海内誠の私小説的小説
死ね死ねマジ死ねマジ死んじまえ
すげー適当。
俺には何かしらの才能がある。だから今はダメでも、いつか何かを成し遂げてみせる。そう思って今までの二十年間、生きてきた。実にくだらない二十年間だった。実に無意味な十五年間だった。実に理不尽な二十年間だった。本当に恵まれない二十年間だった。いま俺は青春真っ盛りなわけだが、しかし俺の青春はもう死んでいる。友達いない、彼女いない、夢もない、才能もない、努力すらもしたくない。ないないないないないないない。何もない。本当に何もない。今まで俺は何もやってこなかった。何も成し遂げてこなかった。何も結果を出さなかった。それどころか、人に迷惑ばかりかけて生きてきた。親にも、教師にも、クラスメイトにも、街を歩く俺とは何の関係もない人々にも。何もできない俺は、生きているだけで人の迷惑になるのだった。つまり社会のゴミだった。外に出るのがつらかった。みんなが俺を罵っているようだった。みんなが俺に蔑みの目を向けているようだった。いつごろからか、俺はそう感じるようになった。それはたぶん、大学に入った直後だったように思う。中学、高校とろくでもない学校生活を送って貴重な青春時代をドブに投げ捨ててきた俺は、大学でこそはと一念発起してイメチェンしてコミュ力もつけていろいろ頑張って新歓コンパに臨んだのに、臆病でチキンで気の小さい俺はそこでもまた萎縮してしまって、みんなが早くも打ち解けている中、隅の席でひとりぼっちで鍋をつつているだけのみじめな存在に成り下がっていた。ひでぇもんだった。クソみてぇだった。今すぐ新歓コンパの時に時間を戻して、すべてをやり直したかった。いや、でもちょっと待て。俺のことだ、やり直したところで同じ結果になるのは目に見えている。やっぱりゴミだ。容姿も性格もコミュ力も鼻クソ以下だ。俺なんか死んじまえばいいのに。俺なんか死ね。死ね死ね死ね死ね。でも、そう思ったところで、臆病でチキンで気の小さい俺に自殺なんかできるはずもなく、できることといえば、自室にこもってパソコンでエロ動画を観ながらそそり立った粗末なイチモツを掴んで上下に動かすことぐらいだった。はあはあはあはあ、あーやべー、この子かわいいわー、あーいいなー、この男優マジうらやましい、ああそうか、AV男優になればいいのか、そうすりゃこんなかわいい子と毎日ヤリまくれるぞ! 俺は天才か! そうか、俺の才能ってこれだったのか! うおおおおおうおおおおおおおおおおお! うっ! ドピュルルル! 俺は射精した! 頭の中が真っ白になる。最高にエクスタシー。マジ気持ちいい……。でもそのあとすぐに倦怠感が襲ってきて、俺の体は一気に重たくなった。さっきまでチンポコを握っていた右手をパソコンの横に置いたティッシュ箱に伸ばして、ティッシュを二枚、掴み取る。そしてチンポコの先っぽから生き物みたいに飛び出した白い粘液、通称「精子」、別名「ザーメン」、愛称「カウパー液」を拭き取って、机の足下のところに置いてあるゴミ箱にシュート。本来なら子供を作ることに使われるべき貴重な精液は、俺の右手というマンコによって果てて、ティッシュという膣に出して、ゴミ箱という子宮に届いてやがて妊娠した。んなわけあるか。死ねボケ。俺はいまだ気怠さの残る体を動かすことすら億劫で、椅子にでろーんと座った情けない格好のままパソコンの画面の中で流れ続けるAVにぼんやりと目を向けていた。画面の中では、AV男優がAV女優のかわいこちゃんの腹の上に精液を出しているところだった。ザーメンピュッピュ。うわきたねぇ。観ているのが苦痛になって、AVの再生を止めた。そうすると、本当に何もやることがなくなった。あとはーそうだなー溜まったアニメでも観るかー、溜まった性欲はもう処理し終えたわけだしーあははー俺ギャグセンたけーあははーあははははーははは、はは、ははははは、はは、はぁ……。俺はため息をついて天井を仰いだ。当然だが、そこには白い天井しかなかった。