ワールドカップ(W杯)ブラジル大会の12会場で最南端に位置する港町、ポルトアレグレ。18日にここでオランダの決勝トーナメント進出とオーストラリアの敗退を見届けて、明けて19日に500キロほど北へ隔たったクリチバへ戻ってきた。
■スアレス、いきなりの2得点
1次リーグのうちは、私の受け持ちはこの南部の2会場がもっぱらで、ここら一帯は朝晩になるとかなり肌寒い。夜気はひやりとしたものを含んでおり、外出時にはそれなりに厚手のアウターが手放せない。街の景観はどことなく欧州ふうの整然としたもので、ブラジルを旅している感じはあまりしない。
内陸のクリチバにはビーチもなく水着の美女もいないので、ホテルの部屋で他会場の試合をテレビ観戦することにした。そこで大写しになったのがウルグアイのFWルイス・スアレスだった。
はい、今季のイングランド・プレミアリーグで得点王になった人ですね。先月に左ひざを手術したため大事をとって初戦のコスタリカ戦の出場を見合わせた。スアレス抜きでも勝てそうだとタバレス監督は高をくくっていたのだろう。案に相違してコスタリカはへこたれず、逆さまにウルグアイのほうが1―3でペチャンコにされちゃった。それで慌てて次のイングランド戦にエースが出てきたわけである。
やらせてみると、いきなりの2得点だった。動きはキレキレ、栄養が行き届いているとみえて肌の色艶もテカテカで、これでどうして初戦をお休みする必要があったのかさっぱりわからない。
リーグ戦で幾度となく手合わせをしているはずなのに、イングランドの真っ正直なDFたちは毎度スアレスの隠遁(いんとん)術にだまされる。1失点目ではファーサイドについと逃げられ、2失点目で裏へすり抜けられた。ご愁傷さまでした。
客席のウルグアイのサポーターが掲げるスアレスの似顔絵に王冠がかぶせてあって、下に大きく「GOD SAVE THE KING」の文字がみえた。気の利いたキャプションだ。実際、ありがたい福音は英国の女王陛下でなくて、泣き笑いのような顔を終始一貫浮かべたウルグアイのキングに届いたわけだ。
王様というとブラジルのペレ氏を連想するけれど、言われてみればスアレスこそが王冠に似つかわしい人物に思えてくる。人徳をもって王道を敷く明君というわけではもちろんない。理非曲直を超えた聖俗一緒くたの古代の王。頑強でしたたかでエモーショナルで、ほとんど魔王に近いイメージだ。
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