議場が公の場であることをわきまえず、汚いヤジを飛ばして恥じることがない。名乗り出る潔さすら、持ち合わせない。

 そんな人が首都の議会にいるとは情けない。

 東京都議会の本会議。塩村文夏(あやか)議員が、東京は全国でとびぬけて晩婚晩産だと指摘し、妊娠・出産・育児に悩む女性への支援の充実を訴えていた。

 そこへ、男の声で「早く結婚した方がいいんじゃないか」などとヤジが飛んだ。

 塩村氏が絶句すると、議場に冷笑が広がった。暴言の出どころと疑われた会派の幹部は「臆測で言われても困る」と、発言者を特定せずに幕を引こうとしている。

 発言そのものも、事後の対応も、二重三重に罪深い。

 まず、少子化は、子どもを産み育てることを難しくしている社会構造の問題だ。

 それを、ヤジの主は「あなたが産めば解決する」と個人の問題にすりかえた。

 世の女性ひとりひとりに「あなたが産まないのが悪い」とメッセージを送ったに等しい。

 晩婚や晩産は男女双方の問題であるのは当然だが、そういう認識もまるで感じられない。

 この無理解こそ、既婚の女性に仕事か子どもかの二者択一を迫り、未婚の女性に結婚をためらわせる元凶ではないか。

 このまま発言者を特定もせずにうやむやにすれば、議会として暴言を許容したことになる。不心得な議員が一部にいたという話にとどまらなくなる。

 議員たちは選挙を通じて住民らに選ばれた代表である。その姿勢は、世の中の空気を映していると受け取られる。

 妊娠や出産の悩みを語ったり支援を求めたりすると、こんな仕打ちにあうのか――。

 職場や家庭で悩みを抱えている女性たちを、そんなふうに萎縮させる。そして、社会の難題の解決をますます遅れさせる。それがなにより罪深い。

 猪瀬直樹前知事のカネの疑惑の際は、あれほど厳しく「都民をなめるな」「自らえりをただせ」と迫った都議会である。自浄作用を働かせることを強く求めたい。

 塩村氏のツイッターへの投稿は、1日のうちに約2万回もリツイート(転載)され、全国に怒りが燃え広がった。

 ふつうの生活者の怒りが目に見える時代になった。あっという間に議員たちを取り囲んだ。救いはそこにある。これを教訓に、公に発言する責任の重さを全国の一人でも多くの議員にかみしめてもらいたい。