いや、まぁ何かあることを期待してたわけじゃないんだけど。……あーむなしい。むなしいむなしいむなしい。大学行かずに引きこもって、友達も彼女もできないで部屋でひとりきりでチンポコしごいて、この少子化の時代に貴重な精液無駄にして、いったい俺は何をやってるんだろう。ほんとむなしい毎日。ほんとくだらない毎日。くだらん。あーくだらん。殺してぇ。誰でもいいから殺してぇ。でも外出れねぇ。くっそ、くそくそくそくそ。「ただいまー」あ、クソ妹が帰ってきた。「クソ兄貴ーいるー? 彼氏いるから出てってくんなーい?」うるせぇ黙れクソビッチ。俺はもちろん無視。くだらん。俺はおめーらの性交なんざ気にしねーから、どうぞ好きなだけおヤりなさいな。さぞかし気持ちいいんでしょうねぇ、自家発電とは違って。あーやだやだ。ま、どーだっていーけど。うーん、それにしても暇だ。アニメ観る気も失せた。通販で買った本や漫画やエロゲだって部屋の隅に大量に積んであるけど、それをいま読む気にはされない。……これはあれか? 天の神様が俺に、何か新しいことに挑戦して自分が何の才能を持っているかを見つけてみろって言ってるのか? よーし、じゃあそういうことにしてなんか始めるかーはははー。……とは言ったものの、何をやれあいいのかさっぱりわからない。そもそも俺が才能ありそうな分野ってのがまったく想像つかない。とりあえずいま部屋の中にあるものを確認してみよう。パソコン×2、小説と漫画とエロゲが大量、アニソンのCDが何枚か、筆記用具が入ったペンケース、ほとんど使わない携帯端末、ほとんど使わないウォークマン、あとは……机と椅子と無駄にデカイベッドと精液ティッシュの入ったゴミ箱。うわーなんだよ俺の部屋。ほんとに大学生かよー、って、そういや俺、大学生じゃなかったな、引きこもりだった。ははは。笑えん。さて何をしよう。ちなみに俺がこの中で一番使ってるのはもちろん、俺の目の前にあるパソコンだ。用途は主にネット。つーかそれ以外に使わん。たまにマインスイーパーやるぐらい。まぁ最近はそれもやらんけど。つーわけで俺はパソコンに目を向ける。パソコンでできること……ネット? 思わずブラウザのボタンを押しそうになった手を押しとどめる。あぶないあぶない、これじゃ今までと何も変わらない。何かやらなければいけないってのに。えーとだな……。俺はウィンドウズのボタンをクリックして、パソコンに入っているプログラムをあさる……なんもねぇ。ネットとネトゲ(とたまにAV鑑賞)しかやんねぇから最初に買ったときのままほとんど何も増えてねぇ。ははは。笑ってる場合か! 俺はとりあえずデフォルトで入ってるプログラムだのソフトだの中から、何か使えそうなものはないかと探す。――その瞬間、俺の頭に電撃が走り抜けた! ……比喩ではない。誇張表現でもない。マジで。ガチで。電撃が走り抜けた。ずびーんががががががが……なんだなんだ、うおっこれがひらめきってやつか! エウレカ! 俺は裸になって街へ飛び出していきたくなったのをなんとかこらえ、「Microsoft Word 2013」と表示された部分にカーソルを合わせ、クリック。ワードが開く。横書き設定になってるのを苦労して縦書き設定にし、さてと。何を書いたものか。そう、書くのだ。俺は書くのだ。小説を。世界に唯一つの、最強で最高の傑作を。書いてやるのだ。なんでそんなことがひらめいたかはわからん。とにかく、天啓のようなものが、俺に「小説を書け」とささやいたのだ。なら書いてやるぜー、ということでとりあえずワードを開いたわけだが、しかし何を書いたものかさっぱりわからない。どんなジャンルの小説を書けばいいのかもわからん。俺がよく読む小説のジャンルはSFとライトノベルで、だったらそのどっちか書けばいいんじゃねーとか思ったけど事はそう簡単にはいかねーよなーと思い直して、何を書くか思案思案。ううむ。いや、ちょっと待てよ。神様が俺に「小説を書くがいい!」とささやいたんだ。