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オタク研究会は現在新入部員を募集していません。 作者:二三四五六七

第10章

10-2

「別にいいじゃない。変装するのは私なんだし」

「だからその変装したお前と一緒にいること自体が恥ずかしいんだって!」

 溜息をつき、両手を腰に当てながら僕は天井を仰ぐ。駄目だ、こいつ何にも分かっていない。

「……とにかく、変装するのは勘弁してくれ」

「でも、変装しないと店内に入れないわ」

「それは確かにそうなんだけど……それじゃあ、コートだけを羽織るというのはどうだ? 変装するにしても、僕は今までここに珠玖泉高校の生徒が来たところを見たことがないし、ここに珠玖泉高校の生徒が来ても、案外制服を隠していればお前だとは気付かれないと思うぞ?」

「どうしてそんなことが言い切れるのかしら」

「確証はないけど……先入観が働く、みたいな。学校の奴等は制服以外の服装を纏ったお前を見たことがない訳だろ? それに、お前みたいな人間がこんな場所にいる訳がない――という先入観もあるだろうし」

「……なるほど、一理あるわね。萩嶺君のくせに、生意気だわ」

「生意気言うな」

 腕を組みつつ真面目な顔をして僕の罵倒した宝船は鞄の中から足の付け根辺りまでを覆う大きな――それこそ、魔女がその身に纏っていそうな黒いマントのようなコートを羽織った。

「こんな感じでいいかしら? 萩嶺君」

「そうだな。それだとギリギリだが近くにいれる」

「これでもギリギリなのね。まあいいわ。それじゃあ、行きましょうか」

「おう」

 宝船がエレベーターのボタンを押す。そのまま僕達は特に会話することもなくエレベーターの到着を待った。


 ◆ ◆ ◆


「……ヤバいわね」

 3階のとある一角――そこに位置するオタクグッズの販売を専門とした店舗、アニメテオに到着するや否や宝船が真剣な表情でそんなことを呟いた。

「ヤバい? 何だよ、珠玖泉高校の生徒でもいたか?」

「いいえ、今の『ヤバい』は私のテンションが上がり過ぎてヤバいという意味の『ヤバい』よ」

「知らねえよ! 同じ学校の奴がいたかと思ってドキッとしただろ!」

「仕方ないじゃない。だって久しぶりのアニメテオなのよ? テンションが上がらない方がどうかしているのよ。そう、どうかしているのよ」

「何で2回言ったんだよ」

「地球温暖化問題レベルで大事なことだから」

「いや、絶対そこまで大事なレベルじゃないだろ。精々今日の夕飯の献立を考えなきゃならないという使命感レベルだよ」

「ごめんなさい。ちょっと何を言っているのか分からないわ」

「そこは同意してくれないのかよ!」

 そんなこんなで、僕達はとりあえず店内に入ることにした。

 店舗に入るなり、僕は左の方向へと足を進める。店の左方向にはライトノベルやアニメグッズなどのコーナーがあるからだ――ちなみに右方向ではトレーディングカードやアニメのCD・DVDなどが販売されている――アニメのCDやDVDを眺めるのもいいけれど、とりあえず今日の目的を済ませてからにしよう。

「あれ?」

 すると、僕は宝船が隣を歩いていることに気付いた。

「何だ、お前もこっちに用事があるのか?」

「いいえ、私はただ萩嶺君に付いてきただけよ」

「どうして僕に付いてくるんだよ」

「だって、私達今日は2人でアニメテオに来ているのでしょう?」

「だからってどうして2人で行動する必要があるんだ? 別々に色んなところを回ればいい話じゃないか」

「……ぼっち特有の思考回路ね」

「う、うるさいな」

 その蔑んだような目を止めろ。お前だって友達多い訳じゃないだろ。

「でもまあ、今日は萩嶺君のお誘いを受けた身だし、このままあなたに付いて行くことにするわ」

「そのお誘いを提案したのはお前だけどな」

「元々私を誘い出したのは萩嶺君よ。それで、今日は何の用事があってここに来たの?」

「ああ、用事な。実は、今本屋でシルバルトとゴルディスタの栞が配られているんだと」

「シルバルトとゴルディスタって……あの『銀翼の祈祷師』の?」

「勿論。ああいうのは1つの書店に配られる枚数って大体決まってるから、早めに貰いに行かないと間に合わないかなって――」

「どうしてそれを先に言ってくれないのよ!」

 そう声を荒げて宝船はハッと我に返ると周囲を見渡す。案の定、彼女には店内にいる人々の数多の視線が向けられていた。

「お前、周りから正体隠す気あるのか?」

「う、うるさいわねっ」

 小声で尚且つ先程のように若干声を荒げながら再度こちらを振り返る宝船。周りから注目の的になってしまったからか、彼女の頬は少し赤くなっていた。

「あ、あなたがその情報を早く言わないからでしょ?」

「いや、ライバルは少ない方がいいだろ?」

「あえて言っていなかったってことね。せこい男だわ」

「それじゃあ、お前ならどうなんだ? お前が今回の情報を得て、僕がその情報を知らなかったとして、お前は僕にその情報を教えてくれるのか?」

「教えないわね」

「お前も僕と同じじゃないか!」

「同じ? せこい男と一緒にしないで」

「お前こそせこい女だろうが!」

 それで?――と宝船が問いかけてくる。それと同時に目の前にライトノベルコーナーが見え始めた。

「あなたはどちらの栞を狙っているの?」

「別に僕はどちらでもいいよ。強いて言うなら両方欲しいかな」

「なら、もしシルバルトちゃんとゴルディスタちゃんが1枚ずつしか残っていなかったら、私にゴルディスタちゃんを譲ってくれない? というか譲ってくれなくても奪い取るから」

「奪い取るって……何か怖いな」

「奪い取れないようならその腕ごと奪い取るわ」

「本当に怖いよ!」

 お前ゴルディスタの栞どんだけ欲しいの!
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