性的魅力のある文章を書けるひとがいて、その文章に恋することがある。
もっとその言葉にふれたい。価値ある書き手に、対等な人間として認めてもらいたい。
生身の相手を何ひとつ知らないので、身体的な渇望とはちょっとちがう。
なので厳密には恋というより恋に似た何かだ。
あるいはそれは言い訳にすぎず、やはり恋なのかもしれない。
卑しい片思い。太宰の狸のような。
数年前、苦い経験をした。
わたしはそのひとに聖別されたかった。
対等な価値がないのはわかっていた。
相手にとって大勢いる支持者のひとりにすぎなかった。
しつこいアプローチが功を奏して、一時期は交換日記のやりとりをするまでに至った。
増長したのだと思う。
眠れない夜に非公開アカウントで会話していた。恋愛の話題だった。
だれからも求められたことのないわたしは、相手の言葉に、無自覚な残酷さを嗅ぎとった。
わたしは相手のことを何ひとつ知らない。そのことを指摘され、はずかしくなった。
一時的にブロックし、すぐに解除した。そうすることで強制的に相互フォローをはずすことができる。
交換日記は消した。
かつてストーカーの被害にあったことがある。姿が視界にはいるだけで苦痛だった。
相手の記事につけたコメントや「いいね!」を、見つかるかぎり消した。
そこまで強迫的な行動をしていながら、相手のブログを読むことはやめなかった。
やめられなかった。
数ヶ月がすぎた。
読む頻度も減り、いつかは忘れられるだろうと、ようやく思えるようになっていた。
相手からメールがとどいた。もういちど友だちになりたいと書かれていた。
混乱した。
サーバーのレンタル代が無駄だと思いながら、何年も放置していたサイトだ。
個人的な事情があるのだろう。
わたしではない大切なだれかを、そのようにして失ったのかもしれない。
いずれにせよ、踏みこむほどの間柄ではなかった。
相互フォローにもどった。
極力、話しかけないように努めた。その努力はうまくいかなかった。
おなじ失敗をくりかえすまで、そう長くはかからなかった。
やはり眠れない夜だった。
そのひとは過労で体調を崩しているように見えた。
めちゃくちゃな労働時間に思えた。大勢のフォロワーが気遣っていた。
わたしもそのひとりだった。
話しかければそれだけ睡眠を奪うとわかっているのに、やめられなかった。
予期しなかった内容に動揺した。
恋について書かれていた。
だれかに片思いしていると。
ウェブ上の文章への思いが恋ではないと書いたのは、やはり欺瞞だったかもしれない。
わたしの感情を笑ったあのひとが、おなじ気持をだれかほかのひとへ向けている。
動揺したまま、失恋について書いた。
非公開でこそないものの、事実上だれにも見られない場所だとわかっていた。
そのひとは見ていた。
相手を非公開リストに入れることはできたので、強制的に相互フォローをはずされたのだとわかった。
わたしとおなじやり方だった。
あわてて弁解のメールを書いた。メーラーデーモンの事務的な英文が返ってきた。
数年がすぎた。
たまに思いだしたように話題になり、リツイートされてくるからだ。
先日、過去記事をさかのぼって読んだ。
ダイレクトメッセージの翌日、そのひとは過労で倒れて入院していた。
わたしがやったことが最後のひと押しとなったのだ。
経過を報告するその記事には、思いやりにあふれる優しいコメントが連なっていた。
だれもがそのひとの味方だった。
あんなことをしなければ、わたしもそのなかのひとりだったかもしれない。
過ぎ去った思い出が文章に残っているのは、奇妙な感じがする。
だれにも知られずに終わった卑しい片思いが、他人の手で記録されている。
その瞬間を切りとって標本にしたみたいだ。
大勢に読まれる場所にあって、だれもそのときのわたしの感情に気づかない。
哀しく、よそよそしい痕跡だ。
そんな夢を見た。 本名も顔も知らない人だ。 かろうじてどんな仕事をしているかが分かる程度だ。 夢の中の彼はアイコンやブクマのイメージ通りのイケメンだった。 彼は夢の中の私に...
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わかる。俺もはてな女子のブログを読んで抜いてる。 ブクマするとき、もしかしてばれてないなって心配になるけど、その緊張感もたまらない。 たぶんブログ読んでる男はみんな一度は...