それってつまり、俺に小説書きとしての才能があるってことなんじゃないのか? ……オウ! 今までの俺よ! どうしてもっと早くそのことに気づかなかった! 気づいてたら今ごろ俺は大ベストセラー作家とかなんか偉い作家とか凄い作家とかになって日本SF大賞とかヒューゴー賞とかピューリッツァー賞とかノーベル文学賞とか獲ってたかもしれないのに! もったいない! 才能の浪費! 文学史の空白! ああ! なんてことだ! ってなわけでとりあえず俺は小説を書き始めた。つっても、何を書くかはまだ決まってない。いやほんとどーしよ。ジャンルすら決まってないし。ううううううん。ううううううううううううううん。うううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううん。よし。純文学書こう。キーボードカタカタカタカタ……………………………………っだーーーーーーーーーーーーーーーー! 書けねーーーーーーーー! 全っ然、書っけねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! よし、純文学はあきらめよう。ぽいっと。じゃあなに書こう。やっぱ俺の好きなSFか? いやいや、でも俺、科学とかの知識ないし。いやでも、神林長平の『言壺』とか読むと、べつに科学やらなんやらの知識なんかなくたってSFは書けるんだぜ! ってわかるしなぁ。いやでも神林長平とか長谷敏司とかって思索とか思弁性に優れてなくちゃいけないんだろ? あー無理無理。SFやーめた。ううんどーしよ。よし、じゃあラノベ書くか。うん、それが一番楽だ。一番簡単だ。たぶん。よーし書くぞ。書くぞ書くぞ書きまくるぞーーーーーー! ……………………っだーーーーー! 俺コミュ力皆無すぎて会話文とかマジ書けねーーーーーー! しかも童貞だから女心とかマジわっかんねーーーーーー! いや待てよ。俺が書いてるのはラノベだ。ラノベってことはつまり、オタクカルチャーだ。小説の中のオタクカルチャーだ。オタクの聖典だ。ってことはべつに生身の女とかとかけ離れたキャラ造形でもいいってことだ。それに会話文だって、『化物語』とかあの辺のパクれば問題ねーだろ。よし書くか。いや待て。待て待て待て待て待て。それじゃダメだろう。だって俺は才能があるんだぞ? 天才小説家(になる予定)なんだぞ? だったら既存の作品の真似事してちゃダメだろーが! なにやってんの俺! 馬鹿なの死ぬの! ぶっころすぞおらあ! ……ふぅ、落ち着いた。よし書くか。カタカタカタ、カタン。……。…………。…………………………。………………あークソ! ダメだ! 書けねぇ! どーしても途中で止まっちまう。ああ、でもまぁそれもそーだな。よく考えてみりゃプロットなくちゃできねぇもんな。よし、プロット作ろう。右手でマウスを動かしてメモ帳を開く。真っ白。空白。ここに小説のあらすじとかテーマとか登場人物とか設定とか展開なんかをずらずらと書き込んでいくのだ。さて、まずジャンルだな……えっと、ラノベってことは決まってるわけだから、その中で何を書くかだな。今は異世界転生モノが流行ってると聞くし、ならばそれを書こう。いやいや待て。それじゃ他の才能のない有象無象どもと同じになってしまう。もっと独創的かつ普遍性のあるものを……となると、青春モノ? でも俺、今まで暗い青春しか送ってこなかったからラノベとかアニメであるようなきゃっきゃうふふな明るくて楽しくてラブでコメディな青春モノなんて書けねぇんだよなぁ。うーん。じゃあもうここは割り切って、暗い青春モノ書くか。ほら、ラノベにだって江波光則作品とか俺ガイルみたいに暗い青春モノなんていくらでもあるわけだし。よしジャンルは決まり。あとは設定を固めてくだけだ……。……。三時間が経過。「終わったーーー!」俺は両腕を伸ばして天を仰いで雄叫びを上げる。プロットが完成した。案外、早くできた。あとはこれを文章にするだけだ。