政治・行政
【社説】「河野談話」の検証 政府は何がしたいのか
政府は何をしたいのか。目的は何なのか。少なくとも日本政府にとって、アジアの連帯の構築は最優先課題ではない-という後ろ向きな印象が国際社会に広がることは想像に難くない。
旧日本軍の従軍慰安婦制度について、軍の関与と強制性を認めた河野洋平官房長官談話(1993年)をめぐり政府は20日、談話の作成過程の検証結果を国会に報告した。
報告は、談話を作成した際、当時の政府関係者が水面下で韓国当局者と入念に文言を調整した、とした。韓国側の求めで軍の積極的関与を示唆する表現に手直ししたことも盛り込み、客観性に疑いを投げ掛けた。
浮かび上がるのは「日本が軍の積極的関与を認めたのは、韓国に配慮したから」という主張である。その陰に潜む、決して明文化されることのない本音は「軍の積極的関与」そのものの否認ではないか。
安倍晋三首相のこれまでの発言や姿勢をたどれば、遠回しに否定したいのだと国民に受け取られても仕方あるまい。事実、当事者の韓国はそう捉えているようだ。
実際に同国は「日韓関係の基礎をなす談話を破壊する行為」と反発した。両国関係を阻害してきた繊細な問題であることは、分かっていたはずである。検証が本来の国益にかなうのか、疑問を禁じ得ない。
談話について、安倍首相は2007年の第1次政権当時、「強制を裏付ける証拠はなかった」と発言。12年の自民党総裁選では「新たな談話を出すべきだ」と主張してもいる。
一方で、そうした姿勢に韓国や中国のみならず米国も反発を示した。結局、安倍首相は談話の見直しを否定せざるを得なかった。それが不本意だったのではないか。
だからこそ、談話発表当時の官房副長官・石原信雄氏の発言に依拠し検証を始めたのか。同氏は談話の根拠となった元慰安婦証言の「裏付け調査はしなかった」としている。
談話を継承するとしつつ、核心の一つである「軍の積極的関与」の認定に消極的な姿勢を示す。矛盾というほかない。折り合いが付くとはとても思えない。
検証は戦時下の人権侵害という問題の本質から目をそらし、議論を矮小(わいしょう)化するものである。日本が問題を直視せず、内向きな自己弁護を重ねる限り、国際的な信用や尊敬を得ることは難しいだろう。
【神奈川新聞】