ニューズウィーク日本版への抗議
ニューズウィーク日本版 2014年6月24日号
深田政彦氏執筆「『反ヘイト』という名のヘイト」記事に抗議します。
6月17日発売のニューズウィーク6月24日号における深田政彦氏執筆「『反ヘイト 』という名のヘイト」は、レイシズム(人種差別・民族差別)、ヘイトスピーチと闘う私たちには、許せない記事であり、抗議する。以下具体的に説明する。
まず、第一に記事の取材意図を隠し、紹介者が「活動を高く評価している」といって、接近してきた取材手法に問題があると考える。私たちは自分たちだけが正しいとだけはいうつもりはないし、書き手が自由に書く権利は保障されなければならない。しかし、何の権力も持たない市民団体や活動団体を取材する際には、誠意がなくてはならない。すべてボランティアで活動している私たちは、自分の時間をやりくりし、資料も用意して説明したのに、取材意図もきちんと説明せずに、被取材者の期待と180度反対の立場で書くことは、取材者の倫理として問題である。その上で、「お話は記事の切り口や方向性を決めるのに重要な情報」となり、「コメント部分も録音に基づいておりますのでご安心ください」というお礼メールの文章は、“録音に基づいているから、名誉毀損で訴えるなよ”という恫喝である。このような逃げ道をつくっておく記事がどのようなものなのかは、想像に難くない。
第二に、全く事実内容をねじ曲げている部分があることを抗議する。この短い記事の間でもいくつもあるが、全て指摘しておくと切りがないので、一つだけ指摘する。西川口でのヘイトデモにおける逮捕事件に関し、「(ヘイトデモに)参加しようとした42歳の男性が反ヘイト活動家の38歳の男性に顔を殴られ」と書かれている。実際は、「デモに参加しないように口頭で抗議をしている最中に興奮したUが突然暴れだしたため、制止に入ったMともみ合う形となり、その際に制止しようと無意識的にUの顔を押さえたことにより発生した」ということが事実である。この記載は、「男組を名乗る10人組に絡まれ集団暴行を受けたものですが、そのうちの一人(M)が格闘家であり男性の顔面、目の近辺を執拗に殴り続け頬骨骨折の重傷を負わせた」という桜井誠在日特権を許さない市民の会(在特会)会長のデマと同様の立場のものである。本人が否認しているという新聞記事もあるのに、全く無視していることも意図を感じる書き方である。
第三に、「『反差別』という差別が暴走する」(見出しより)という一方的な視点からの記述になっていることである。ヘイトスピーチにはわずか一行のみ「容認しない」とだけ書き、あとは抗議する市民を揶揄し、暴力的だというレッテルばりするために言を費やしている上に、悪意を感じさせる書き方に終始する。C.R.A.C.の野間氏は「組織」をしばき隊に「衣替え」し、怒りの感情を「利用」。男組は「傘下」に差別反対東京アクションを設立する。辛淑玉のりこえねっと共同代表は「まくしたて」、「一般市民の恐怖をあおる」。この記事は「在特会もカウンターもどっちもどっち」論よりも明らかにヘイトスピーチの側に立っていることは、ヘイトデモ参加者が「反ヘイト団体からの暴力を恐れて」おり、「攻防戦の結果、在特会の勢いは既に失速。デモや集会は中止になり、告知すらままならない」と同情的に書くことにも現れており、許すわけにはいかない。
第四に、決定的な問題点は、長年にわたるヘイトデモ・ヘイトスピーチによって傷つき、苦しんでいる当事者については、全く触れられていないことだ。レイシストの街宣に抗議しようものなら、女性でも高齢者でも障害者でも罵倒して攻撃する姿は枚挙に暇がなかった。深田氏も参加したと思われる6月11日の『のりこえシンポ 2014.6.11』でも、「お散歩」と称した新大久保コリアンタウンでの韓流ショップへの嫌がらせ映像が上映された。このような恐ろしい状況を、誰が阻止しえたのだろうか。京都朝鮮学校襲撃事件で、授業中に街宣を学校にかけ、子ども達がおびえ苦しんでいる時に警察は動いたのだろうか。この時警察は被害届を8時間以上にわたり受取りを拒絶したのだった。このような被害の実態をまるで無視した記事には疑問を感じざるを得ない。
第五に、一方的に法規制議論を持ち出して誹謗している。「反ヘイト団体の糾弾対象は…『表現の自由』とへ拡大」と捏造しているが、深田氏は法規制には疑問を投げかけているようである。またアメリカでは法規制がないと深田氏は指摘しているが、差別に敏感な同国では、黒人差別発言をしたNBAのオーナーが永久追放され、罰金2億円というような社会的制裁を受ける社会である。この点を触れない議論は全くのミスリードである。
この間ニューズウィーク日本版は、嫌韓記事を掲載し、問題のある雑誌となっていた。この記事は、それらの記事と同様に一見中立を装いながら、その実、在特会をはじめとする排外主義団体にすりよっているものになっている。私たちはこのような記事では、決してヘイトスピーチやヘイトクライムがなくならないことを指摘しておく。深田氏ならびにニューズウィーク編集部は「議論を重ねる国」をめざしているようだが、議論を重ねているうちに、在特会の会員は30倍にも増え、21世紀では考えられないヘイトスピーチが氾濫する国になった。
私たちは、ヘイトスピーチ・ヘイトクライム、レイシズムが日本から無くなるまで、行動を続ける。被害を受けている当事者自身の尊厳をかけて、当事者との連帯をかけて、行動を続けることを表明する。
2014年6月19日
ヘイトスピーチとレイシズムを乗り越える国際ネットワーク
※のりこえねっとでは、この記事について、ニューズウィーク日本版編集部に公開討論を申し入れた。討論については、のりこえねっとTVで放送を予定している。詳細が決まったらホームページ等で告知するので、ご注目いただきたい。