私がテナーホーンの名手ならば録音して音声ファイルを置いてお聞かせするところですが、あいにく満足のいく音色ではないので、残念ながら私の音はここに載せません。
かわりにテナーホーンのソロCDをご紹介いたします。「テナーホーンのソロCDなんてあるのか!?」と驚く人もいるとは思いますが、もちろんあります。私が持っているものを購入した順番にご紹介いたします。
William RushworthのテナーホーンソロCD「THE CLASSIC HORN COLLECTION」(KIRKLEES MUSIC KRCD1032)です。伴奏はJJB Sports Leyland Bandです。
William Rashworthはイギリスはヨークシャー州デューズバリの生まれです。Rushworthの家はブラスバンドの名手が数々輩出されている典型的なブラスバンド一家です。幼年時代はオーストラリアで過ごし、9歳でギターを始めましたが3年後コルネットに変わりました。その後数々のバンドを渡り歩き、マーカム・メイン・コリアリ・バンドではプリンシパルコルネットを務めましたが、やがてテナーホーンへ転向しヨークシャー・ビルディング・ソサエティ・バンド、ブラック・ダイク・バンド等を経てJJBスポーツ・レイランド・バンドにたどり着きました。
このCDでは比較的男性的なテナーホーンの音色を楽しめる演奏が多く収録されています。コルネットからの転向という経歴のせいか、低音域の演奏はやや雑な音色に聞こえますが、イギリスでもトップクラスのテナーホーン奏者ですのでさすがという演奏が並びます。
曲目は下記のとおりです。
Sheona WhiteのテナーホーンソロCD「The Voice of the Tenor Horn」(Polyphonic QPRL206D)です。伴奏はYorkshire Building Society Bandで、指揮はDavid Kingです。
Sheona Whiteはスコットランドの生まれで、10歳からテナーホーンを始めました。Junior National Solo Championとなり、the National Youth Brass Band of Scotlandのプリンシパルホーン奏者になりました。1992年から1996年までサルフォード大学で学び、卒業後は数々の賞に輝き、現在はブージー&ホークス社のコンサルタントとして、またサルフォード大学音学部でテナーホーンの講師を勤めています。
このCDはとてもテナーホーンらしい甘くやさしい音色が満喫できます。William Rashworshの「THE CLASSIC HORN COLLECTION」にも収録されていますが、このCDにもDemelzaが収録されており、聞き比べてみるのもいいでしょう。私は個人的にはこちらのDemelzaの演奏の方が好きなのですが、皆さんはどのようにお感じになるでしょうか。
曲目は下記のとおりです。
Gordon HigginbottomのテナーホーンソロCD「SONATA」(KIRKLEES MUSIC KRCD1016)です。伴奏は曲ごとに異なり、ブラスバンドとしてはBrass Band Berner Oberland、Lewington Yamaha Brass、ブラスアンサンブルのThe James Shepherd Versatile Brass、ピアノ伴奏のJohn Golland、Tony Cliffといった面々です。
Gordon Higginbottomは前述の2枚の奏者よりは昔の人です。テナーホーンのソロ奏者としては伝説的な人なのだそうです。トロンボーン奏者であった父親の指導の下、ランカシャーのKearsley Silver Prize Bandで経験をつみました。その後、Besses Boys' BandからBesses o'th' Barn BandでWillie Woodの、CWS(Manchester) BandでAlex Mortimerの下でバンド活動をしていました。更なるステップとしてGordonはJames Sheperd Versatile Brassのプリンシパルホーン奏者として17年間活動し、多くのイギリスのラジオ放送やテレビ番組に出演しました。
このCDはテナーホーンのソロだけではなく、Alphorn(アルペンホルン)のソロも含まれており、彼の多才ぶりがうかがえます。前述の二人とは違いGordonはヤマハのアルトホルンを愛用しており、輪郭のはっきりしたハスキーな音色が味わえます。演奏自体はよいのですが、録音が古いという感じで、そのことにより魅力がそがれている感もあり、その点は残念ですがよい演奏です。
曲目は下記のとおりです。
Owen FarrのテナーホーンソロCD「UNTOLD STORIES」(DOYEN DOYCD225)です。伴奏はRobert Childs指揮のCory Bandです。
Owen Farrは6歳のときPontypool Brass Bandでブラスバンドをはじめました。ウェールズの各ユースバンドで首席ホーン奏者として活動し、1995年、BTM Brass Bandのメンバーとしてブリティッシュ・オープン・ジュニア・ソロチャンピオンに輝きました。王立ノーザン音楽大学(RNCM)に入学、その半年後、かの有名なWilliams' Fairey Engineering Brass Bandに参加。やがてウェールズに戻り、2007年現在、Cory Bandにて活動、リバプール大学にてテナーホーンを教えています。
非常に技術的安定感のある演奏を特長とし、複雑で難易度の高い旋律を軽やかに吹き抜けていきます。「あぁ、テナーホーンってこんなにスマートに演奏できるのですね」と演奏を聞いて素直に感心しました。複数の筋から聞き及ぶところでは彼はアーバン金管教本とクラーク教則本をくまなく練習すれば吹けるようになると話しているそうで、そう語れるほどに吹き込んでいるのであろうことがこのCDからはビシバシと伝わってきます。
残念なのはこのCDの演奏における技術的完成度の高さに対してフレーズにこめる叙情的表現力とのバランスが取れていないこと。けっして無機質な演奏ではなく、上記3人とも渡り合うかなりハイレベルな演奏をしているのですが、あまりにも技術力が優れすぎているためにほかの面がかすんでいるという感じでしょうか。経歴からすると彼はまだ若手と表現できる年齢だと思われるので、今後の人生経験の中で演奏の深みが増して、誰も到達し得なかった至高の演奏を聞かせてくれることを期待しています。