政府は、2015年度から予定している法人実効税率の引き下げをめぐり、標準税率(34・62%)に約1%を上乗せしている東京都に対し、上乗せ分を廃止するよう要請する方針を固めた。
実効税率を数年で20%台にする目標を実現させるため、税率が最も高い東京都にまず協力を求める。都が上乗せしたままだと、都に納税している企業が不利になると説得する構えだ。
法人実効税率は、企業のもうけ(所得)にかかる国税と地方税の負担割合を指す。このうち、地方税である法人住民税と法人事業税は、自治体が一定の範囲で独自に税率を上乗せできる。特に、大都市部では、税率を高めにしても企業が集まるため、税収を確保する意味でも税率を他の自治体より高くしている例が多い。
この「実効税率」という用語、誤った印象を与えやすいので改めるべきだと前々から思うんですよね。「実効」税率などというと、あたかも実際に化される税率に見えてしまうフシもあるのではないでしょうか。より正しく有権者へ実像を伝えるためには「額面税率」と呼んだ方が適当ではないかと提案したいところです。これなら額面給与と手取り給与の違いのようなもの、実際に課される税はもっと少なくなるということが一般にも理解されるはずです。
それはさておき、消費税が引き上げられれば次は法人税が引き下げられる番です。社会保障財源として消費税率の引き上げが不可欠だと叫ばれ、しかし消費税が引き上げられても社会保障の危機論は絶えることなく、その進捗が見えないまま増税分は法人税の引き下げに使われてしまう――この日本のお決まりのパターンは今後も繰り返されることになりそうです。当初は金融緩和、財政出動に異常な為替レートの是正とオーソドックスな政策で経済情勢を好転させつつあった安倍内閣も昨今は揺り戻しが来たと言いますか、再びこの十数年来の不況へ突き進みたがっているかのごとき政策が少なからず提言されているのは大いに懸念されます。
法人税の引き下げも、ある種の人々に精神的な満足感を与えるであろうことは確実ですが、日本の財政並びに経済に関してはどうなのでしょう。給与水準が下がり続け、GDPが横ばいを続ける中でも日本の非金融法人の現金・預金残高は大幅な上昇を続け、空前の内部留保を積み上げてきたわけです。資金に余裕があっても使い道を見いだせない企業ばかりという日本において、黒字の企業にしか課されない法人税を減税したところで結果は知れています。内部留保の額=豊かさだと考えるのであれば法人税減税もアリなのかも知れませんが、それは完全にガラパゴス的発想です。
日本と同じように消費税を上げて法人税を下げることを優先していった国としては財政破綻したギリシャなどが真っ先に思い浮かぶところでもあります。なるべく貧しいところから税を取りたい、金を余らせている企業には課税したくないという経済界の思想信条と日本国の財政を心中させようというのは、それこそ行政が真っ先にストップをかけねばならないものではないかとすら言えますね。それでもなお、アホアホしい法人税引き下げ論は絶えることがありません。
日本の法人税は高いかのごとくに言われますが、それはあくまで「額面」の話でもあるわけです。そして額面の税率が日本より低いように見える国でも先進国と呼ばれる国は社会保険料の雇用者負担が日本よりもずっと大きくなっていたりするもので、法人税と社会保険料の雇用者負担の合計で考えれば日本は税負担が軽い部類に入ります。逆に法人税の額面税率が日本より高い国としては、なんだかんだ言って世界のナンバーワンであるアメリカが出てくる、ではアメリカが法人税の高さによって企業から敬遠されて経済が衰退しているかと言えば、現実は全くの逆です。経済誌で語られているような法人税引き下げの論理が通じる世界など地球のどこにもありません。
日本とアメリカに言えることは、地方と東京に置き換えても当てはまるようです。つまり、法人税率が高かろうと、企業は集まるということですね。法人税が日本より高いはずのアメリカにも当たり前のように企業が林立して経済を支えているように、法人税が他の自治体よりも高い東京はまさに一極集中が止まることを知らない有様です。結局のところ、企業を惹きつける上で重要なのは法人税の低さよりも、もっと別のものであることがわかります。税率が高かろうと良い市場があれば企業は活動の拠点を求めるものですし、逆に税率が低かろうと田舎に引きこもったりはしないものです。中には怪しげな小国に書類だけの法人を登記して節税という名の実質的な脱税に励む悪質な企業もありますけれど、そういう企業を呼び込むために法人税を下げるというのも馬鹿げた話でしょう?