けさの日経新聞で、自民党の塩崎恭久氏が「2%の実質成長率を続けるために移民を受け入れる」という。「向こう30年間に就業者数は1400万人減るから、2%成長を維持するには2.9%の非現実的な労働生産性上昇率が必要だ。移民を年20万人受け入れれば労働人口が維持できる」というが、これは錯覚だ。
労働生産性は労働者一人あたりの付加価値だから、就業者数がどうなろうと変わらない。労働人口が減るとグロスの成長率は下がるが、一人あたりの成長率には影響しない(一人あたり資本は増えるのでプラス)。人口が減るのに、GDPが2%も成長する必要はないのだ。

資本蓄積率と生産性上昇率の合計は1%ぐらいあるので、労働生産性が1%上がれば、一人あたりGDPは2%ぐらい上がる。グロスでみても、労働人口が1%減るとしても1%成長は可能だ。「人手が足りないから移民を入れる」というのもナンセンスである。中島隆信氏が批判するように、人手が不足したら賃金が上がり、失業率が下がる。絶対的に労働者が足りないという事態は起こりえない。

問題はニューズウィークにも書いたように、社会保障の負担が若年層に片寄ることだ。この原因は社会保障の貧困であり、これを人口減のせいにするのは問題のすりかえだ。移民を入れると未納や無保険者が増え、社会保障のゆがみはかえって悪化する。これは欧米諸国が悩んでいる問題だ。フランスでは移民を排斥する極右政党が欧州議会の第一党になった。

民族の同質性が高い日本では、もっと深刻な問題が起こるだろう。ゲーム理論でよく知られているように、囚人のジレンマでは裏切りの利益は協力する人の比率が高いほど大きい。日本のように相手を無条件に信用するお人好しの多い社会では移民の犯罪が激増し、社会全体のモラルが不可逆的に低下するおそれがある。

労働力を確保する手段としても、正社員の特権をなくして労働市場を自由化し、保育所を民営化して女性の就業率を上げるなど、移民を増やすより前にできることはいくらでもある。今のようないびつな雇用慣行のまま移民を増やしたら、「二重構造」の労働市場が「三重構造」になるだけだ。

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