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【暮らし】

親のアルコール依存 絵本で理解 看護師と医師共作

酒をやめられないお父さんの悲しみを描いた絵本の原画を持つ細尾ちあきさん(左)と、子に明るさが戻る原画を持つ北野陽子さん=さいたま市内で

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 精神疾患の親がいる子どもたちの孤立感を和らげ、応援する絵本を、埼玉県に住む看護師の細尾ちあきさんと、医師の北野陽子さんが作っている。四冊目のテーマは「アルコール依存症」。「依存症は病気で、回復できる。病気の本人や家族の回復する力を信じて、支援するきっかけになれば」と二人は、絵本に込めた思いを語る。

 新刊は『ボクのことわすれちゃったの? お父さんはアルコール依存症』(ゆまに書房)。うつ病一冊と統合失調症二冊に続くシリーズ。細尾さんが物語を考えて絵を描き、北野さんが、本編の後に続く解説を担当している。

 依存症をテーマに選んだのは「患者数がとても多いのに、『病気』だという社会の理解が進んでおらず、偏見も強いから」と北野さん。家族、子どもへの影響が以前から指摘されてきたことも要因という。

 患者は国内に約八十万人いるとされるが、受診している人は約四万人。飲酒の習慣があれば誰でもなる可能性があるのに、依存症の人は「好きで酒を飲んでいる」「意志が弱い」といった誤解が、社会に根強い。実際は酒を飲み続けるうちに依存性が生じて、やめるにやめられなくなる。絵本でも、やめたはずの酒につい手を出してしまい、泣きながら飲む苦悩が描かれている。

 北野さんによると、依存症は、子どもにさまざまな影響を及ぼす。気が大きくなって、子どもと遊ぶ約束をしたのに、翌日には忘れて、子どもをがっかりさせる。酒を止めようとする周囲に対し、暴力をふるう。子どもがそれを見て、被害に遭ううちに心が傷つく。自分の気持ちを感じないようになったり、人のことを信じないようになったり、家のことを話せないため、孤立感を抱いたりする。

 また、「病気」という理解が希薄なため、親に憎しみや嫌悪感などを抱きやすい。配偶者も大きく巻き込まれ、子どものケアにまで手が回らないことも多いという。

 絵本には、小学校低学年の男児の主人公と、依存症の父親らが登場。父親が治療につながり、回復していく様子と、その間の子どもの胸のうちを、主人公の目線で描いている。

 子どもは親の変調や、家族関係がうまくいかないことを、「僕のせい」などと思い込んで、自分を責めがちだ。そんな場面も絵本には登場する。親の病気の説明がない間、不安だけが増幅していく様子も描かれている。

 「子どもに、状況をわかりやすく伝えることで、子どもの心の負担は減らせる。子どもの力を信じて、周囲は接してほしい」と細尾さん。主人公と同じ年ごろの子と、家族や支援者が一緒に読むなど、さまざまな活用法が考えられるという。病気について大人向けの解説も掲載されている。

      ◇

 二人は、一昨年四月に事業所「プルスアルハ」を設立。絵本の制作を通じて、精神障害者の子どもを支援する活動をしている。六月一日施行のアルコール健康障害対策基本法は、国と地方自治体が、依存症を含むアルコール健康障害のある人や、その家族の相談支援を推進すると定めている。二人は「依存症の家族支援には、自助グループや精神保健福祉センターなどが取り組んできた。法律は支援を広げる後押しになるのでは」と期待している。

 絵本は二千二百六十八円。二十五日に発売予定。

 (佐橋大)

 

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