(英エコノミスト誌 2014年6月21日号)
アマゾン・ドット・コムは様々な業界のあり方を根底から覆し、世界の買い物の形を変えてきた。だが、その力の乱用には気をつけなければならない。
20年前、金融界の職を辞し、新しい会社を起こすためにシアトルへ移ったジェフ・ベゾス氏は、ガレージ付きの家を借りた。米アップルや米ヒューレット・パッカード(HP)のような会社が生まれたのが、まさにこうしたガレージだったからだ。
ベゾス氏が始めたのは書籍の販売だったが、彼は自らの野心の大きさを大河になぞらえ、その会社を「アマゾン」と名づけた。
世界最大のEコマース企業となったアマゾンは6月18日、同社初のスマートフォンを発表した。アマゾンはそのスマートフォンを単なる通信デバイスというよりも、独創的なショッピングプラットフォームとして、さらには消費者のデータを集めてより正確に商品を勧めるための手段として捉えている。
このスマートフォンは、アマゾンの特徴をよく表している。そこに見えるのは、とどまることを知らない拡張路線だ。本や洗濯機を売れるのなら、携帯電話を売れない理由があるだろうか?
原子からなる現実の世界と、ビットからなるデジタルの世界を行き来できる能力も、アマゾンの特徴だ。アマゾンは現実世界で最高レベルの流通システムを持つと同時に、クラウドコンピューティングや電子書籍、ビデオストリーミング、音楽ダウンロードにも手を広げている。そこには、目先の利益よりも市場シェアを追求する意欲も見て取れる。
一方で、「アマゾンは既にユーザーの個人情報を知りすぎている」というやや気味の悪い感覚もある。これまでのところ、アマゾンの飽くことのない欲求は、消費者のためになってきた。だが、会社の規模と力が大きくなるにつれ、行き過ぎの危険が生じている。
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差し当たりは、恐れを抱くよりも称賛すべきだろう。いまや世界が当たり前と思っていることの多くは、ベゾス氏が導入したものだ。
ウェブブラウザーにクレジットカード番号を入力するなどという行為は、かつては狂気の沙汰と考えられていた。だがそれも、アマゾンがオンラインでの買い物がいかに簡単かつ安全に可能かを証明したことで変わった。ひとたび本を買った人たちは、ほかのものも買うようになった。いまや世界のEコマース市場は、1兆5000億ドル規模に達する。
購入者によるレビューの登場を後押ししたのもアマゾンだ。アマゾンはサービス開始当初から、購入者に書籍のランクづけやレビューをさせている。今でもそれを不快に思うプロの批評家はいるし、度を越した5つ星の評価のいくつかは、著者の配偶者によるものかもしれない。だが全体としては、購入者にとって貴重なアドバイスになっている。
今では、アプリケーションからホテル、ホースに至るまで、あらゆるものがオンラインでランクづけされ、購入者レビューのない小売りサイトは何か足りなく見えるほどだ。