都議会「野次」は「お前が結婚しろ」だったのか
不破雷蔵 | 「グラフ化してみる」ジャーナブロガー 解説者
「お前が結婚しろ」で広まった波紋
2014年6月18日に開催された東京都議会において、みんなの党の塩村あやか議員による、妊娠や出産に関わる不妊など、女性特有の悩みに関する質問が行われていた際に、女性に対して非常に失礼な野次が飛んだとして、同議員がツイッター上などでその状況を公知。それがきっかけとなり、大きな波紋を呼んでいることは、すでに多くの媒体によるニュースなどでご存知の通り。
該当する「塩村議員のツイッター上の発言」(6月18日夜9時23分)は次の通り。
都議会での初の一般質問。妊娠、出産に関わる不妊など女性の悩みについて質問中に「お前が結婚しろ!」「産めないのか?」など、大変に女性として残念なヤジが飛びました。心ない野次の連続に涙目に。政策に対してのヤジは受けますが、悩んでる女性に対して言っていいとは思えないです。
また、この発言を裏付ける形でインターネット上に都議会におけるその場のやりとりの映像が伝えられた。例えばFNNではその場面も合わせ、次のように報じている。
ただし「早く」の部分は音声上ではノイズがかっており、明瞭に聴き取れたものではない。
より高品質な音声が物語る、野次の内容
今件について昨日(21日)夜に、同様の内容を伝えるニュースがNHKにおいて、別カメラからのものと思われる映像付きで伝えられた(「都議会で女性議員にセクハラやじ」)。こちらは先のFNNなどの民放による映像より画質が鮮明、かつ音質も非常にクリアなものとなっており、より明確に問題となった「野次」の部分を聴き取ることができる。直接張り付けのタグは提供されていないが、リンク先のNHKの記事から、該当する動画を視聴してその内容を確認してほしい。
この時点ですでに、テロップ部分において民放とNHKで「早く」「自分が」との部分で違いが生じている。そして音質がクリアなNHKの映像で該当部分を実際に見聞きすると、この部分は「早く」でも「自分が」でも無く、「みんなが」にしか聴き取ることが出来ない。当方はどちらかといえば耳は悪くない方だが、何度となく繰り返し確認したものの、(民放のノイズがかった音ならともかく)NHKの映像では「早く」とも「自分が」とも認識は出来なかった。
塩村議員の発言全体の映像も確認する機会を得ることができ(「平成26年第2回定例会録画映像 一般質問」)、そこから前後関係も合わせてチェックを入れると、今件が「みんなが結婚した方がいいんじゃないか」とする野次であるのなら、塩村議員の訴え「東京は対人関係が希薄で孤立化しやすく、しかも結婚する人が少ない。だから結婚して妊娠しても、より孤立化しやすいから、地域全体で妊婦を支えていかねばならない」に対し、「みんなが結婚すれば孤立化リスクも低減できる」「しかしそもそも論として結婚しない人が増えているから問題なのであり、それを話しあっているのに」という前提論としてのツッコミ的な意味の野次として「みんなが結婚した方がいいんじゃないか」という声が投げかけられたように見えてくる。それならば、今各所で伝えられている、塩村議員への個人的中傷としての野次とはまったく別の意味となる。
あるいはこの際、塩村議員自身は後に自分のツイッターで語ったかのように、そして報道で相次ぎテロップ化・言及されたかのように、自分自身への当てつけとしての中傷に聞こえてしまったのかもしれない。
また、塩村議員が指摘しているもう一つの、ある意味さらに問題視されるべき野次「産めないのか?」については、結局今回の発言関連映像からは確認ができなかった。また関連報道の映像でも、この部分に関する部分は、現時点で少なくとも当方は観たことが無い。
誤聴と誤解と補完と
インターネット上でつい先日流行った言葉遊びとして、いくつか文字が抜けていたり間違った文字が埋め込まれた文章でも、流し読みをする際に脳内で補完がかかり、普通の文章に読めてしまうというものがある。また、先行する情報、常識や自分の中のルールで補正がかかり、目の前の情報が別のものとして感知されることがある。「マガーク効果(Wikipedia)」もその一つ。
塩村議員は今件では単に聞き違い、誤解からあのような形でツイートをしただけの可能性がある。その情報がショッキングな内容だったため、そして民放の映像では肝心の部分で音質の劣化があったため、字幕であのような補完がなされ、それを見た視聴者などが、さまざまな反応を示したことが考えられる。今件は少なくとも、「早く」でも無ければ「自分が」でも無く、「みんなが早く結婚したほうがいいんじゃないか」であることは間違いない(NHKの映像が編集されているリスクはゼロとは言えないが、事実上ゼロと見ても問題は無い)。
塩村議員が今回訴えた内容は、東京都における妊婦の問題だけでなく、動物愛護の問題や禁煙・喫煙の問題など、真っ当至極なものばかり。それだけに、今回の騒動で提唱内容そのものにスポットライトが当たらず、話題性ばかりが先行してしまうのは、極めて残念でならない。
そして無論、会議場における野次は、慎むべきであることは言うまでもない。
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