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オタク研究会は現在新入部員を募集していません。 作者:二三四五六七

第6章

6-8

 OPが流れ終わり、CMをスキップで飛ばして本編へ。今回は主人公であるリオが新たな力に目覚めて敵を倒すという王道だから彩楓も充分に楽しめるだろう――とか思っていたら、開始早々彩楓は既に欠伸をしていた。どうやら、アニメを観ようというのは単なる口実で、ただ単に眠かっただけらしい。まあ、そんなことだろうとは思っていたが。

 宝船の方はどうだろうと横目でこっそりと見てみれば、彼女は彩楓とは正反対で口を半開きにした状態のまま食い入るようにアニメに見入っていた。おそらく、このアニメを観るのは今日が初めてなのだろう。丁度良い機会だ。今日を機に宝船にはこのアニメにハマって頂くことにしよう。

 ちなみに、この『魔導少女マジカル☆リオ』には原作が存在しない。いわゆるオリジナルアニメという奴である。そして、これは余談に過ぎないが、僕は最近このオリジナルアニメに期待を寄せていた。時折だが、原作のあるアニメよりもこういった原作の存在しないオリジナルアニメの方が面白いことがあるからだ。

 そんなこんなで、僕がそんな自論を語っている内に物語もいよいよクライマックス。敵に追い詰められ、絶体絶命のピンチの中、突如主人公・リオの持つマジカルステッキからピンク色の光が放出され、彼女が纏うコスチュームを変化させていく。

 新たな力を得た魔導少女リオは山よりも大きい魔方陣を天空に描き出し、そこから解放した魔力の光線で敵が率いる悪魔の軍勢を一瞬にして焼き払う――それからは超作画による敵幹部との一騎打ち。ぬるぬると動く作画に宝船が「おお……」と小声を漏らすのが聞こえた。

 しかし、このアニメは本当に戦闘回の時はよく動くな。一体今回の話だけで何人の作画班のメンバーを生贄に捧げているのやら。

 そしてアニメ終了後。僕がテレビを消すとテーブルに突っ伏して寝息を立てていた彩楓が徐に頭を上げた。

「ふぇ……あり? もう終わったの? 意外とアニメって短いんだね」

「それはお前が寝てたからだ。よだれ出てるぞ」

「うおっぷ」

 慌てて服の裾を使って口の端から涎を拭う彩楓。

「まさか涎を垂らすほどに熟睡してしまうとは……あたし一生の不覚」

「それが一生の不覚ならお前の頭の悪さは一体何生の不覚なんだろうな」

「さーて勉強勉強」

「おいこら無視するな」

「直斗があたしのことを馬鹿にするから――って宝船さんどうしたの?」

 彩楓の言葉に宝船の方を振り返ってみる。そこには未だにテレビの方を見たまま呆然と固まっている宝船の姿があった。

「宝船さん?」

「はっ」

 彩楓の呼び掛けで我に返る宝船。何だろう、そんなに『魔導少女マジカル☆リオ』が面白かったのだろうか。仮にそうだとしたら見せた甲斐があったというものである。

「どうしたの? ボーっとして」

「べ、別に何でもないわ……さ、さあ、早く勉強の続きをしましょう」

 呂律ろれつが回っていない。こういう時の宝船は決まって何かを誤魔化している。最近は宝船と一緒にいることが多いため、彼女のこういう癖さえも分かるようになってしまった。

 とまあ、何はともあれ。

 宝船――と言うか、誰かに『魔導少女マジカル☆リオ』の面白さが伝わったというだけでも今日の勉強会は意味のあるものとなった。良かった良かった。

「……さてと、ちょっと僕トイレに――」

「直斗、トイレ借りるね――ってえ?」

 互いに立ち上がろうとした状態で停止する僕と彩楓。よもや同時に立ち上がり同じことを言うとは何の偶然だ。トイレのタイミングが重なるなんてそんな偶然は要らない。

「何だよ、お前もトイレか? なら先に行っていいぞ」

「な、直斗が先に行きなよ。だって……えっと、この家の人なんだし」

「何だそりゃ。お前今までだって僕の家のトイレ使ってきたじゃないか」

「それは……そうなんだけど」

 何やら言葉に詰まりながらモジモジとしている彩楓。何だろう、そんなに切羽詰っているのだろうか。

「そんなにトイレに行きたいなら先に行っていいぞ」

「えっ?」

「別に僕はお前の後でも全然気にしないし。だから、僕に遠慮なんてせずに先にトイレにぶっ!?」

 消しゴムを顔に投げ付けられた。無論、彩楓から。

「直斗のバーカ! デモクラシーって言葉知らないの!?」

「躑躅森さん、こういう時に茶々を入れるのもあれなんだけれども、それを言うならデリカシーよ」

「し、知ってるし! 態と間違えたんだし!」

 もういい!――と彩楓は若干頬を赤らめて声を上げる。

「と、トイレならあたしの家でしてくるから!」

 そして、最後にそう声を上げて彩楓はリビングを後にするのだった。

「……何で怒ってたんだあいつ」

「分からないの?」

 彩楓から投げ付けられた消しゴムを片手に首を捻っていると宝船が呆れた視線をこちらに向けながらそう問いかけてきた。

「本当に分からないのなら、あなたは躑躅森さんの言う通りデリカシーが無いわね。いや、彼女はデモクラシーと言い間違えていたけれど」

「デリカシーが無いの意味が分からねえよ」

「デリカシーが無いというのは心配りなどが出来ないということで――」

「いや、『デリカシーが無い』という言葉の意味を聞いた訳じゃなくてだな」

「だから、躑躅森さんは恥ずかしかったのよ。自分が使った後に、あなたがトイレを使うということが」

「恥ずかしかった? そんなことがか? ありえないだろ。だって、昔はよくあいつが使った後に僕もトイレを使ったりしたぞ? 勿論逆もしかり」

「その昔というのはいつ頃のこと?」

「確か……中学一年生くらいのことだったかな。それ以降は、彩楓が僕の家でトイレに行くことは無くなったかな」

「なるほど……躑躅森さんも大変ね」

「大変? どういうことだよ」

「あなたには一生分からないわ」

「何だそれ」

 勉強を再開する宝船。今の言葉の意味を質問してもどうせ返答がないことは分かっていたので、僕はそのまま大人しくトイレに向かうことにした。


 ◆ ◆ ◆


 トイレから戻ると、まだ彩楓は帰ってきていなかった。宝船だけが1人テーブルにて教科書、及びノートと向き合ってシャープペンシルを淀み無く動かしている。
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