経営者 清水亮
1976年生まれ。高校在学中にプログラミングの記事を「I/O」誌に連載。電気通信大学に在学中、米Microsoftで次世代ゲーム機の開発などに携わる。1998年、ドワンゴに入社、携帯電話事業を立ち上げ2002年に退社。2003年、ユビキタスエンターテイメントを設立、代表取締役CEO。2004年に未踏「スーパークリエイター」認定。著書に『教養としてのプログラミング講座』など。
- 清水亮が一度口を開けば、話は簡単には終わらない。意表を突く話題、表現が次々と飛び出してくる。
- 「やがて、すべての会社はソフト会社になる。だからこそハードを作らなければいけなかった。ハードはソフトですから」。
- この発言だけを取り出すと不条理にすら聞こえるかもしれないが、話に耳を傾けるうちに、そのような表現でなければ伝わらない話をしていることが分かってくる。背景には、コンピュータとソフトウェアが世界中を覆い尽くす大変化が今まさに進行中との認識がある。個人が、会社が、そのような世界を生き延びるためには、今何をするべきか──。それを考えた上で出てきた言葉なのだ。
- 清水が率いるユビキタスエンターテインメント（UEI）は、創業以来、携帯電話やスマートフォンに関連するソフトウェアを手がけてきた。事業分野はスマートフォンアプリなどに関わる受託開発、ソーシャルゲーム、スマートフォン向けミドルウェア、CMS（コンテンツ管理システム）などだ。
- 同社は、2013年7月、世の中を驚かせる製品の出荷を開始した。オリジナルのOSを搭載した手書きタブレットenchantMOONだ。ペン入力、ハイパーテキスト、ビジュアルプログラミング言語を組み合わせた、今までのどのコンピュータにも似ていない、不思議なデバイスだった──。
- 冒頭に紹介した「ハードはソフト」との発言を噛み砕くなら、工業製品の設計、製造に必要な設計情報やノウハウは、広い意味でのソフトウェアと呼べるということだ。しかも、CAD（コンピュータ支援設計）、CNC（コンピュータ数値制御の工作機械）、3Dプリンタなどの普及で、ハードウェア設計は、コンピュータのプログラミングと同じく言語と数値により記述するようになった。FPGA（field-programmable gate array）のように、ソフトウェアによりハードウェア（電子回路）そのものを変更してしまう技術も使われている。
- この信念のもと、清水が多大な情熱を注ぎ込んだハードウェア製品が、前述のenchantMOONだ。
- enchantMOONは強烈な個性を持つ。外装デザイン、ユーザーインタフェース（UI）とも、既存のコンピュータやスマートデバイス製品のどれとも似ていない。Androidをベースに構築したOSを搭載するが、Androidとの互換性はあえて持たせていない。慣れ親しんだメニューに基づくUIもなく、同社はこのコンセプトを「NoUI」と呼んでいる。このコンピュータに指示を与えるためには、指とスタイラスペンを使い分けてコマンドを「手書き」しなければならない。
- このenchantMOONについてはすでに多くの記事が世の中に出ているが、評価が定まるまでには、まだ時間がかかりそうだ。今回の取材で見えてきたことが一つある。経営者としての清水は、会社の未来を考えたときに、このようなオリジナルのハードウェア製品を作ることが必要だと考えていたのだ。
- 「一回は、enchantMOONを作らないといけなかった」。
- そう清水は語る。なぜだろうか。
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Vol.12 経営者 清水亮
すべての仕事はプログラミングになる、だからハードを作る
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