通常国会閉会へ/独断専行型の危うさ拭えず
第186通常国会がきのう事実上閉会した。ほぼ思い通りの運営と実績を前に、安倍晋三首相は手応えを感じていよう。
自民、公明の与党が衆参両院で多数を占め、第2次安倍政権が「ねじれ状態」を解消して初めて臨む通常国会。盤石の政権基盤を背景に、野党との論戦が不発に終わる一方、重大な政策転換が相次いだ。
今国会は「安倍カラー」の全面展開に特徴付けられる。「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げ、第1次政権当時の挫折という負い目もバネに、国の伝統や強さといった国柄を重視する価値観に裏打ちされた法改正などを矢継ぎ早に進めた。
憲法改正の手続きを確定させる改正国民投票法が成立。20日に公布、施行された。安倍首相が人一倍こだわる憲法改正のお膳立てが整うことになる。
憲法9条の改正に先行させる格好で、憲法解釈見直しによる集団的自衛権の行使容認を決断。慎重な公明党に配慮して、会期内の閣議決定を見送ったが、近く与党協議で合意、決着する見通しだ。
昨年12月の臨時国会による特定秘密保護法の強行可決を受け、運用をチェックする「情報監視審査会」を両院に新設する改正国会法も、保守に立脚する野党の協力もあり押し切った。
外交と安全保障政策の初の包括指針「国家安全保障戦略」に続いて、武器輸出管理に関する新三原則を閣議決定した。
教育改革も断行。教育委員会制度を見直して、自治体首長の権限を強化する改正地方教育行政法を成立させた。
世界の中の強い日本を意識し、国の形を大きく変える。その関連で政治が教育への関与を強める。経済政策、アベノミクスの推進を図る成長戦略も「富国強兵」に向けた企業重視の「殖産興業」のように映る。
「一内閣一改革」が半ば常識とされる中で、これだけ多くの国の根幹に関わる改革を短期間にやり遂げた、または実現しつつある政権は異例だ。
ただ、議論が尽くされたとは言い難い。「結論ありき」で押し通すケースが目立ち、速さと目指す方向に戸惑い、納得しきれない国民も少なくあるまい。
集団的自衛権の行使を憲法解釈の見直しで認めようとする、その手法は憲法が権力を縛る立憲主義の価値を踏みにじる。特定秘密の定義は曖昧で、チェック体制も脆弱(ぜいじゃく)。「監視国家」「秘密社会」化が懸念される。
武器輸出の見直しも国際紛争に加担しかねず、「平和国家」から「戦争のできる国家」への変質を危惧する声も聞く。
安倍首相の「ワンマン政治」と化した国会で野党の存在はかすむ。分裂を繰り返すなど対峙(たいじ)し論戦を挑む状況にすらない。性根を据えて国民の失望を期待に変える取り組みを強く求める。
決められる政治を望みつつ、独断専行型の先行きを危ぶむ。決める、その内容こそが肝要だ。リーダーの満足が主権者の不安と表裏であっては、政治への確かな信頼を取り戻せない。
2014年06月21日土曜日