PHP新書に関しては、タイトルがいまいちなことが多いのですが、この本のタイトルもよくわからないタイトルですよね。サブタイトルは「文明史が語るエネルギーの未来」ですが、これでもこの本の内容の半分しか表していないと思います。
ということで、とりあえず目次をどうぞ。
この目次を見ると、中身が何となくわかってくると思うのですが、この本は「今までのエネルギーの常識が覆されつつある」ということを主張する本です。
1つ目は「再生可能エネルギーは環境に悪い」ということであり、2つ目は「化石燃料の価格の高騰と枯渇の心配がシェールガスの登場によってなくなりつつある」ことであり、3つ目は「”劣った”エネルギーであったはずの石炭の需要が増えていっていること」です。
著者は、これらの動きをエネルギーにおける「反革命」と名づけています。この名づけ方も少しわかりにくいのですが、1つ目の点については、再生可能エネルギーの利用が、石炭や石油などの化石燃料の利用からはじまったエネルギー革命に対する「反革命」であること、2つ目についてはシェールガスやシェールオイルなどの「シェール革命」が再生可能エネルギーを未来のエネルギーと考える人々からは一種の「反革命」と捉えられること、3つ目については、「石炭の復権」が「石炭から石油へ」という第2次エネルギー革命に対する「反革命」にあたることから、これらの動きを3つの「反革命」と名づけています。
このようにタイトル、全体の構成、言葉の選び方ともわかりにくいところがあるのですが、中身は面白いですね。エネルギー問題に関しては、単純に「これがいい」と言い切ることはできず、つねに最適のバランスを求め続けなければならないということを教えてくれます。
まず、「再生可能エネルギーは環境に悪い」ということですが、著者は再生可能エネルギーがCO2の排出や大気汚染とはまた別の部分で環境に負荷をかけていることを明らかにします。
産業革命以降、石炭を始めとする化石燃料の大量消費が始まったわけですが、それ以前に環境破壊がなかったかといえば、そんなことはありません。
燃料などに使われる薪炭のためにヨーロッパの森林はほぼなくなり、日本でも江戸時代の末期にはハゲ山だらけになっていました。この本では明治の頃の日本の山の様子を写真などを使って詳しく見せてくれています(66ー69p)。
化石燃料の使用によって環境破壊が止まったという側面もあるのです。
さらに、近年、注目されている太陽光や風力などについても著者はその問題点を指摘します。
太陽光に関しては、今までもその不安定さや価格の高さが問題視されてきましたが、それに加えて著者が指摘するのは、メガソーラーのような大規模な設備をつくった場合、必然的にそこの緑は失われ、また都会の近くにあればソーラーパネルがヒートアイランド現象をさらに加速させることにもなりかねません。
風力については、過疎地の海岸などに設置する場合は環境への負荷が少ないとしていますが(105p)、そうなると大都市までの大規模な送電設備が必要となり、これもまた自然破壊につながります。
化石燃料の利用に比べると、再生可能エネルギーはいずれもより大きな土地を必要とするのです。
次に2つ目の「シェール革命」ですが、これについてはかなり細かい技術的なことまで解説されていて、勉強になります。
特に天然ガスに寄る発電に関しては、「天然ガス・コンバインド・サイクル発電」やコージェネレーションなどの技術によって、さらなる効率化・CO2の削減が可能であることが示されています。
また、「シェール革命」によってアメリカの石油輸入量が減少しており、いずれは中東への軍事的なプレゼンスが必要なくなるのではないか?という指摘も重要なところです(145p)
3つ目は「石炭の復権」ですが、ここではまず石油の需要の伸びが止まっていることが示されます。世界の石油需要は「2007年から12年まで5年間で、平均年率0.6%程度に過ぎず」(174p)、他のエネルギー源に比べて圧倒的に低い伸び率に留まっています。
これは石油の価格水準が高止まりしているためで、そのため世界では石油から価格の安い石炭へのシフトが起きています。
そのため、将来的には石油の特権的な地位はゆらぎ、石油と石炭と天然ガスのシェアが同程度になるのではないか?という予測が紹介されています。
この「石炭の復権」というのは、「再生可能エネルギーの先進国」ともいわれるドイツでも見られる現象です。ドイツは「言わば高コストの再生可能エネルギーに、低コストの石炭火力で電気料金を薄めている」(226p)状況であり、そのために実はドイツはCO2の削減には成功していません(もちろん脱原発に舵を切ったことも大きいですが)。
ドイツでは2012年のCO2排出量が約2%の増加となりました。一方、シェール革命によって天然ガスの発電が進んだアメリカでは、2012年のCO2排出量は約3%減となり、過去20年間で最低の水準となりました(226p)。
「再生可能エネルギーの推進=エコ」という図式は単純には成り立たないのです。
日本の人口密集地の緯度はサハラ砂漠とほぼ同じだから植生が破壊されれば内陸の気温はサハラ砂漠と同程度になる(97ー98p)など、気候などの記述に関しては大雑把すぎると感じる面もありますが、エネルギー問題を考えていく上で、見落としがちな論点を教えてくる面白い本だと思います。
木材、石炭、シェールガス 文明史が語るエネルギーの未来 (PHP新書)
石井 彰

