Financial Times

米国とシーア派の協調行動はスンニ過激派の夢

2014.06.23(月)  Financial Times

(2014年6月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

米英による2003年の侵略がいかにして2014年に単一国家としてのイラクの内部崩壊につながったのかを巡る激しい議論は、イラク軍を訓練し武装するのに300億ドルを費やしたにもかかわらず、同軍がなぜジハード(聖戦)戦士の大群の前にあっさり退散したのかを問う困惑した米国議会の議論とともに、やる価値のある議論だ。だが、そうした議論がイラクを救うことはない。

 米国主導の占領がイラク国家を粉々にした――地域の勢力バランスを変え、宗派間の戦いに火を付け、それまでイラクを支配していた少数派スンニ派を権力の座から追い落とした――無謀さの後には、シリアを巡る西側のお粗末な意思決定が続いた。

 シリアの(多数派のスンニ派による)反政府勢力に対する西側の支援をサウジアラビアとペルシャ湾岸の同盟国並びにトルコの手に委ねたこと、さらにバシャル・アル・アサド大統領と戦う主流派の反乱者に対するしみったれた支援が、中近東でジハード主義のフランケンシュタインの怪物を生み出すのは必至だった。

 だが、当面の急務は、「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」が――少なくとも今のところは――その先頭に立っている、本質的にスンニ派のアラブ蜂起である動きをどのように食い止めるか、だ。

 アルカイダによって生み出されたジハード主義の運動の実績は、ほぼ一様に失敗の連続だった。彼らの残虐性の裏側にあるのはナルシシズムだ。ジハード主義者の全体主義的な急進主義は、しばしば保守的な社会や部族の特権と対立するため、めったに同調者をつなぎとめることができない。

 それがISISの前身に起きたことだ。ISISの前身組織は2007~08年の米軍増派の時期に、スンニ派のアラブ民族によってイラク中部と西部の大部分から追い出された。シリアだけではジハード主義の復活を説明できない。

ジハード主義勢力を後押しした最大の要因

 シリアの戦場は、ジハード主義勢力に貴重な後方守備隊と安全な補給ラインを与えている。だが、何にも増して彼らに成功をもたらしているのは、今春の総選挙後に3期目を迎えることになったイスラム教シーア派のヌリ・アル・マリキ首相が宗派的な政策を実行し、サダム・フセインの下で享受していた権力を失った後に屈辱を受けてきたイラクのスンニ派を迫害したことだ。

 マリキ首相は、スンニ派のアラブ民族だけでなくクルド人も敵に回した。クルド人はイラク北部で自治を行っているが、同盟的な解決策には、敵対するシーア派とともに触媒的な役割を果たす存在だ。イスラーム・ダアワ党出身のマリキ氏は莫大な権力と資源をため込んだため、シーア派のミニ・サダム――そしてISISの兵士採用担当軍曹――になった。

 折しもスンニ派のアラブ民族がイラク政府から疎外され…
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