【インタビュー】佐々木俊尚が語る、本当のクール・ジャパンとは

5月になってから、ファーマーズマーケットやマルシェにハマってしまい、週末に家族と新鮮な野菜を求めて訪れる日々。そのきっかけとなったのは2月27日に発売された『家めしこそ、最高のごちそうである』(マガジンハウス刊行)を読んでから。今回、著者である作家・ジャーナリストの佐々木俊尚(以下、佐々木)さんに日本の食をテーマにお話を伺いました。

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ファーマーズマーケットで生のニラご飯とニラ玉を

——— 著書を読ませて頂いて、ファーマーズマーケットに行ってきました。生産者との会話ができることにものすごいびっくりでした。向こうから話しかけてきてくれるんですね。

佐々木 ものすごいフレンドリーで、色々なことを教えてもらえますよね。料理レシピを教えてもらったり。ああいうところでマニアックな野菜を買ってきて料理して食べるのが楽しいですね。

——— そうなんですよね。食材の意外な使い方を発見できるところも。ぼくがびっくりしたのは、生の「ニラご飯」です。生のニラを熱いご飯にのせて醤油をかけて食べるんですが、本当に美味しいんです。

佐々木 ニラ玉ってふつう炒めたものを想像すると思うけど、ぼくは生卵のニラ玉。

——— え? どういうことでしょうか?

佐々木 ニラを10秒くらい茹でるんです。すぐ冷水にとって絞って、お浸しみたいにします。これでね、3センチ位に切って、鳥の巣みたいに盛ります。そこに穴が空くでしょう? 卵の黄身を落として、醤油をかけます。これが美味しい。ちゃんとニラ玉の味がします。

——— ぼくらが考えている一般的なニラ玉とはぜんぜん違いますね。そういう発見がとても面白いです。がんばって作るわけでもないのがまたいいです。

佐々木 そうですよね。やっぱりね、手短に、しかもお金がかからないということがいまの時代大事です。ファーマーズマーケットの価格はスーパーよりも安かったりしますよね。だから毎週行ったほうがいいですよ(笑)。

1950年代の日本は家族5人で4畳半一間に暮らしていた

——— 著書にはファストフードや豪華な美食、そしてマクロビオティックな食事ではなく、その中間あたりに健康的で美味しく、お金もかからない簡単な「シンプル食」があるという提案がありましたが、日本の食文化への危機感や問題意識を持っていたということでしょうか?

佐々木 ぜんぜん持っていませんね。あくまで自分の生活者としての立脚点というところからしかスタートしていないです。単純に仕事柄、特に日本の歴史をずっと追いかけているので、それになぞらえて日本の戦後史のなかで食はどういう位置づけだったかなって、自分の記憶や知識を掘り返してみたんです。ネタはたくさんあったので、それに沿って書いたら面白そうだな、と。

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——— 食を歴史的に振り返るテーマはなかなかありませんよね。そして、ついつい美化してしまいます。でもそうじゃなかったんですね。

佐々木 そうそう。我々が頭のなかでイメージしている伝統的な家庭料理の光景は、たしかにきちんとお母さんが専業主婦でいて、家庭料理を作り子どもに食べさせ、ご主人が帰ってきて浴衣に着替えて座っている光景でしょう。

実際のところ、これは1930年代から1950年代の上流的な一部の層でしかなくて、ほとんどの庶民はそんな生活していませんでした。家族5人で4畳半一間に暮らしたりとか、そういう世界でした。みんなそれを忘れて、まるで自分たちの親世代がそういう生活をしていたかのような幻想を抱き、頭のなかですり替えてしまっています。僕自身、振り返ればたいして食わず、添加物まみれでした。小学生の頃は土曜日のお昼くらいに自宅に帰ってくると、冷えたお米にボンカレーかけて食べていたことを思い出します。

世界屈指の美食大国

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日々の家めしの写真をFacebookにUPしている。ブランチの主菜に、鶏肉の照り焼き

——— 私たちが振り返る過去の食のイメージと現実との間にはギャップがあったということですね。しかしその後、外食文化が盛り上がり食が豊かになってきたかのように見えました。

佐々木 そうなんですよね。バブルを経験することによって外食文化は花開きました。1980年台の終わりくらいになってくると、そこですごい勢いで食の世界は進化していて、いまや日本の外食文化ってたぶん世界一なんじゃないかと思います。

——— 外食文化とはどういうことでしょうか?