ワードを開く。画面が真っ白になる。メモ帳に書き込んだプロットを見ながらキーボードを叩く。叩きまくる。ぶっ壊すぐらいの勢いで叩く。書く。書く書く。書く書く書く書く書く書く書く書く書く書く書く書く。一時間が経過。「あー! 集中切れたー! あー!」「うるさい!」長いこと集中してキーボードを打っていた手と画面に近づけて睨むようにしていた目をパソコンから離してまた雄叫びを上げると、クソ妹の怒鳴り声が隣の部屋から聞こえてきた。うるせーっての。彼氏はどーしたんだよ。俺のことなんかほっといてイってろっつーの。うるせーな、ちょっとぐらい叫ばせろやゴミカス。いやゴミカスは俺か。引きこもりだし。学費無駄にしてるし。光熱費無駄にしてるし。あークソみてぇだほんとに。よし休憩はこれでおしまいだ! 続き書くぞ! ……と思ってふたたびキーボードの上に指を置いたところで、急に倦怠感がこみ上げてきて俺は体ごと椅子から崩れ落ちた。どてーん。間抜けな音が部屋に響く。間抜けすぎ。俺が。あー疲れた。オナニー以外の能動的な行動で何かに集中したのとかマジでひさしぶりだわ。肩が凝った。痛い。目も痛い。疲れた。寝たい。俺はベッドへ向かう。倒れ込んで布団をひっかぶる。あー心地いい、ずっとこうしてたい………………あああああ、ダメだダメだ、こんなことしてる場合じゃねぇだろ、小説書かなきゃダメだろ。俺は天才なんだ、絶対の才能があるんだ。こんなところでグダグダしてる暇なんかねーだろ。よっしゃ、新党・立ち上がれ俺! 党員一名! 俺のみ! ドーン! 俺はベッドから起き上がった! そのまま机に向かう。椅子に座る。座ると同時に回転式の椅子に力が加わり、軋むような音を立ててついーーーっと回る。あー目が回る。止めてーーーーーあ、止まった。ふぅ。さてと。パソコンの画面と向かい合う。まだ見ぬ大傑作は一章の途中で止まっている。あー。あーーーあああーーーー。よし書く。…………。
三時間後。
「誠ーごはんここに置いとくよー」
母ちゃんがやってきて部屋の前に飯を載せた盆を置いてった。よし、疲れたし食うか。腹が減ったは小説書けぬ、って言うしな。椅子から立ち上がって部屋のドアを開けて盆を取って机まで運んでパソコンが邪魔だったのでどかして食べ始めた。あーうめぇ、カーチャンの飯マジうめぇ。マジ感謝ー親リスペクトー。ラップ楽しいぜー。はい食い終わったー。「母ちゃんごちそーさーん」部屋の外に盆を置いてまた中に戻ってパソコンと対峙する。この数時間でけっこう進んだ。集中力のない俺にしちゃあ上出来だ。今までの人生の中で一番輝いてるぜ。俺最高。キーボードカタカタ。よしこれで十枚。ずいぶん進んだなぁ。よし次。まだまだだぜ。さっきネットで確認してみたら、雷撃文庫の長編部門は最低でも七十枚、多くて百三十枚も必要なんだと。縦書きの42×34。そんな書けるかよアホ野郎。いやでも俺は天才なんだ、そんぐらい書けなくてどーすんだ。よーし。……。
二時間後。
「おい、何時だと思ってるんだ。電気代がもったいないから早く電気消して寝ろ」
父ちゃんが帰ってきたらしい。部屋のドアの前でなんかわめいてる。うるせぇな。俺は目をパソコンに向けて両手をキーボードの上に置いてカタカタ作業を続けながら後ろのドアの向こうに立ってるだろうクソ親父に向かって怒鳴る。「うるせー俺はいま創作やってるんだー黙ってろー」「あ? 創作?」「そーだー、小説書いてんだー、邪魔すんなー」「うるせぇ早く寝ろ!」バァン! うお! 俺ちゃんさすがにビックリ! ドォン! 俺も叩き返す! バガアアアン! 「うるせぇはよ寝ろクソガキ!」「俺はもう成人しとるわボケ!」「じゃあ寝ろ!」ドゴーン! ひー、マジキチ。まあいいか。カタカタカタカタ……