ということで、とりあえず目次をどうぞ。
第1章 「エネルギー反革命」の時代
第2章 再生可能エネルギーの世界史
第3章 第一の反革命―再生可能エネルギーは環境に悪い
第4章 第二の反革命―シェールガス革命
第5章 第三の反革命―「石油の世紀」の終焉
第6章 エコという迷宮
第7章 エネルギーの将来
この目次を見ると、中身が何となくわかってくると思うのですが、この本は「今までのエネルギーの常識が覆されつつある」ということを主張する本です。
1つ目は「再生可能エネルギーは環境に悪い」ということであり、2つ目は「化石燃料の価格の高騰と枯渇の心配がシェールガスの登場によってなくなりつつある」ことであり、3つ目は「”劣った”エネルギーであったはずの石炭の需要が増えていっていること」です。
著者は、これらの動きをエネルギーにおける「反革命」と名づけています。この名づけ方も少しわかりにくいのですが、1つ目の点については、再生可能エネルギーの利用が、石炭や石油などの化石燃料の利用からはじまったエネルギー革命に対する「反革命」であること、2つ目についてはシェールガスやシェールオイルなどの「シェール革命」が再生可能エネルギーを未来のエネルギーと考える人々からは一種の「反革命」と捉えられること、3つ目については、「石炭の復権」が「石炭から石油へ」という第2次エネルギー革命に対する「反革命」にあたることから、これらの動きを3つの「反革命」と名づけています。
このようにタイトル、全体の構成、言葉の選び方ともわかりにくいところがあるのですが、中身は面白いですね。エネルギー問題に関しては、単純に「これがいい」と言い切ることはできず、つねに最適のバランスを求め続けなければならないということを教えてくれます。
まず、「再生可能エネルギーは環境に悪い」ということですが、著者は再生可能エネルギーがCO2の排出や大気汚染とはまた別の部分で環境に負荷をかけていることを明らかにします。
産業革命以降、石炭を始めとする化石燃料の大量消費が始まったわけですが、それ以前に環境破壊がなかったかといえば、そんなことはありません。
燃料などに使われる薪炭のためにヨーロッパの森林はほぼなくなり、日本でも江戸時代の末期にはハゲ山だらけになっていました。この本では明治の頃の日本の山の様子を写真などを使って詳しく見せてくれています(66ー69p)。
化石燃料の使用によって環境破壊が止まったという側面もあるのです。
さらに、近年、注目されている太陽光や風力などについても著者はその問題点を指摘します。
太陽光に関しては、今までもその不安定さや価格の高さが問題視されてきましたが、それに加えて著者が指摘するのは、メガソーラーのような大規模な設備をつくった場合、必然的にそこの緑は失われ、また都会の近くにあればソーラーパネルがヒートアイランド現象をさらに加速させることにもなりかねません。
風力については、過疎地の海岸などに設置する場合は環境への負荷が少ないとしていますが(105p)、そうなると大都市までの大規模な送電設備が必要となり、これもまた自然破壊につながります。
化石燃料の利用に比べると、再生可能エネルギーはいずれもより大きな土地を必要とするのです。
次に2つ目の「シェール革命」ですが、これについてはかなり細かい技術的なことまで解説されていて、勉強になります。
特に天然ガスに寄る発電に関しては、「天然ガス・コンバインド・サイクル発電」やコージェネレーションなどの技術によって、さらなる効率化・CO2の削減が可能であることが示されています。
また、「シェール革命」によってアメリカの石油輸入量が減少しており、いずれは中東への軍事的なプレゼンスが必要なくなるのではないか?という指摘も重要なところです(145p)
3つ目は「石炭の復権」ですが、ここではまず石油の需要の伸びが止まっていることが示されます。世界の石油需要は「2007年から12年まで5年間で、平均年率0.6%程度に過ぎず」(174p)、他のエネルギー源に比べて圧倒的に低い伸び率に留まっています。
これは石油の価格水準が高止まりしているためで、そのため世界では石油から価格の安い石炭へのシフトが起きています。
そのため、将来的には石油の特権的な地位はゆらぎ、石油と石炭と天然ガスのシェアが同程度になるのではないか?という予測が紹介されています。
この「石炭の復権」というのは、「再生可能エネルギーの先進国」ともいわれるドイツでも見られる現象です。ドイツは「言わば高コストの再生可能エネルギーに、低コストの石炭火力で電気料金を薄めている」(226p)状況であり、そのために実はドイツはCO2の削減には成功していません(もちろん脱原発に舵を切ったことも大きいですが)。
ドイツでは2012年のCO2排出量が約2%の増加となりました。一方、シェール革命によって天然ガスの発電が進んだアメリカでは、2012年のCO2排出量は約3%減となり、過去20年間で最低の水準となりました(226p)。
「再生可能エネルギーの推進=エコ」という図式は単純には成り立たないのです。
日本の人口密集地の緯度はサハラ砂漠とほぼ同じだから植生が破壊されれば内陸の気温はサハラ砂漠と同程度になる(97ー98p)など、気候などの記述に関しては大雑把すぎると感じる面もありますが、エネルギー問題を考えていく上で、見落としがちな論点を教えてくる面白い本だと思います。
木材、石炭、シェールガス 文明史が語るエネルギーの未来 (PHP新書)
石井 彰