2014-06-21

http://anond.hatelabo.jp/20140620051737

性的魅力のある文章を書けるひとがいて、その文章に恋することがある。

もっとその言葉にふれたい。価値ある書き手に、対等な人間として認めてもらいたい。

生身の相手を何ひとつ知らないので、身体的な渇望とはちょっとちがう。

なので厳密には恋というより恋に似た何かだ。

あるいはそれは言い訳にすぎず、やはり恋なのかもしれない。

卑しい片思い。太宰の狸のような。

数年前、苦い経験をした。

相手はあるコミュニティでよく読まれている若い書き手だった。

活き活きとした人物描写や独自の視点で人気があった。

その文章には魔法があった。惹きつけられた。

わたしはそのひとに聖別されたかった。

熱心につきまとい、ブログtwitter言葉をたたえた。

対等な価値がないのはわかっていた。

相手にとって大勢いる支持者のひとりにすぎなかった。

しつこいアプローチが功を奏して、一時期は交換日記のやりとりをするまでに至った。

それで相手との距離感がわからなくなった。

増長したのだと思う。

眠れない夜に非公開アカウントで会話していた。恋愛の話題だった。

だれからも求められたことのないわたしは、相手の言葉に、無自覚残酷さを嗅ぎとった。

口論になった。個人的な領域に踏みこむような言葉で傷つけた。

わたしは相手のことを何ひとつ知らない。そのことを指摘され、はずかしくなった。

一時的ブロックし、すぐに解除した。そうすることで強制的相互フォローをはずすことができる。

交換日記は消した。

かつてストーカーの被害にあったことがある。姿が視界にはいるだけで苦痛だった。

そのことを思いだした。ウェブ上に痕跡を残したくなかった。

アカウント名やID文字列を変えた。

相手の記事につけたコメントや「いいね!」を、見つかるかぎり消した。

そこまで強迫的な行動をしていながら、相手のブログを読むことはやめなかった。

やめられなかった。

数ヶ月がすぎた。

読む頻度も減り、いつかは忘れられるだろうと、ようやく思えるようになっていた。

相手からメールがとどいた。もういちど友だちになりたいと書かれていた。

混乱した。

それは個人サイトメールフォームから送信されていた。

サーバーレンタル代が無駄だと思いながら、何年も放置していたサイトだ。

わざわざ探しだしてまで連絡してくる動機がわからなかった。

個人的な事情があるのだろう。

わたしではない大切なだれかを、そのようにして失ったのかもしれない。

いずれにせよ、踏みこむほどの間柄ではなかった。

相互フォローにもどった。

そのひとのフォロワーは数ヶ月でさらに増えていた。

消された交換日記のことはどちらも口にださなかった。

極力、話しかけないように努めた。その努力はうまくいかなかった。

おなじ失敗をくりかえすまで、そう長くはかからなかった。

やはり眠れない夜だった。

そのひとは過労で体調を崩しているように見えた。

ブログツイートからも、ろくに寝ていないのがわかった。

めちゃくちゃな労働時間に思えた。大勢フォロワーが気遣っていた。

わたしもそのひとりだった。

しかければそれだけ睡眠を奪うとわかっているのに、やめられなかった。

ダイレクトメッセージで返事があった。

予期しなかった内容に動揺した。

恋について書かれていた。

だれかに片思いしていると。

ウェブ上の文章への思いが恋ではないと書いたのは、やはり欺瞞だったかもしれない。

わたしは傷つき、嫉妬した。その自覚があった。

世界から疎外された気分だった。

わたしの感情を笑ったあのひとが、おなじ気持をだれかほかのひとへ向けている。

動揺したまま、失恋について書いた。

アクセス解析がめったに変化を示さなブログだった。

非公開でこそないものの、事実上だれにも見られない場所だとわかっていた。

そのひとは見ていた。

ダイレクトメッセージで、傷ついた言葉がとどいた。

個人的なうちあけ話を、わたしは公開の場に晒したのだ。

一方的に別れを告げられ、タイムラインからアイコンが消えた。

相手を非公開リストに入れることはできたので、強制的相互フォローをはずされたのだとわかった。

わたしとおなじやり方だった。

あわてて弁解のメールを書いた。メーラーデーモン事務的な英文が返ってきた。

数年がすぎた。

わたしはいまでもそのひとのブログを読むことがある。

たまに思いだしたように話題になり、リツイートされてくるからだ。

先日、過去記事をさかのぼって読んだ。

ダイレクトメッセージの翌日、そのひとは過労で倒れて入院していた。

わたしがやったことが最後のひと押しとなったのだ。

経過を報告するその記事には、思いやりにあふれる優しいコメントが連なっていた。

だれもがそのひとの味方だった。

ひどい人間がいたものだと憤り、慰め、励ましていた。

あんなことをしなければ、わたしもそのなかのひとりだったかもしれない。

過ぎ去った思い出が文章に残っているのは、奇妙な感じがする。

だれにも知られずに終わった卑しい片思いが、他人の手で記録されている。

その瞬間を切りとって標本にしたみたいだ。

大勢に読まれる場所にあって、だれもそのときのわたしの感情に気づかない。

哀しく、よそよそしい痕跡だ。




※すべて創作です。実在の人物や出来事には一切関係ありません。

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