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オタク研究会は現在新入部員を募集していません。 作者:二三四五六七

第8章

8-3

「お前は……その、何だ。意図的にこの高校の――珠玖泉高校の生徒が狙われているとでも言いたいのか?」

「あくまで仮定の話、だけれどね。でも、現在起こっている恐喝事件の被害者が全て珠玖泉高校の生徒だというのは……嫌でも、そんな仮定を立てたくなるわ」

 まあ、確かに宝船の言う通りである。

 今までの被害者が全て珠玖泉高校の生徒――これはもう偶然とは言えないだろう。

 今回の一件は全て必然だと見るのが普通か。

 だとすれば犯人の目的は一体何なのか。

 珠玖泉高校の生徒を襲って何がしたいのか。

 ……って、それが分かれば苦労はしないか。

「……ん?」

 と、僕はここで一つ気になることを発見した。

「お前、さっき僕に何か協力して欲しいって言ったよな?」

「ええ、言ったわ」

「それで、何か知らないけどこの恐喝事件の話を持ち出したよな?」

「そうね」

「……ってことはつまりまさか」

「あら、どうやら話の本題を私が話すよりも先に理解してくれたようね。助かるわ」

 そういうことよ――と宝船は得意気な表情でこう言った。

「萩嶺君、あなたには恐喝事件が多発しているこの学校周辺を私と一緒に見回ってもらいます」

「却下だ! そんなこと――って見回り? それだけ?」

「それだけとは何よ。見回りだって大切なことよ? 街中をどうしてパトカーが巡回しているのか知ってる? あれは発生した事件にすぐ対応できるためでもあるけれど、その事件を未然に防ぐべく『見回り』をしているのよ。見回りを馬鹿にするのはパトカーで巡回している警察官を馬鹿にするのも同然。という訳で、萩嶺君今からすぐに警察署に手錠をかけてもらいに行きなさい」

「謝罪じゃねえのかよ! さり気無く捕まってるじゃねえか!」

 今の発言は見回りを馬鹿にしたのではない、決して。

 ただ――何と言うか、気が抜けてしまったのである。

「いや、あれだよ、あれ。お前のことだから、僕を恐喝事件の犯人を捕まえる人員に加えるのかと思ってさ」

「は? 恐喝事件の犯人を捕まえる? 私達高校生如きがそんなことまでする訳がないじゃない。それに、それこそ警察の仕事だわ」

「そ、そうだな、そうだよな」

「というか、萩嶺君を犯人の逮捕の人員に加えたとしても足手纏いにもならないわ」

「酷くね!? せめて足手纏いにはしてくれよ!」

 足手纏いにすらならないとは宝船の中での僕の価値観とは一体……。

「そうね、ごめんなさい、訂正するわ。萩嶺君は足手纏いにすらならないけれど、犯人からの攻撃を防ぐ盾くらいにはなりそうね」

「…………」

 どうやら、宝船の中での僕の価値観は敵からの攻撃を防ぐ盾らしい。

 要するにおとりということである。

 悲しくなんかない、僕は心の強い男なのだから。

 あれ、何か目にゴミが……。

「それで? 萩嶺君はどうするの?」

「……まあ、確かに一人で見回りをするってのも危ないけどさ、それなら生徒会役員のメンバーの誰かと一緒じゃ駄目なのか?」

「萩嶺君は知らないかも知れないけれど、実は生徒会役員は全員女の子なの。だから、どちらにしても生徒会役員同士で固まって見回りをしても危ないのよ」

「なるほど、そういうことね――ってあれ?」

 それなら、どうして宝船は僕を選んだんだ?

 という疑問が脳裏を過ぎったが、その答はすぐに予想することが出来た。

 そう言えばこいつ、僕と同じで友達いないんだっけ。

 生徒会役員が全て女子ならば、宝船には彼女が言うところの形式的な会話をする相手――つまり、知り合いと呼ぶべき男子すらいないのだろう。

 そう、オタク趣味で若干の繋がりを持っている僕を除いては。

 だから宝船は見回りの付き人に僕を選んだという訳なのだろう。

 きっとそうだ。

「萩嶺君?」

「え? ああいや、何でもない。そうだな……まあ、見回りをするだけなら、別に一緒に行ってやってもいいけど」

「えっ? 本当に?」

 目を丸くする宝船。

「何でそんなに意外そうなんだよ」

「い、いえ……まさか本当にあなたが私の申し出を呑んでくれるとは思っていなかったから」

「付いて行かなくてもいいんなら僕はそれでもいいんだぞ」

「わ、分かっているわよ。ただ、その、だから……少し意外だっただけよ。勘違いしないで欲しいわ」

「いや、別に勘違いなんかしていないけど」

 てか何を勘違いしろと。

「べ、別に……萩嶺君が了解の意志を見せてくれて、嬉しい訳じゃないのだから」

「そんなことは知ってるよ」

 ツンデレかよ。

 言っておくがな、宝船。普段のお前のキャラを鑑みるにお前にツンデレは似合わないと思うぞ。

 そして、自分でも似合わないと思っているのか、宝船の顔は若干ながら赤くなっていた。

 照れるくらいならツンデレの真似事なんかするな。

 全く、これだからオタクという人種は……僕もだけど。

「そ、それじゃあ、その」

 くるりと僕に背を向ける宝船。その行動はまるでこれ以上自分の顔を僕に見せないような――そんな意思が含まれているように思えた。

 何だろう。そんなに照れた顔を僕に見せたくなかったのだろうか。
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