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オタク研究会は現在新入部員を募集していません。 作者:二三四五六七

第7章

7-5

「…………」

 横目で宝船を見ながら僕は自分の口にコップを傾ける。

 しかしまあ、よくもこんなに集中してアニメを観れるものである。僕も集中してアニメは観ているけれど、宝船のように自分から外界をシャットアウトしてまで観はしない。

 普段の宝船なら、僕のこんな視線にだって気付くだろうし。

「……まあ、どうでもいいか」

 呟いて、僕はテレビ画面へと視線を移す。そこでは、今回の話のクライマックスが流れていた。敵幹部を倒し、一旦平和な日常を送っていたリオは死に別れた母親の部屋で一冊の本を見つける。それは、小学生である今よりも更に幼少の頃に一度見たものだったのだが、その時は何も書かれていない白紙の本だった。

 そんな当時の記憶を思い出しながらリオはその本を開く。すると、不意に白紙のページからまばゆい光が解き放たれたのだ。そして、その光が治まった時には何と白紙だったはずのページに文字が浮かび上がっていたのである。凄まじい光にくらんだ目を擦りながら、リオは浮かび上がった文字を見る。

 そこにはどこか見慣れた文字――リオの母親の文字でこう書かれていたのだった。

 ――魔法使いになったリオへ

 突然の出来事に驚愕するリオ。本に浮かび上がった謎の母親からのメッセージ。

 謎を残したまま、今回の話はそこで終了し、エンディングテーマが流れ始めた。

「……ふぅ」

 宝船が小さく溜息をつくのが聞こえた。おそらく、今までずっとアニメに集中していた気持ちが切れたのだろう。

「面白かったか?」

 僕は少なくなった麦茶を飲み干しながら問いかける。

「ええ……面白かったわ」

 まだ若干上の空である宝船はまだ一口も手を付けていない麦茶のコップを片手にそう答えた。

「そうか、それは良かった」

「来週も楽しみよ」

「来週ねえ……まさか、来週も僕の家に来るんじゃないだろうな」

「勿論そのつもりだけど?」

「やっぱりそうなのかよ。あのな、態々ここまで電車使って来るよりも画質悪くてもお前の家のパソコンで観た方がいいと思うんだけど」

「確かにそちらの方が効率的だけれど……まあ、いいじゃない。私がこれでいいと言っているのだから」

「毎週アニメが放送される度にお前に訪問される僕の身にもなれ」

「どうせ萩嶺君暇人でしょ?」

「決め付けるな。僕だって忙しいんだぞ。ゲームとかアニメとかラノベとか」

「暇人じゃない」

 暇人だった。

 休日をゲーム・アニメ・ラノベで潰している人を暇人以外に何と言うのか。

「今は……ああ、もうそろそろお昼なのね」

 そう言って宝船は腕時計から僕へと視線を移す。

「萩嶺君はお昼どうするか決めているの?」

「多分冷蔵庫の中にある冷凍食品かな」

「ひょっとして、休日は毎日そんな感じ?」

「まあな。前にも言ったけど僕は料理できないし、てか、態々自分で作ろうとも思わないし」

「そうなのね……分かったわ」

 何やら納得したような口ぶりの宝船はその場に立ち上がると僕を見下ろしてこう言った。

「萩嶺君、今日は私と一緒にお昼は外食しましょう」

「…………」

 一瞬、宝船が何を言っているのか理解が追い付かなかった。

「は? 僕とお前が一緒にお昼を食べる? それも外で?」

「本当は萩嶺君みたいな人と一緒に外で食事をするなんて羞恥の極みだけど……」

「どうしてお前は僕をいちいち傷付けたがるんだ! それなら最初から誘うなよ!」

「1人でお昼を食べるのも寂しいから萩嶺君を暇潰し相手――間違えた、話し相手に誘って上げているのよ。察しなさい」

「察したくもないわ! てか、お前今『暇潰し相手』って言ったよな!?」

「食べるところはモクドナルドでいいかしら」

「だからお前は人の話を聞け! 自然と僕の言葉をスルーするな!」

「まあまあ、私はモクドナルドの会員だから、私と一緒に行くと今ならクーポンを使わせて上げるわよ?」

「僕だってその会員だよ! 全然有り難くねえよ!」

 ドヤ顔でスマートフォンを見せ付けてくる宝船に僕もスマートフォンを見せ返す。

「それで? どうするの? 行くの? それとも行くの?」

「選択肢が1つしかないんだが……はあ」

 諦めたように、僕は溜息をつく――何だか、宝船と出会ってから溜息をつく回数が増えたような気がする。

 気のせいだろうか。

 そこは気のせいだと思いたい所だが。

「分かったよ、分かった。行けばいいんだろ、モクドナルド」

「流石は萩嶺君、物分りが良くて助かるわ」

「物分りが良いって言うよりお前がしつこ過ぎるんだ」

 余りにしつこいとこちらが折れるしかなくなる。このまま断り続けるのも面倒だしな。
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