佐々木 レストランで食べる、あの料理の質です。パリやローマなど、海外で美味しいと言われているものを食べてみると、これって日本のほうが美味いんじゃないかと思うところがあったりします。もちろん三ツ星の高い店に行くとそれは美味しいんだけれど、ふつうに街なかのビストロに入って食べるものは東京のビストロのほうがずっと美味い。

あとね、パリに行くとフレンチのレストランばかりです。ローマにはドイツ料理屋もイギリス料理屋もありません。でも日本はなぜかすべての国の料理があります。そういう意味で日本は世界屈指の美食大国で、ミシュランの東京版ができたときに星の数がどこの国よりも多かったというのは、当然頷ける話でした。

和食がユネスコ無形文化遺産になったけれど、日本の誇る食文化としてもっと誇ってしかるべきだと思います。

正麺のイノベーションに衝撃を受けた

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佐々木 しかし一方で、そういう世界とふつうの家で食べている料理との質があまりにも乖離しすぎています。1990年代以降非正規雇用化が進んだことが一つの要因となり、家族が崩壊してきているのは事実でしょう。1970年代頃の家庭料理が継承されていないのは、たしかにあると思います。

——— 非正規雇用化だけが理由になるのでしょうか?

佐々木 あとは日本の食文化は日本の優良企業があまりにも頑張っちゃったからでしょうね。ちょうど私が大学時代の頃、はじめてクックドゥが麻婆茄子を発売しました。「中華料理屋で食べれるようなものが、家庭で作れるのか」と激しい衝撃を受けたことを覚えています。それまでは自分でスパイスを用意しないとできないと思われていたはずなのに、完璧に街の中華料理屋くらいの味が再現されていますよね。

——— この辺りで家庭料理が断絶してしまったのかもしれないということでしょうか?

佐々木 そうですね。あまりにも美味しいインスタント・レトルト食品を発明してしまったので。先日山に行くときに正麺を持っていったんですけれど、これがすごい美味しい。本物のラーメンみたいでした。未だに開発は進んでいるので、数年ぶりくらいに食べるとその間に起きているイノベーションに非常に衝撃を受けます。

クール・ジャパンは「萌え」ではなく「生活文化」

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ファーマーズマーケットで購入したものや、農園から送られてきた食材の味を活かすメニュー

——— でも、インスタント・レトルト食品を食べると微妙な後悔というか、やっぱり自分で作ったものを食べればよかったと思ったりもします。

佐々木 うん、わかります。生活に0から100の振れ幅があるなら、揺れ動くのはもはや自分の仕事で充分なんじゃないかと思います。現代はただでさえ仕事は不安定なわけですから、自分の生活や人間関係といった、仕事以外のところで安定していないと頑張れません。だから人間関係はなるべく波風立てず、多くの人と付き合い仲良くする、それで食事や生活も安定した日々を送る。僕は決まりきった生活パターンなので「まるで公務員のような生活をしているね」とよく言われます。

——— 私もルーティンを大事にしています。

佐々木 そうですよね。どこに行っても同じパターンの生活をするし、旅行もそうありたいです。Airbnbなどが流行っているように、観光名所を巡るわけではなくて、その国の日常にいかに踏み込めるかが最近のテーマになってきています。だから食もそうなっていくんじゃないかな。

——— 食の日常に踏み込む……そうすると、著書の中で仰っていた「日常を構築しよう」というメッセージが非常に効いてきます。

佐々木 そうなんですよね。これ、いつも言っているんですが、日本が最も誇るべきクール・ジャパンは「萌え」でもなければ歌舞伎でもお茶でもなくて、「生活文化」です。

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——— 生活文化?

佐々木 我々の街が綺麗であることや素晴らしいお店がたくさんあること、新鮮な野菜がすぐに手に入って、みんなが家で家庭料理をしていること。家庭料理は崩壊していると言われながらも、やっぱりちゃんと家で料理を作っています。よくほら、海外から日本のお弁当を驚かれる動画がありますよね、日本のお母さんがすごいと。

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お昼にBLTサンドイッチを

——— そう言われると、確かにそう思います。つまり生活文化とは、日常生活ということでしょうか。

佐々木 そうですね。本来の日常が一番クールなんじゃないかと思います。東京は特にそうです。着ているものもみんなお洒落です。華美な服は削り、貧乏臭くなく、シンプルでいい服を着ています。

——— 日本の「萌え」やアニメがクールなのか、クール・ジャパンに問いなおしたいですね。

佐々木 そっちのほうがボリュームとして大きいはずです。「萌え」は世界中にファンがいますが、アメリカやフランスのいち部分であって、彼ら全員が「萌え」を好きなわけではありません。日本を好きな人たちが点在していて、それをかき集めるとボリュームゾーンになるよね、っていう話です。それに比べると、日本の生活文化のほうがずっとウケるターゲットとしての市場が大きいでしょう。ただ、ほとんど知られていないことが問題です。

訪れた人は、街が綺麗だとか美食だけでなく、”日常的に食べているものがじつはすごい美味いんだ”とみんな驚きます。崩壊していると言われながらも、ここまで豊かな家庭料理の文化がある国を誇ってしかるべきだと思っています。

 

 

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(聞き手: 

Writer

Takuro Komatsuzaki
  • Takuro Komatsuzaki
茨城在住。『MATCHA』の編集をしています。

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