まあくんのぼうけん
その病院の個室には、たくさんの本がありました。宝島、巌窟王、十五少年漂流記、トム・ソーヤの冒険、ロビンソン漂流記、ドリトル先生航海記、ガリバー旅行記、地底旅行……。それらの本を、まあくんはもうなんども読みました。
まあくんは、生まれてからずっと、この病室でくらしています。体が弱いので、外には出られないのです。でも、まあくんの心はいつも、世界中を飛びまわっています。読書が好きなまあくんは、想像のつばさをおもいっきり広げて、前人未到のジャングルや、風雪がはげしい南極や、カンカン照りの砂漠などを、自由に旅していました。
まあくんは、七つの誕生日をまえに、静かに息を引き取りました。ママさんとパパさんとふたつ上のお兄さんと、お医者さんと看護婦さんが、ベッドをかこんでいました。
「まあくん、もう苦しまなくていいのよ」ママさんが言いました。
「がんばったな、まあくん」とパパさん。
まあくんは、安らかな顔をしていました。
「あ、まあくんだあ!」
とつぜん、お兄さんが、窓の外をゆびさして叫びました。
「ほら、みえるでしょ。まあくんだよ」
みんな窓の外をみました。
むこうのほう、デパートの屋上のちょっとうえ。西日を背にして、おっきな海賊船が、白い帆をパタパタさせて浮いていました。どんどん近づいてくるようです。船首には、ちっちゃな海賊が立っています。
「あっ!」「ほうとうだ」「まあくんだ」
みんな窓にかけよりました。
ちっちゃな海賊は、ぶかぶかの黒い横長帽をすっぽりかぶり、左手を腰にあて、右手に持った剣をななめうえにかかげています。よくみると、得意そうな顔をしています。
海賊船は徐々に速度を落とし、窓のすこし手前で止まりました。
ちっちゃな海賊まあくんは、決めのポーズを保ったまま、みんなの顔をみまわしました。それから、左手の人差しゆびで鼻のしたをゴシゴシやって、ニッと笑いました。
そして、海賊船は静かに方向転換し、きたときよりすこし速めに遠ざかっていって、やがて夕焼けに吸い込まれていきました。
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