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オタク研究会は現在新入部員を募集していません。 作者:二三四五六七

第8章

8-4

「見回りは明日からだから……とりあえず、明日帰りのホームルームが終わったらここに集合ということでいいかしら」

「ここ集合ね、了解」

「……萩嶺君」

「何だよ」

「……また明日」

「え? ああ、おう。また明日」

 会話に間を開けておいて最終的に別れの挨拶とは――そんな感じで僕が宝船に対して意外に思っていると彼女は部室の出入り口からそそくさと足早に出て行ってしまうのだった。

「…………」

 最近、どこか宝船のことを分かったような感触を得ていたのだがどうやらそれは勘違いだったらしい。

 いや、出会った頃の宝船のことは何となく分かっていたような気がする。

 ということは、勘違いだったのではなく最近の宝船のことが分からなくなってきた――ということなのだろうか。

「……って、僕は一体何に思考を巡らせているんだ」

 そこはかとなくどうでもいいことである。

 大体宝船のことが分かるようになったからといって僕に何のメリットがあるというのか。

 まあ、彼女の考えさえ分かればあいつの口から止め処なく放たれる毒舌を少しばかり回避することができるかも知れないが――それだけである。

「……ゲームでもするか」

 こういう訳の分からない思考や感情が渦巻いている時はオタク趣味にふけるに限る。

 オタク趣味は最高だ。こうしたモヤモヤとしたものを心の中から取り去ってくれるから。

 宝船に謝罪する際に立ち上がっていた僕は改めてパイプ椅子に座り直す。

 それから、鞄の横に置いていた携帯ゲーム機を手に取るとその電源を入れた。


 ◆ ◆ ◆


 宝船と珠玖泉高校付近の見回りの手伝いをすることとなった翌日。帰りのホームルームを終えた僕はオタ研の部室にて宝船の到着を待っていた。

 宝船は帰りのホームルームが終わると同時に教室を出て行った。おそらく、生徒会室に何らかの用事があったのだろう。

 僕はと言うと、宝船の到着までゲームをして時間を潰していた。我ながら、恐喝事件の見回りに対して楽観的に構え過ぎていると思うが、昨日宝船が言っていたように犯人を捕まえる訳ではなく、今回はあくまで見回りだけと言うのだから――まあ、これくらいの態勢が丁度良いのだろう。個人的な考えだけれど。

「……恐喝事件、か」

 その呟きと共に、僕が操作するキャラクターの放った魔術がラスボスに命中する。それにより、ラスボスは倒れゲーム機の液晶画面にエンディングが流れ始めたことを確認してから、僕は部室に置きっ放しにしているノートパソコンの電源を入れた。

 起動完了したパソコンを操作し、ネットにアクセスする僕。検索サイトのエンジンに『珠玖泉高校』・『生徒』・『恐喝』の3つのキーワードを入れた後、エンターキーを押す。

 直後、ほんの一瞬だけ画面が白くなったかと思えば1秒にも満たない速度でパソコンの画面に検索結果の一覧が表示された。僕はマウスを操作して、一覧の一番上にあるページをクリックする。

 表示されたのはとあるポータルサイトのインターネットサービスの一部と思われるニュース記事だった。『珠玖泉高等学校の生徒が恐喝被害、これで5人目』という見出しの後に事件の大まかな内容が文章として綴られている。

「……なるほど」

 その記事には珠玖泉高校の生徒がどこでいつ襲われたのか――それくらいの情報しか載せられていなかった。分かったことと言えば犯人は全員男であり、複数で行動していたということ――つまりは性別と人数以外は何も分かっていないということである。

「当分続きそうだな、この分だと」

 警察も動いているだろうが、この情報の少なさでは捜査のしようがないだろう。おそらく、今日僕と宝船がするであろう見回りレベルの行動しか起こせていないはずだ。

 今までの事件が全て珠玖泉高校付近で起こっているとは言っても範囲はそれなりにある。警察も全ての人員をこの事件に割けないだろうから――やはり、解決には時間がかかりそうか。

「しかし、恐喝ねえ」

 複数の男がこの事件を起こしているとなれば大体アニメとかだとそういう集団か、もしくは中学生か高校生辺りの奴等が犯人であることが多いのだけれど。

 そんなにお金が欲しければバイトなり何なりすればいいものを。

 ひょっとして、珠玖泉高校と同じで校則によってアルバイトが禁止されているのだろうか――いや、恐喝事件を起こすような奴等である。元々校則になんか縛られるような人柄じゃないだろう。

 ていうか、そもそもまだ犯人が学生だと決まった訳じゃないし――いくら二次元の世界でこういう事件の犯人は決まって学生だというケースが多くても、である。

 現実と非現実をごちゃ混ぜにしてしまうのはオタクの悪い所だ。

 気を付けなければ。

 そうやって、僕が自分自身の考えに呆れていると不意に部室の扉が開く音が聞こえた。振り返らなくても大体予想はつくが、とりあえず基本的なリアクションとして僕は入り口の方を振り向く――すると、そこには案の定宝船の姿があった。
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