それから一週間経った。ずっと書いてたから性欲溜まりまくって俺のアレも勃った。やべー、マジでけー、あーマンコに突っ込みてえー、……いやいやんなこと言ってる場合かはよ書けや俺! 俺は天才なんだからマンコがなくたって小説さえありゃ生きていけるんだ! カタカタカタカタ! クソ妹が隣の部屋で彼氏とパンパンパンパンパンパンパンパンパンやってる間、俺はパソコンのキーボードに指をカタカタカタカタカタカタカタカタやって、あーなんかパソコンとセックスやってる気分だわー、ほんとのセックスしたことねーけどー、あーでもなんかすげー気持ちいいわー快感だわーマジ快感だわーカタカタカタカタカタカタカタカタ。でもそのうちなんか隣の部屋のパンパンパンパンとぐちゅぐちゅぐちゅがうるさくなってきて俺は椅子から立ってドア開けて隣の部屋のドア開けて「おいうるせーぞクソガキども! 俺はいま世紀の大傑作を書いてるんだ! 将来ノーベル文学賞受賞確実とまで言われてる俺の素晴らしき集中を邪魔してんじゃねー! ヤリたいんなら外でヤれ! 公園の木陰でヤって一般人に見つかって盗撮されてX‐videoに流されて世界中の性欲持て余した俺みたいなクソ猿どものオカズになってろこのクソ豚が!」一通り怒鳴るとクソ妹の上に覆いかぶさってゆっさゆっさ動いてた男も動かなくなって屍みたいになってやがてチンポコが縮んだのかクソ妹からのっそり離れて俺のほうにやってきて「うるせえクソニートが!」ドーン! いてぇ! 鼻折れた! てめぇやったなコラ! 俺は渾身の力を込めて殴り返す! ガーン! 「ぶぼらあ!」男は俺の神パンチで後ろにぶっ倒れる! 「ぐはぁ!」そして大げさな声を上げて白目むいて気絶! ざまぁ! 「へっへっへ」俺に負けるとはよっぽどの雑魚だなこいつ。チッ、部屋に戻るか。時間を無駄にしちまった。「ちょっと待ちなさいよ!」妹が掴みかかってきたので俺は妹の顔面とみぞおちに連続でパンチ! 妹は口から血を吐いてぶっ倒れる! 二人とも雑魚! 鼻クソ! 死ね! 俺は唾を吐きかけてクソ妹の部屋を出て自分の部屋へ戻った。よし。障害は消えた。デリート。俺はまたパソコンに向かい合い、キーボードをカタカタカタカタカタカタカタ…………
そうこうしてるうちにいつのまにか三週間が過ぎてた。時が流れるってのは早いもんだ。だってのになんで俺の原稿はまだ半分も進んでないんだ? 初日のあの猿みてぇな勢いはなんだったんだクソボケ。だってしょうがねぇだろ、プロットは最初からあってってのに六十枚書いたとこで止まっちまったんだよ。いやそれ言い訳になってねぇ。そうじゃねぇ。展開に詰まって文章に詰まったんだ。もう三日も悩んでるのにどーにも打開できねぇ。こりゃもう無理ゲーの域に達してる。「おい誠ーハロワ行けー」「うるせークソジジイーとっととくたばれー」「小説なんて書いてるより普通に就職するほうが確実だろーが」「うるせー俺は才能があんだよナメてんじゃねぇぞクソジジイ」「才能? まだ言ってんのかボンクラめが。んなもんあるわけねーだろ現実見ろやクソガキ」「クソガキでけっこーコケッコー。俺は自分を信じるぜ! キリッ!」「勝手にしろクソガキ!」ばーん。威力ぜんぜんねー、そして怖くねー。俺は気にせずパソコンの画面と格闘。くそ。くそくそくそ。スランプ脱出のためにこの一週間、いくつか短編を書いたりもしてみたんだけどどれも駄作としか言いようがないほどクソみてぇな出来栄えで、もちろんそんな代物が新人賞を通るわけもなく、だから全部ゴミ箱にポイした。おっかしいなー、俺には才能があるはずなのになー、なんで書けねーんだろーなーそれにしてもムラムラするなーシコりてーなーよっしゃひさびさにシコるかー、ってことで俺はズボンとパンツ下ろしてでっかくそそり立ったチンポコを握って上下にシコシコシコシコシコシコ。うっ! ドピュルルルルルルル! ドピュ! ドピュル! 溜まりに溜まった三週間分の精子が今すべて放出されるッ! ……あーマジ気持ちいいわーオカズなしでイケたわー三週間のオナ禁後のオナニーマジ気持ちよすぎるわーあーあーあーあーあああーーーーーーー。エクスタシー。ふぅ。あー今度はなんかだるくなってきた。あーなんもやる気起きねぇ。ヤる気ならあるんだけどなー、ヤる相手いねーけどー。ううううん。あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! こんなこと言っててもしょーがねーから書く! カタカタカタカタカタカタカタカタ……
