社説:外国人労働者拡大 まず実習制度を見直せ

毎日新聞 2014年04月09日 02時31分

 政府は、人手不足などで入札不調が相次ぐ建設業で、外国人労働者の活用を拡大することを決めた。新興国から実習生を招き、技術を移転する目的で行われている現行の「外国人技能実習制度」について、来年度から東京五輪が開かれる2020年度までの時限措置として、日本で働ける期間を現在の3年から5年に延ばす。また、介護や家事支援といった分野も、新たにこの制度の対象業種に含めることを検討する。

 産業界に外国人活用への要望は強い。だが、技能実習制度は賃金不払いや長時間労働を強いるなど違法行為が後を絶たず、安く働かせる都合のいい制度になっている。労働者としての待遇を保障するため、まず制度を抜本的に見直す必要がある。

 技能実習制度は1993年に導入され、現在は15万人が機械・金属や繊維、農業といった仕事に携わる。ただ、雇い主が旅券や預金通帳を強制的に預かるなどの問題が国会で取り上げられ、海外でも批判された。政府は制度拡大にあたり、監督の強化、実習生の公的機関への通報制度作り、優良な受け入れ団体への集約などを検討するというが不十分だ。

 制度導入の当初、来日1年目は研修生として労働関係法令が適用されなかったが、その後の法改正で現在は1年目から実習生として労働関係法令が適用される。それでも最低賃金を下回る賃金しか支給されないといった違法な事例が相次ぐ。不正を行った受け入れ先の公表、厳罰化も含め、外国人も法の枠組みで保護される当たり前の制度にしなければならない。

 建設業の技能実習制度の拡大は慎重さが必要だ。不慣れな実習生が現場で事故に巻き込まれるケースもあり、人数の拡大を急ぎすぎると労災が相次ぐ懸念もある。建設業の人手不足は、震災復興や公共事業の大幅増、東京五輪に向けたインフラ整備などが背景にある。資材も高騰しており、効率的な工事を行うよう工夫すべきだ。

 一方、介護の現場は慢性的な人材難に悩む。08年に外国人介護福祉士制度が始まり、経済連携協定(EPA)を結んだインドネシアやフィリピンから人材を受け入れている。ベトナムからも予定されており拡大の余地はある。介護福祉士を外国人の在留資格に加えることも今後の検討課題だ。

 人口減と高齢化が進む中、誰が働き手を担うかは将来に向けた切実な課題だ。外国人労働者の受け入れ拡大は「国内賃金の低下を招く」「治安や地域社会への影響がある」などと慎重論もある。しかし、国際社会の中で外国からの人材活用は避けて通れない道でもある。国民全体を巻き込んだ議論が求められる。

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