、住民の付託を受けた選良による議論が公開でなされる場である、というのが原則のはずです。

言うまでもなく、野次も、議会内での表現行為の一つです。

翻って考えれば、日本の議会政治家は、公開の場所での表現力よりも、人脈や、膝詰めの交渉力、落としどころを見つけてタイミングよく提案する調整力が優先されてきたと思います。前述の一部議員の感想も、そのような認識を背景にしていると考えられます。

しかし、インターネットを通じ、議会等での発言や失言が瞬く間に拡散する時代。これからの政治家には、目の前の人物はもちろん、その背後にいる無数の大衆に語りかける表現力が、優先されざるを得ません。

今回の野次騒動、政治家に求められる能力が変わりつつある、そんな時代の転換点を象徴するものではないでしょうか。

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