それからまた三週間が勃った、間違えた、経った。俺のチンポコはまた勃起し、パンツと薄いスラックスを突き破らんばかりにデカくそそり立っていた。すばらしきマウント・フジ。股間のテントが張ってます。いやそんなことはどーだっていいのだ。重要なのはそこではない。俺はついに、自分に才能なんてもんが微塵もないってことに気づいてしまったのだ。だって考えてもみろって。書きはじめて一ヶ月半も経ってまだ六十五枚目なんだぜ? おいおいおいおい三週間前から全然進んでねーじゃねーか何やってんだ俺。死ね。マジで死ね。展開とか設定とかいろいろ考え直してみたりもしたけどやっぱどれもダメで、どうやっても七十枚には到達しない。なんでだよ。クソが。死ね俺。いやでも待てよ。今はまだ才能が開花してないってだけなんじゃないか? いやそうだそうに違いない。俺にはやっぱり才能があって、まだ書きはじめて日がないから才能が開花してないだけなんだ。だからいま俺は詰まってるんだ。そうだそうに違いない。よしよしじゃあこっからどうとでもなるぜ。書き続けてりゃあなんとかなるだろう。でも今はなんかムラムラするからまずはオナニーだ! シコシコシコシコ……うっ! ドピュッ! ピュルルルルー! ドピュッルルルー! オウ、エクスタシー……、マジ気持ちいい……あーやっぱオナニーは最高だわー己の本質と向き合ってる気がしてマジ哲学だわーあー手が精液で汚れとるわー拭き取らねえとーフキフキフキフキ、ポイ。ふぅ。すっきりした。よし書くか。またキーボードを叩き始める。しかし文章が出てこない。それどころか言葉も出てこない。あいうえおすら出てこない。いろんな言葉が頭の中でぐるぐる回って混乱して俺の指はただキーボードの上で震えてるだけで何も打ち込めてない。カタカタカタカタ。適当に打ち込んでみるも、それはまったく意味をなさない。合うじゃうんj値84wな」。、c0区3fr8-hんcおいあ火d竿。ただの文字化け。クソ以下の文字列。終わってる。末期だ。早くどうにかしないと俺の精神がやられちまう。いやもうとっくに終わってるのか? だからこんな意味不明でゴミみたいな文字列を吐き出してんのか? あーダメだ、終わってる。ダメだ。俺はもうダメだ。才能があるとかそういう次元じゃねぇ。病院行ったほうがいいレベルだ。くそ。くそくそくそくそ。どうして俺には才能がないんだ。友達も彼女もろくな理解者もいないし金も名誉も何も持ってないってのに、なんで才能までないんだ。世の中は不公平だ。不平等だ。同じ大学の奴らは今日も友達や恋人と楽しくやってバイトとか好きなこととかやって有意義な時間を過ごしてるんだろう。それに比べて俺はなんだ。ゴミじゃないか。こんなゴミは早く燃やしたほうがいい。そうしたほうが世の中のためだ。こんなゴミのために貴重な税金が支払われてはいけない。もっと能力ある奴らに分け与えるべきだ。くそ。くそくそくそ。なんでみんな俺を馬鹿にするんだ。なんでみんな俺を認めないんだ。高校のときもそうだった。男子からも女子からもひとしく気味悪がられイタイ奴扱いされてた。誰も俺を認めようなんてしなかった。みんな俺をゴミみたいに思ってた。クラスメイトたちとは事務的なやりとり以外で喋ったことはなかった。話しかけると路傍のゴミを見るような目で俺を見て、ほんっとーに嫌そうな顔をするのだ。キツかった。つらかった。苦しかった。早くこんな時間が終わってしまえばいいのにとずっと願ってた。でも三年間は長かった。みんなに疎まれ蔑まれる俺にはこれといった特技もなく、成績はよくて中の上、スポーツは何もできなかった。本当にゴミだった。正真正銘のカスだった。