2014.05.16 Friday
第131回 現場編集者からの疑問に答える��――「しばき隊のカウンター行動は過激」なのか？
第128回でもふれた出版・人権差別問題懇談会の講演で、次のような質問がでた。
○質問：在特会へのカウンター「しばき隊」の表現は適正でしょうか。
この質問に対し、筆者は次のように答えた。
＜講師回答＞
「しばき隊」は、『「在日特権」の虚構』（河出書房新社）の著者・野間易通氏が結成した、正式には「レイシストをしばき隊」のことです。在特会などのヘイトスピーチデモのカウンター行動のひとつです。
「しばき隊」のほかにも、反韓ヘイトスピーチに反対する意志表示をプラカードを掲げて行なう「プラカ隊」など、創意工夫をこらした、さまざまなカウンター行動が行なわれています。
画期的なのは、しばき隊をはじめとするヘイトデモへのカウンター行動には、これまで運動やデモにまったく関心のなかった人も参加しているということです。
静岡からたった一人でやってきた女子高校生が新大久保でプラカードを掲げたり、「共に生きよう」というメッセージをつけたクッキーや風船を配ることで、カウンター行動に参加している人もいます。
ヘイトデモのあまりの酷さに、なんとかしなければ、自分にはなにかできないか、と集まったのが、カウンターの人たちです。
質問のカウンター「しばき隊」の表現は、まちがってはいませんが、現在は解散して（2013年9月30日解散）、そのあとを継いで、対レイシスト行動集団 【Counter-Racist Action Collective、略称C.R.A.C.】が結成され、積極的なカウンター行動を行なっています。
○質問：「しばき隊」という名称を問題にしているのではなく、彼らの言動や活動内容が適切かどうかを知りたい。この回答では、名称が適切かどうかという答えに思える。彼らの活動や言動を、小林顧問はどう考えているのか、教えてほしい。
＜講師回答＞
最初にひと言、言っておきます。
私が知る限り、ヘイトスピーチに反対する彼らのカウンター行動に何ら法的、倫理的問題はなく、私は全幅の信頼を置いており、断固として支持しています。その理由を以下述べます。
カウンターの面々は、在特会など、レイシストが行なうヘイトスピーチに対し、大声でその差別性を罵倒し、掴みかかんばかりの迫力で、抗議の意思表示をしています。
「人をみて法を説け」という言葉があるように、レイシストに「言論の自由市場」論や、対抗言論で応じることなど無意味です。なぜなら、彼らレイシストの行動と発言は、完全な反知性主義に基づく蛮行であり、レイシストに対する言論による批判が意味を持つのは、彼らに対してではなく、彼らの行為に感情的反撥を抱いているが、今一歩踏み出せていない人たちの理解を深めるためでしかないからです。
「朝鮮人を殺せ、朝鮮人は死ね」との、のど元に匕首（あいくち）を突きつけるごときの暴言を浴びせられたときに、理性的に対処したり、躊躇している余裕はないでしょう。問題は、この国に包括的な（人種）差別禁止法がなく、ヘイトスピーチ（憎悪扇動、差別扇動）を規制する法律すらない状況下で、自力救済として最低限の抗議行動を行なうことは、当然の社会的権利であり、憲法第14条を実効たらしめる行為であるということです。
「ヘイトスピーチは言論による暴力であり犯罪なのだ」という認識を欠如させた、「真面目」な反対者が、C.R.A.C.などのカウンター行動を、やりすぎ、行きすぎではないかと、懸念を抱いていることも知っています。しかし、1994年のルワンダの大量虐殺（ジェノサイド）において、ラジオの「ヘイトスピーチ」が果たした役割を忘れてはなりません。「ツチはゴキブリだ！殺せ！」というラジオからの扇動にのって、フツ民族はツチ民族を殺していったのです。
行動の激しさ、言動の厳しさだけを批判して、「レイシストと同じレベルに落ちてはいけない」という“良識者”には、その行動・発言の根本にある思想において区別すべきであり、現象面にとらわれて、“どっちもどっち”というのは、客観的中立ではなく、単なる傍観者的・評論家的態度にすぎないのであり、その実、ヘイトスピーチを行なっているレイシストらを警護している警察の言い分に堕していると言っておきます。
■差別糾弾は社会的に認められた権利である
かつて、部落解放運動が華やかりし頃、部落解放同盟の行なう差別糾弾闘争について、裁判で争われたことがあります。その判決文を引いて、質問への答えとしたいと思います。
「差別というものに対する法的救済には、一定の限界があり、その範囲が極めて狭く、多くの場合泣き寝入りとなっている現状に照らすと、差別に対する糾弾ということも、その手段、その方法が相当と認められる限度をこえないものである限り、社会的に認められて然るべきものである」。（1975.6.3日 矢田教育差別事件大阪地裁判決）
「今日なお部落差別の実態には極めて深刻かつ重大なるものがあるにもかかわらず、差別事象に対する法的規制もしくは救済の制度は、現行法上は充分であるとはいいがたい。糾弾は実定法上認められた権利ではないが、憲法第14条の平等の原理を実質的に実効あらしめる一種の自救行為として是認できる余地がある、また、それは差別に対する人間として耐え難い情念から発するものであるだけに、かなりの厳しさを帯有することも許される」。（1988.3.29日 八鹿高校事件控訴審判決）
最後に一言。
反差別運動は、（人種）差別禁止法や、ヘイトスピーチ禁止法の立法化を勝ち取ることが目的ではありません。差別禁止法は、反レイシズム運動を先頭に部落解放運動やあらゆる反差別運動の闘いの武器になるところに意味があるのです。しかし、法律ができたからといって、レイシズムが消えるわけではありません。（死刑制度があっても殺人はなくならないのと同じです。）
それゆえに、反レイシズム運動、反差別運動は、獲得した法律を武器として、より一層広範に展開されるのです。
（この項つづく）
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