団塊の世代が75歳以上になる2025年に向けて、医療と介護のあり方を大きく見直す法律が成立した。

 75歳以上の高齢者は、12年時点と比べ1・4倍を超す。医療と介護の費用は1・7倍の約74兆円に膨らむと推計され、現行の税や保険料の負担ではとても立ちゆかない。

 負担増が避けられないなか、サービス水準とのバランスをどう取って、「老後の安心」を実現するか。国も地方自治体も住民も、当事者として厳しい判断をしなければいけない時代を迎えている。

 新しい法律は、入院して手厚い医療を受けるところから、往診や介護を受けつつ家で生活するところまで、必要なサービスを切れ目なく受けられる体制づくりを掲げる。

 同時にサービス提供の効率化によって、できるだけ費用を抑えることを目指す。

 ただ、法律は大方針を定めただけで、具体的な「設計図」づくりは都道府県や市町村にゆだねられた。高齢化の状況など、それぞれの地域の実情を踏まえるためだ。

 病院や介護施設より、家での生活を柱に据え、住み慣れた地域で安心して生を全うできるようにするには、どうしたらいいか。施設不足が懸念される都市部を中心に、自治体が担う役割は大きく、重い。

 当の自治体からは、すでに懸念の声が上がっている。特に介護保険の要支援者向けサービスの一部が市町村の独自事業に切り替えられることに、「サービスの量や質を確保できそうにない」との訴えは強い。

 さらに、一定以上の収入がある人は利用者負担が引き上げられる。特別養護老人ホームの新規入所も、原則として要介護3以上の人に限られる。

 こうした痛みに耐えることが「安心」につながるのか。具体的な道筋を示せなければ、制度そのものへの信頼が揺らぎかねない。

 しかも、高齢者の自宅暮らしは公的なサービスだけではなりたたない。ゴミ捨てなどちょっとしたことにも手助けがいる人はますます増える。近隣住民らの支えが重要になる。

 国は法律が描く将来像や理念を自治体や住民に丁寧に伝え、設計図づくりを最大限に支援する義務がある。自治体への丸投げは、サービス低下や地域間格差を招くだけだ。

 それぞれの自治体で、新たな枠組みへの納得感が広がるかどうか。それには、計画づくりへの住民参加が不可欠だ。