こんな人間な世の中にいらなかった。だから、何度も自殺を考えた。でも実行できなかった。あまりにもチキンだから、自殺なんてできやしなかった。だから生きるしかなかった。どんなにつらくても苦しくてもやってらんなくても死にたくなっても、ずっとずっとずっとずっと、みんなに馬鹿にされながら底辺の底辺の底辺の底辺で生きるしかなかった。そうしているうちに、俺は自分に何かの才能があると思い込むようになった。才能があるから、今はダメでもいつか何かを成し遂げて、今まで俺を馬鹿にして蔑んできた連中を見返して笑ってやるんだと信じてきた。そうしていれば、少しは心の平静が保っていられた。そう信じていなければ、俺はすぐに狂ってしまったに違いなかった。そうして俺は大学に進んだ。高校生らしいこと、つまり部活とか遊びとか恋愛とか友達づきあいとか、そういったものをなんにも経験しないまま。そんなもんだから、一念発起してイメチェンして大学デビューしてやんよと張り切ったところで何ができるわけもなく、中学高校の頃とまったく変わらない、泥沼のような濁りきった日々を過ごすことになった。大学もゴミカスだった。いや違う、大学はゴミカスじゃない。俺がゴミカスなんだ。俺がゴミカスだから、世の中すべてがゴミカスに見えるんだ。世界は本当はもっときらきら輝いてるはずなのに、俺の腐りきった目を通すと何もかもゴミカス以下の代物に見えてしまうんだ。大学での授業のときも俺はずっとぼっちで、隅っこのほうにひとりきりで座って、誰かにノートを貸してもらったり見せてもらったりとかもなく、ずっとひとりきりで頑張った。でも、やがて俺は気づくのだった。俺の後ろに座っているイケイケな男女混合リア充グループの連中が、俺のほうを見て笑っていることに。最初は講師のハゲ頭を笑ってるのかと思った。でも、違う講師のときも笑っているとわかったとき、俺は後ろを振り向いた。すると、イケイケリア充連中はすっと口を閉ざして真顔になった。みんな俺から目を逸らした。それはつまり、俺が振り向くまで俺のほうを見て嗤っていたということにほかならない。俺は愕然とした。大学に入ってもまだこんなことがあるなんて、思ってもみなかった。その授業が終わって俺が荷物をまとめて出ていこうとすると、例のイケイケリア充グループが俺を追い抜いていき、少し先まで歩いたところで爆笑し出した。殺意が湧いた。猛烈な殺意が湧いた。今すぐ追いかけていって八つ裂きにしてやりたかった。でもそのとき俺の足は地面にへばりついたようになってしまって、その場から動けなくなってしまっていた。あまりにショックだった。そしてその日から俺は、大学に行くたび、教室にいるみんなが俺のことを笑ってるんじゃないかと思うようになった。街を歩いていても、誰かが笑い声を上げると、俺のことを笑ってるんじゃないかと疑うようになった。いつしか俺は、世界中のすべての人間に蔑まれ馬鹿にされ笑われているんじゃないかと思うようになっていた。そうして俺は、自室にひきこもった。
さらに二週間が経過。原稿はまったく進まず。「おい誠ーおまえの言う傑作とやらは書けたのかー」「うるせーまだ書いてるんだよー今はちょっと詰まってるだけだー」「だったらハロワ行けーそうしたほうが刺激になるだろー」「うるせー俺はいま集中してるんだー黙ってろハゲー」「ハゲとはなんだ!」バガーン! 怒るとこそこかよ。俺は無視してパソコンの画面と向き合う。あ、いつのまにかやられてた。テレッテレーレー。なんだこのBGMマジうぜぇ。スーパー正男(注:実在します)マジむずすぎ。そうなのだった。俺は今、小説など書いていなかった。集中がまったく続かなくなって、ネットを起ち上げて超低クオリティのマリオのパクリゲーをプレイしているのだった。無駄な時間だった。時間の浪費だった。今この瞬間にも世界では戦争で何百人もの人間が死んでいっている。それだってのに、俺はこんな薄暗い部屋に閉じこもって、小説を書いていると偽ってパクリゲーをプレイしている。