11-1
「あ、直斗だ。おはよー」
僕が彩楓にお見舞い――もとい、謝罪をした日の翌日。登校の支度を終えて玄関を開けると同時に自宅の門前で彩楓がそう言いながらこちらに手を振ってきた。
「おう。おはよう」
そう幼馴染に挨拶を返し、玄関の鍵をかけた僕は彩楓の傍まで歩く。彼女の顔にはマスクが付けられていた。
「まだ風邪治ってないのか?」
「ん? ああうん、そうなんだよ。今日には風邪を治してベランダ伝って直斗を起こしに行こうと思ってたんだけど、朝起きたらまだ若干体怠くてさー」
言って、彩楓は小さく咳をした。やはりまだ本調子ではないらしい。
「でも良かったよ、動けるまでに回復して。僕のお見舞いがどうやら効いたみたいだな」
「お見舞いとか言いながらほとんどゲームしてただけだったよね? ね?」
「お前は何も分かっていないな。あれはゲームをしつつ心の中で彩楓が治るように神様にお祈りをしていたんだよ」
「神様とか直斗は何をバカなことを言っているの?」
「…………」
まさかこいつから馬鹿呼ばわりされる日が来るとは。何か屈辱である。
「それにしても、今日も曇ってるねー」
空を仰ぎながら彩楓は言う。彼女の言う通り、空は灰色の雲によって覆われていた。天気予報のお姉さんが言うには、近々梅雨入りをするらしい。
「こういう天気の日は何かジメジメするからあたし嫌いなんだよね。段々夏に向けて気温も上がり始めているのに、そのジメジメのせいで更に蒸し暑く感じるってゆーか……ホント、中間服という制度があって良かったよ」
彩楓の言う中間服とは冬服から夏服に衣替えするまでの間、個人の判断で冬服・夏服のどちらでも着ることができるという服装的に自由な期間なのである。そんな制度もあってか僕も学ランを脱いで上は半袖のカッターシャツ1枚であり、彩楓も半袖のカッターシャツの上にニットベストを着ていた。
「まあ、天気予報によれば雨は降らないって言ってたし、ジメジメはしているけれど雨の心配はないだろ」
「直斗って案外天気予報とかそういう情報源を鵜呑みにするよね。もしも雨が降ったらどうするの?」
「心配するな。僕は鞄の中に入っているゲームが濡れなければ何の問題もない」
「いや、直斗が濡れている時点で既に問題あるように思うんだけど……」
「いざとなったら僕がこの身を挺して鞄を守る」
「全然カッコ良くないよ、そのセリフ」
ジト目でこちらを見てくる彩楓。どうやら呆れられてしまったらしい。ていうか、僕達はいつまでこんなところで立ち話をしているのだろうか。
「そろそろ行こうぜ。いつも乗ってる時間の電車に乗れなくなるし」
「え? もうそんな時間なんだ。よーし、直斗! 走ろう!」
「落ち着け。歩いても充分間に合うし、そもそもお前まだ病人だろうが」
1日寝ていて体力があり余っているのだろうか。そんな運動をしたくて堪らない様子の彩楓をどうにか宥めつつ僕と彩楓は駅に向かって歩き出す。
「だーいじょうぶだって! ほら、あたしこんなに元気ケホッケホッケホッ」
「マスクした状態で咳き込みながら言われても説得力の欠片もねえよ……それにしても、未だに信じられないな、お前が風邪を引いたなんて。馬鹿は風邪を引かないと思っていたのに」
「あ、ひっどーい。言っとくけど、バカって言う方がバカなんだからね?」
「そういうお前もさっき僕のことを馬鹿呼ばわりしてなかったか」
「そんな昔のことは忘れました」
「いや1分くらい前の話だから!」
「それはほら、直斗が神様とかありえないワードを出して来たから……ってか、直斗って神様信じてるんだね。何か意外」
「それはお前信じてるに決まってるだろ。命中率が低い攻撃が良いタイミングで敵に当たったりだとか、偶然良い武器を開発することが出来たりだとか、そういう時は毎回神様に感謝してるし」
「例えが良く分からないけどとにかく直斗が神様を物凄く信じているってことだけは分かったよ……ふーん、でも、そっか。あたしは神様とか占いとかそういうの信じていないかな」
「神様はともかく女子は占いとか好きそうだし、信じていそうだけどな」
「他の女の子はそうかも知れないけど、あたしは違うの。何かこう、例えば空手の試合とかでさ? 運が良くて勝てたとか、偶然あの一撃が決まって勝てたとか……そういう実力以外の要素で勝ちたくはないし、それで勝ったとも言われたくないんだよね、あたし」
「選択肢のあるテストを毎回ほぼ勘で書いているお前がそれを言うのか?」
「て、テストは別! だ、だって分からないし……」
と、とにかく!――と彩楓は何かを誤魔化すように左右の拳を交互に前方に繰り出した後、少し小走りで前進して前に蹴りを繰り出した。
「あたしは空手では実力主義ってこと! だから神様も占いも信じないってわけ」
「そうか、なるほどな」
「分かってくれたようで何より」
「どうでもいいけど、そんなところで蹴りなんかやってたらスカートの中見えるぞ」
「ひゃあっ!」
僕の一言に彩楓は頬を赤らめてスカートを押さえるとその場にしゃがみ込む。それから、恐る恐るこちらを見上げてこう言った。
「……み、見た?」
「いや、見える訳ないだろ。僕はお前よりも後ろを歩いていたんだから」
「だ、だよね……良かった」
「色はピンクか?」
「やっぱり見てるじゃん!」
「ええ!? 当たった!?」
拙い。適当に言ったらどうやら当たってしまったらしい。
「い、今のは適当だって! 本当に見てないから! と言うか、あの位置から見える訳がないから落ち着け! 頼むから殴らないで下さい!」
「ちょっと! 何であたしが殴る前提で話進めてるの! まだ構えすら取ってないのに!」
全く――と、頬を上気させたままその場に立ち上がった彩楓は僕に背を向けて言う。
「まあ……いいけどね、別に」
「……怒らないのか?」
「あ、当たり前でしょ。あの位置から見える訳がないし、だから直斗が適当に言ったことも分かるし……それに、仮に見られたとしても直斗だし」
「え? それは僕だったらいくら見ても良いということか?」
「誰もそこまで言ってないし! この変態!」
「変態とは失礼な! せめて変態紳士と呼べ!」
「へ、変態紳士? 何それ」
「変態だけど紳士的な人物のことを指して言う言葉だ」
「それって結局ただの変態じゃん!」
ごもっともである。彩楓のそのツッコミに僕は思わず頷いてしまった。
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