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オタク研究会は現在新入部員を募集していません。 作者:二三四五六七

第7章

7-6

「そう言えば、躑躅森さんは今日どうしているの?」

「あいつは今日部活」

「そう……休日も部活なんて大変ね」

「まあ、あいつは部活が全てってところあるからな。休日にも部活が出来るなんて、あいつも本望だろ」

「……流石は幼馴染というところかしら。躑躅森さんのこと、よく分かっているのね」

「は? 何だよそれ」

「別に。何でもないわ。それじゃあ、早速お昼を食べに行きましょうか」

 言って、宝船はリビングを出て行く。どこか不機嫌そうにも見えたが、僕にその原因が分かる訳もなく。

「……財布取りに行くか」

 溜息混じりに呟いて、僕は立ち上がると宝船に続いてリビングを後にした。


 ◆ ◆ ◆


 今日の気温は暑すぎず、寒すぎず、外出するには丁度良いものだった。季節の変わり目という奴だろうか――きっと、今は春と夏の中間地点なのだろう。

「そう言えば、お前よくこの辺りのモクドナルドの場所を知っていたな」

 隣を歩く宝船に向かって僕は言う。

「前に来たことがあるから、その時に、ね」

「前に来た?」

「萩嶺君の家の場所を調べに来た時よ」

「とんでもないことを言いやがったな」

「珠玖泉高校にいる数少ないオタクがどんな人なのか調べる必要があったから」

「ひょっとして、僕を尾行したとかそんなことはしていないよな?」

「…………当たり前じゃない」

「絶対嘘だろ!」

 今の間は何だ! 怖いぞ!

「まあ、そんなことはどうでもいいじゃない」

「どうでもよくねえよ! 全然どうでもよくない!」

「モクドナルドで何を食べるか今の内に決めておきましょう」

「……絶対いつかは話してもらうからな」

 僕は早々に言及を諦める。これ以上僕が問い詰めても宝船は何も答えてはくれないだろう。自分が話したくないことは話さない――こいつはそういう奴だ。

 その後、僕達は住宅街を抜けて大通りに出ると、駅前にあるモクドナルドに到着した。自動ドアを潜り抜けて店内に入ってみれば、休日の、それとも昼時ということもあってか中は大勢の客で賑わっていた。

「物凄い人だな……あまりの人込みに酔いそうだ」

「萩嶺君はどれだけぼっちであることに慣れてしまっているのよ」

 宝船が呆れたような視線でこちらを見てくる。別に慣れたくて慣れた訳じゃない。というか、『ぼっちに慣れる』って一体何だよ。

「まあ、いいじゃない。待つ時間が長いお陰でゆっくりと食べたいものを決めることが出来るわ」

「CMとかで時々新商品とか観るけど今はどんなものが流行りなんだ?」

「流行りって……萩嶺君って案外ミーハーなのね」

「悪かったな。しかし、アニメとかそういうものはミーハーじゃないつもりだ。自分で観て判断しているからな」

「ワー、ソレハ凄イワネー」

「棒読み止めろ」

 スマートフォンを取り出してモクドナルドのアプリを起動させる。そのアプリを操作して現在使用可能なクーポンの一覧を呼び出した。

「名前を見てもどの商品が良いのかさっぱりだな。てか、そもそも最近はモクドナルドとかカンタッキーとか、そういうファーストフード店には行かないからなあ」

「あら、そうなの?」

「自分で言うのも何だが、ぼっちでこういうところに来るのは中々ハードルが高いんだよ」

「ああ、なるほど。萩嶺君はぼっちとしての格が高いものね」

「格が高いとか言うな」

 そんなこと言われても全然嬉しくない。いや、そもそも褒められてもいないのだろうが。

「まあ、私も最近はこういうお店には行かなくなったけれどね」

「お前もぼっちということか」

「今から萩嶺君で目潰しの練習をします」

「ごめんなさい。謝るからその右手の人差し指と中指を立てるのを止めろ――いや止めて下さい」

 右手でピースサインをしてこちらを睨んできた宝船から若干ながら距離を取る僕。しかし、平和の象徴たるピースサインが目潰しによく使われてる手の型とは皮肉なものである。

「正直なところ、こういう場所で食事をするよりもスーパーで適当に安い食材を買って家で料理を作った方が安上がりじゃない?」

「なるほど、だからお前は最近こういうところには来ないのか」

「そういうことよ。萩嶺君のくせに理解力あるわね」

「だからお前は一言多いんだよ」

「今日の天気は空から槍かしら」

「一言多いって言ってるだろ! 全く……てか、それならどうして今日は昼食にここを選んだんだ?」

「それは――」

 何かを言おうとこちらを振り向いて、口を噤んだ宝船はすぐに僕から顔を背けてしまった。

「べ、別にいいじゃない。私にだって、偶には気分転換をしたい時だってあるのよ」

「そういうものか」

「そういうものよ」

 そう言ってスマートフォンを弄り始める宝船。きっと、クーポンの中から食べたいものを選んでいるのだろう。人が多いとは言っても着々と列はレジに向かって進んでいる訳だ。

 僕もそろそろ決めるか。宝船もこれ以上何かを話すつもりはないみたいだし。

 そんなことを思いながら、僕は再度スマートフォンへと視線を移す。
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