くそ。くそくそくそ。みんな死んじまえ。俺が書けないのはおまえらがクズだからだ。死ね死ね死ね。死んじまえ。くそが。くそっ! 俺はキーボードをぶっ叩いた。「書く」書く書く書く書く書く。ワードを開いてキーボードを叩いて文字を打ち込んで続きを書こうとする。「あーーーーーー!」ダメだった。全然書けなかった。「あーーーーーーーーーーーーー!」くそ、なんで書けない。俺には才能があるはずなのに。俺は将来、誰の追随も許さない大作家になるのに。それなのにどうして書けない。それは世界がゴミクズだからだ。滅びちまえ、こんな世界。俺はパソコンの電源を切った。
……わかってる。俺はちゃんとわかってる。俺が家から出ずに引きこもってるのも、
こんな暗い部屋で小説を書いてるのも、何もかも単なる現実逃避でしかないってことを。自分にたいした才能がないことを。俺はちゃんとわかってるんだ。でも、俺には才能があって、だからいつか小説家になるって信じ込んでいたいんだ。そうしなければ、俺はきっと死んでしまう。廃人になってしまう。そんなのは嫌だ。死にたくない。でも死にたい。死にたい死にたくない死にたい死にたくない死にたい死にたくない死にたい死にたくない死にたい死にたくない。この世界はクソゲーだ。スーパー正男以下の最悪のクソゲーだ。そしてここは生き地獄だ。死ねばこの生き地獄から解放される。でも死んだところでそこもまた地獄だ。地獄地獄地獄。永遠に終わらない地獄。生きても地獄。死んでも地獄。俺はこのまま友達も彼女も富も名声も栄誉も掴めないまま死んでいくに違いない。それは地獄だ。それは鼻クソ以下の地獄だ。死ね。みんな死ね。死ね死ね死ね死ね死ね。俺になんの恨みがあるんだ。そんなに俺が憎いか。そんなに俺を苦しめたいか。俺がこんな性格してるのだって世界が悪い。俺をこんなクソッタレな人間に生まれさせた世界が悪い。俺は何も悪くない。俺は世界に憎まれてるのだ。そんな世界は許せない。俺が制裁を加えてやる。人類全員皆殺しにしてやる。でもそんなことはできない。仲間も金も実行力もない俺にそんあことができるわけがない。だったら俺は何者かになってやる。今はダメでもいつか何者かになってやる。誰も俺になんか期待してないってことはわかってる。わかってるんだ。それなのに、俺は抵抗したいと思ってしまう。いつか何かを成し遂げてやりたいと願ってしまう。だから俺は、小説を書く。才能がなくても意思が弱くても、他に何も持たない俺にはそれしかないから、小説を書く。書く書く書く書く書く。みんなが俺を馬鹿にする。みんなが俺を蔑む。だから、そんなクソッタレどもを見返して黙らせて何も言えなくするために、俺は小説を書き続ける。俺はこのクソッタレな世の中に会心の一撃を打ち込んでやりたいのだ。俺を認めないゴミクズ同然の世界に復讐してやりたいのだ。そうして俺は歴史に名を残したいのだ。人々の記憶にいつまでも残り続けたいのだ。
俺は俺の書いた俺の小説が誰かの心を揺さぶることを心から願っている。俺にはそれだけの才能があると信じている。俺にはそれだけの価値があると信じている。今はまだ何者でもない俺。ゴミクズ以下のひきこもりとして生きるしかないクソッタレな俺。でも、今はまだ雌伏の時だ。いつかきっと何者かになってやる。小説家になって、ゴミでクズでカスでクソッタレでゲロの掃き溜め以下のこの世界に復讐してやる。最強になってやる。世界を唸らせてやる。俺を嘲笑った世界を黙らせてやる。俺はこの世界で神になってやる。
――いつか必ずやってやる。
世界ってクソッタレだよなーとよく思います。俺はまだ高校生で、ひきこもってもいないけど、やっぱりクソッタレだなーと思います。一発かましてやりたいなーと思います。まー今は難しいかもしれないけど。そんなわけで、じゃあな。どーん。
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