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「清水さんとこに連絡ないんですか?」
あるわけないよ。
あいつはそういう奴なんだよ。
「そんなこと言って、今まさに二人で酒でも飲んでるんじゃないの?」
アホか。
こっちはこっちで、いろいろ忙しいんだよ。
理由はどうあれ、途中で投げ出した奴のことなんか知るか。
テレビをつけた。
沢村一樹がニヤニヤしながら何かほざいてる。
かれの言葉は、まるで空疎で、まったく心に響かない。
なにかときどき大事なことを言っているようだが、それがどういう意味なのか自ら説明はしない
周囲で黒木メイサや国仲涼子が想像し、想像が外れ、振り回される。
このドラマは実にリアルだ。
それでなにかストンと腑に落ちるものがあった。
社長と呼ばれる仕事の主な任務は、隠し事だ。
もうなんでも隠す。
社員の給料から、自分の給料から、人事のことや、社員の家族のこと、自分の病気のこと、エトセトラ、エトセトラ。
何も考えてないときでも、考えてるふりくらいはしなければならない。
その結果、周囲からするとまるで考えの読めない怪物のような人物が出来上がる。それが社長だ。
周囲はその人物の真意を想像するしかない。
真意がある場合もあれば、ない場合もある。なくても想像するしかない。
もっともこれは社長に限らない。
大人物と呼ばれる人は常にそうだ。
つまり、その人の気分や機嫌、判断といったものが、周囲に大きな影響を及ぼす人物はみんなそうだ。
要するに政治家とか、大学教授とか、家元とか、病院のオーナーとか、映画監督とか、そういう人たちだ。
周囲はまるで腫れ物に触るように接する。
その人物の真意を想像し、想像に従って先を読んで行動する。
そうした人たちと比較すれば、中小企業の社長なんて小物もいいところだ。
だから心のこもらない、空疎な言葉だけが空中戦を始める。
社長同士の会話というのは規模の大小をさておいても、空疎な言葉のぶつけあいになりがちだ。
別に隠し事をしたいわけじゃないし、しようとおもっているわけではない。しかし「隠さなければならない話題」の方が多いのだ。
酒を飲んでるときに仕事の話をしたくなくなったのはいつからだろう。
とにかく酒を飲む時くらいは仕事を忘れてくだらないことで頭を満たしたい。
井口は結局のところ、一度も、本音を僕に明かしてはくれなかった。
最初に構想を聞いた時、君だけではきっと技術的な面で道を誤るだろう。だからロハで手伝ってやろうと申し出たが、断られた。それでもセカイカメラの時に比べたら、井口はずいぶん慎重になっているように見えた。だからうまくいくのかもしれないし、上手く行けばいいなと思っていた。本当に。もはやテレパシー社に技術が存在したのかすら今は疑わしい。なにもわからないまま終わってしまったのだから。
ちなみに僕は本当に根本的になにも井口から聞いてない。何をするつもりなのかもわからないし、そこで実現されるサービスがGoogle Glassとどう違うのかもわからなかった。僕の想像では、「本当になにも考えてなかった」または「必死で考えたが、なにもいいアイデアを思いつかなかった」のだと思う。
而してまたしても彼は失敗した。
自分で作った会社を自分で辞めるというのは、テレパシー社の失敗というよりも、井口個人の失敗だと思う。出資者に見限られたにせよ、部下に裏切られたにせよ、出資者を選び、部下を選んだのは井口個人の責任だ。誰かにやらされたわけじゃない。最高経営責任者なんだから。
根本的に、彼は組織をまとめる力がない。としか評価できない。少なくとも外野からは。
彼はとてもチャーミングで、カリスマ性のある人物だ。
しかし実務家としての能力にはやはり欠けているのだろう。そして適切な仲間を選ぶ能力もない、とくれば、起業家として今後もやっていくのは難しいのではないか。
テレパシー社は井口にとってラストチャンスだったと思う。
それを自ら降りてしまった。理由は想像するしかないが。
こんな結末は関係者は誰も望んでいなかったはずだ。
しかもコソコソと辞任するような真似はせず、ブログでもTwitterでも、恨み言だっていいから思いの丈をぶつけて断末魔の悲鳴くらい轟かして辞めるべきだ。でなければ僕も含めて、井口の復活を願って応援していた人間は浮かばれない。
井口、帰って来い
僕が言いたいのはそういうことだ。
(shi3z)
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