近ごろでは、オタクはすっかり勝ち組扱いだ。シリコン・ヴァレーのスタートアップの共同出資者といえばオタクぞろいだし、TVコメディでもオタクはスター扱いだ。独身女性の目から見ても、理想の好男子はいまやオタクという時代なのだ。ところが、いざ成人したオタクと恋愛してみると、彼らの意外な一面も見えてくる。オタクとのデートは、長い週末にふたりでビールとスナックをつまみながら「Fringe」を観て、その合間にいちゃつく、というようなわけにはいかない。オタクは恋愛を求めて生きるのではないし、女の子のパンツに潜り込めたことに感謝するわけでもない。ハイスクールを童貞のままで卒業したという屈辱が、いまだに深い心の傷になっているのだ─。そんなオタクたちの生態を、シボーン・ローゼンが赤裸々につづる。
Text: Siobhan Rosen 翻訳:待兼音二郎
Angryオタクに要注意。“爆発しそうな欲求”を抱えて、襲ってくるかも
はじめてのボーイフレンドは忘れもしない。石拳殺し漢(もちろん本名じゃなくて、ダンジョンズ&ドラゴンズでの彼のキャラクター名)の異名をとるコンピューター・クラブの会員で、数学選手権でも活躍した男の子だ。ストーンフィストは日本のマンガを集めている低体重のオタクだったし、かたやわたしは、ユダヤ教の通過儀礼をスター・ウォーズ風にやるという体重過多なオタクだった。
ハイスクールでの恋愛なんて単純な(「フライドポテトにケチャップをつけるのって好き?」「うん、好きだよ」)ものだし、世間から虐げられたオタク同士で、おまけに対になる性器をもっているということで、彼こそがわたしの理想の彼氏なのだ……という思いを確信に変えるには十分だった。
そんなこんなで、わたしたちは3年ばかり付き合った。午後はたいてい彼のお気に入りのVHSテープを観ながらいちゃいちゃして過ごした。それにしても驚いたのは、このわたしと恋愛するまで、ストーンフィストが完全に童貞だったということだ。そんな彼がいまや、毎日女の子から五本指の独演を受ける立場になったわけだ。スター・ウォーズに出てくる種族をぜんぶそらで言えるような女の子ではあったけれども。彼はわたしに夢中だったし、わたしも彼に夢中だった。
そんなラブラブな関係が終わったのは、大学1年の前期のことだ。トレーシーという女子学生が彼の前に現れたことで、わたしはお払い箱になったのだ。相手はハイスクール時代にチアリーダーをつとめ、寮の部屋に子猫のポスターをべたべたと貼るような女だ。
それにしても、どうしてチアリーダーなんかに? わたしという気心の知れたダンジョン・マスターがいるというのに。「ええとね……ぼくが好きなんだってさ」と電話越しに告げる彼の声には、にわかには信じがたい幸運への喜びが込められていた。その喜びをきみにもわかってほしいと言外に告げていた。
その時だ、男と女をめぐるこの世の真理を、わたしが初めて垣間見たのは。いかにオタクであろうと、ことセックスに関するかぎりは、ホルモンに惑わされたペニスをぶらさげたいかなる男とも違わないのだ。