7-3
そう考えるとやはり僕が宝船の連絡先を知っていることについて、彩楓が何かしら言及してきてもよさそうだが――。
「…………」
まあ、何はともあれ。
あいつはそのことについて特に尋ねてこなかった――ということは、そういうことなのだろう。
僕が宝船の連絡先を知っていることについて彩楓は特に何も聞いてこなかった。
世界はそれで何の異常もなく時を刻み続けている。
つまりは特に気にする必要性のない事柄。
今回の僕の違和感は、そういうことなのだろう。
本当に僕の違和感が正常に働いていたならば、今頃僕はこうして机に座ってのんびりとゲームなんか出来ていないだろうしな。
「平和が一番だな」
平凡で、尚且つ全世界の願望を呟きつつ、僕はこの後も待ったりとゲームをして一日を過ごすのだった。
――という語りで一日を終わらせたかったのだが。
この日、僕の休日の平和は一瞬にして崩壊することとなる。
そう。
たった1人の、来訪者によって。
◆ ◆ ◆
「こんにちは、萩嶺君」
インターホンが鳴り、玄関に下りて扉の鍵を解除してみれば、その奥から現れたのは宝船だった。
「…………」
休日に宝船が突然僕の家にやってくる。
何だろう。
根拠はないけど嫌な予感しかしない。
「……なあ」
「何?」
「とりあえず、一旦お引き取り願ってもいいか?」
「門前払いだなんて酷いわね、萩嶺君は。勿論拒否するけど」
「おい」
「何よ」
「帰れ」
「だが断る」
駄目だ、こいつ全然帰るつもりない。
その場に四つん這いになって崩れ落ちながら僕はそんなことを思った。
「何なの? どうして萩嶺君は私をそんなに追い返したいのよ」
「……特に理由はないけど、休日にお前が僕の家に来るとか嫌な予感しかしないんだよ」
「嫌な予感って……何? 萩嶺君ひょっとして予知能力者?」
「当たってんじゃねえか!」
勢いよく立ち上がりながら宝船に向かって僕は叫ぶ。
「冗談よ。私と一緒にいて、萩嶺君が何か不幸な目に遭ったことがある?」
「多々思い当たる節があるんだが」
「でしょう? ないわよね」
「おいこら人の話聞けよ」
「という訳で、今日は萩嶺君の家に『魔導少女マジカル☆リオ』を観に来たわ」
「話の脈絡滅茶苦茶か。前後で話繋がっていないし、そもそもアニメ観るなら自分の家で観ればいいだろ」
「この前の勉強会が終わって家に帰ってから気付いたのだけれど、よくよく考えたら私の家って衛星放送映らないのよ」
「それじゃあ、パソコンで観ればいいだろ」
「やっぱり、アニメというものはテレビのような大画面で観たいものじゃない?」
まあ、その気持ちは分からなくもないけれど。
「確かにお前のその気持ちは分かる。アニメというものは出来るだけ良い画質で観たいってのも共感できる。だが、だからって僕の家に何の連絡も無しに突然来られても困る。こっちだって、部屋の片付けとか色々準備もあるし」
「そ、それはそうかも知れないけど……でも」
どこか言い難そうに若干ながら顔を俯かせて宝船は言う。
「た、たかがそれくらいの用件で萩嶺君にいちいちメールを送るのも悪いと思って」
「何でそういう所だけ無駄に常識的なんだよ」
お前には他にその常識性を注ぐべきところがあるはずだ。
「あのな、メールっていうのはそういうどうでもいい事柄から重要な事柄まで、とにかく相手に用件を伝えるために存在するものなんだから、そういう余計な考えは捨てていいんだよ」
「そ、そういうものなの?」
「ああ、そういうものだ」
ぼっちだからよく分からないけど。
あれだ、アニメとかラノベとかでは確かそんな感じだったから僕の言っていることは合っているはずだ。多分。
「なるほど、了解したわ。それじゃあ、今度から萩嶺君の家に来る時は事前に連絡をするわね」
「その前に僕の家に来ないという選択肢はないのか?」
「ないわ」
即答だった。しかも物凄い輝かしい笑顔でそう返されてしまった。
「大体、私の家のテレビが衛星放送に対応していない時点で萩嶺君に決定権はないわ」
「いやいや待て待てその理屈はおかしい。この場の決定権を誰が握っているかなんて誰がどう考えたって答は1つだろ」
「私?」
「言うと思ったよ! 正解は僕だ!」
自分を指差して宝船は平然とそう答える。そう言えば、こいつは少しばかり天然が入っているのだったか。平然とそう答えているところを見る限り、やはり天然というものは恐ろしい。二次元の世界では可愛いことこの上ないが。
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