8-2
「そこまで謝られては仕方ないわね……許して上げるわ」
「それはどうも」
おや、案外すんなりと許されてしまった。
別にもっと宝船に怒られたいとかそんな変態的思考を築いてはいない。ただ、普段の宝船ならばもっと僕を罵倒したり何なりするはずなのである。
ひょっとして、ここまで簡単に僕を許すのには何か裏が――。
「許す代わりに、萩嶺君には私に協力してもらうわね」
やっぱりか!
「……その協力を嫌だと言ったら?」
「私は萩嶺君のことを許さないわ」
「許されなくてもいいと言ったら?」
「生徒会役員という権限を使って無理矢理萩嶺君を従わせるわ」
「何それ狡くね!?」
普段はあまり生徒会役員らしいことはしていないくせに……!
「どちらの選択肢を選んでも僕に得は無いなんて……流石だな、お前」
「褒めてくれてどうもありがとう」
「一言も褒めたつもりはないんだが」
「さて、萩嶺君も協力してくれるということで早速本題に移りましょうか」
「待て待て待て待て! ちょっと待て! 勝手に話を進めるな!」
「黙りなさい、萩嶺君に発言権は存在しないわ」
「いや何でだよ! 意味が分からん! 人は皆平等なはずだ! 憲法にだってそう定められている!」
「でも、日本国憲法には『萩嶺直斗という個人を除く』という一文もあるわ」
「ある訳ねえだろ! 真顔で嘘をつくな! 信じそうになるだろ!」
こいつ、僕を罵倒するために憲法の内容さえも変えようとするとは……恐ろしい奴である。
「とにかく、お前からの頼みとか、協力とか、そういう申し出は却下だ却下」
「どうして? せめて話の内容を聞いてから決めて欲しいわね」
「いやだってさ……お前からの申し出って嫌な予感しかしなくて」
「その根拠は何?」
「そんなものはない。何となくだ」
「即答してくれたわね。傷付くわ」
そして、宝船は小さく溜息をつくと一つ間を置いてから再度口を開く。
「……私がここに来るのが遅れた理由であるところの会長からの伝達事項というのは、今日の帰りのホームルームで伝達されたことでもあるの。あなたも教室にいたのだから、知っているわよね?」
「いや、ホームルームは毎回ラノベ読んでるから先生の話なんて聞いてないな」
「…………」
宝船から半目の呆れ顔で見られてしまった。
だって、先生のああいう話って退屈じゃん?
「全くあなたという人は……ホームルームにまでラノベを読んでいるなんて、オタクの極みね」
「オタクの極みとかお前にだけは言われたくない」
「私があなたよりもオタクな訳がないじゃない」
「少なくとも僕はアニメの好きなキャラを『たん』付けで呼んだりはしない」
「っ……! あ、あれは……だから、その……ず、狡いわよ萩嶺君、人のそういう癖を持ち出して来るなんて」
顔を真っ赤にして、呂律があまり回っていないところを見るに今の言葉は宝船に効いたようだ。こいつ、好きなキャラを『たん』付けで呼ぶことを案外気にしているらしいな。憶えておこう。
「で? 先生からの話が何だって?」
「せ、先生からも言われていたけれど……最近、この辺りで何者かによる恐喝行為が多発しているらしいわ」
「恐喝行為? 要するにカツアゲってことか?」
「まあ、そうなるかしらね。被害に遭った生徒も若干の暴力を加えられた挙句に、金品を盗られているみたいだし」
「なるほど、それで先生から僕達生徒に注意を促したって訳か」
「そういうことよ」
カツアゲねえ……最近はアニメの消化に忙しくてニュースもろくに観ていなかったから全然知らなかった。
「分かった。カツアゲね、気を付けるよ」
「気を付けてくれるのは良いのだけれど、残念ながら話はまだ終わっていないのよ、萩嶺君」
「は? どういうことだよ」
「恐喝事件も勿論問題なのだけれど、問題の本質はそこじゃない」
本当の問題は――と宝船はいつになく真剣な表情で僕に向かってこう言った。
「被害に遭った生徒が――全員この珠玖泉高校の生徒だということよ」
「……被害者が全員この高校の生徒だって?」
怪訝に質問する僕に宝船は無言で頷く。
「そんなことって……ただの偶然なんじゃないのか?」
「そうね、ただの偶然なのかも知れないわね。偶々恐喝に遭った人物が全員珠玖泉高校の生徒だっただけなのかも知れない――でも、そうじゃないかも知れない」
「…………」
そうじゃない――とは一体どういうことなのか。
偶然ではないと言いたいのか。
必然的に起こされたものだと――宝船はそう言いたいのだろうか。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。