6-7
そんなこんなで勉強会は開始された。今までの会話での賑わいが嘘のように、リビングは時計の針が進む音やシャープペンシルの芯がノートを削る音に支配される。
耳が痛くなるほどの静寂。家の前をバイクが通り過ぎ、消しゴムがノートを擦り、僕がペン回しをしたところで、彩楓が徐にシャープペンシルをテーブルの上に置いたかと思えば大きく背伸びをして。
「くはーっ……そろそろ勉強して3時間くらいだね」
「まだ30分しか経ってねえよ」
僕が間髪入れずにそう指摘すると彩楓は開いたノートの上に項垂れる形で頭をぶつけた。
「……ねえ、直斗」
「どうした、彩楓」
「ちょっとタイムマシン貸してくれないかな」
「悪いな、タイムマシンは昨日コーラ溢して壊したばかりなんだ」
「何て勿体無いことを! てか、タイムマシン持ってるの!?」
「持ってる訳ねえだろ」
「だよねーっ! 知ってた!」
一度僕にツッコミを入れるべく顔を上げた彩楓だったが、再び僕にツッコミを入れながらテーブルに項垂れた。多少の勢いがあったので、ガツンッ、という鈍い音がリビングに響く。
「……ちなみに」
そして、依然としてシャープペンシルをノートに走らせながら宝船が彩楓に問いかける。
「どうしてタイムマシンなの?」
「いや、テストが終わった後の時間に跳ぼうかなと思って」
「跳躍先にいるもう一人の躑躅森さんはどうするの?」
「それは……えっと、あたしの代わりにテスト勉強をしてもらって」
「それなら、今ここにいる躑躅森さんはテスト勉強から逃れられても未来の躑躅森さんは勉強から逃れられないわね」
ていうか、未来の彩楓は過去の自分の代わりに勉強することを断固拒否するだろうな。
「そっかあ……うーん、時間を跳躍することって難しいんだね」
「それはまあ、まだ誰もタイムマシンを開発できていないからな」
「という訳で休憩にしない?」
「どういう訳だ。てか、まだ始めてから30分しか経っていないのに休憩って」
先が思いやられるぞ。
「いいじゃんいいじゃん。直斗が録画しているアニメでも観ようよ」
「観たいのは山々だが、僕はお前等が帰った後にゆっくり観ることにしてるんだよ。全く……おい、お前からも何か言ってやってくれよ」
完全にやる気のない彩楓に呆れて僕は宝船に助け舟を求める。すると、宝船は今の今までノートに走らせていたシャープペンシルを突如置いてこう言った。
「そうね、躑躅森さんの意見に賛成だわ。ずっと勉強していても疲れるだけだし、休憩も必要不可欠よね」
「…………」
僕の出した助け舟を沈没させる宝船なのであった。てかお前、ただアニメ観たいだけだろ。
「さっすが宝船さんは分かってる! ほらほら直斗、2対1だよ? 諦めてあたしにリモコンを渡しなさい」
「……まあいいか。僕や宝船はともかく、勉強をしなかったらお前が赤点取るだけだし」
「不吉なこと言わないでよ!」
しかし、それを不吉なことと分かっていながらも僕からリモコンを受け取る彩楓。リモコンによって機械が操作され、テレビ画面に録画リストが表示される。
「どんなアニメがあるかなーっと……『魔導少女マジカル☆リオ』? 何だろう、何か見てはいけないタイトルを見てしまったような気がする」
「ふっ……彩楓よ、タイトルだけで判断するとはお前もまだまだにわかだな」
「いや、そもそもあたし普段アニメ観ないし」
「『魔導少女マジカル☆リオ』はタイトルこそ日曜の朝にでも放送されていそうなアニメだが、内容は全然違う。言っておくが、僕はこの作品を今期のダークホースだと思っている」
「ふーん……何かよく分からないけどとりあえず面白いってこと?」
「まあ、簡単に言えばそういうことだな」
「そっか。直斗がそこまで言うのなら、これ観ようかな」
その言葉の後、再度リモコンを操作して録画されていた『魔導少女マジカル☆リオ』を再生させる彩楓。数秒のCMが流れた後、既に何回ループしたのか分からないほどに聞いたOPが流れ始め、『魔導少女マジカル☆リオ』というタイトルが大きくテレビ画面に浮かび上がる。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。