6-5
「ていうか、中間テストかあ……憂鬱。確か、高校って赤点っていう制度があるんだよね?」
「ああ。珠玖泉高校は40点以下が赤点らしいな。それで、赤点になると補習がある」
「それなんだよねえ……はあ。ねえ、直斗。あたしどうすればいいと思う?」
「死ぬ気で勉強するしかないな」
「死ぬ気で勉強なんてしたくないよ……ていうか、あたしが死んでこの世から勉強が無くなるのならば死んでもいいけど」
「お前どんだけ勉強したくないんだよ」
自分を生贄に捧げてまでこの世から勉強という存在すらを抹消したいとは……こいつの勉強に対するやる気の無さは本物だな。
「でもまあ、日曜日は宝船さんも来てくれるから大丈夫なのかなあ……宝船さんって、頭良かったよね?」
「ああ、確か」
「だよねえ。それじゃあ、宝船さんに教えてもらおう……あっ、勿論直斗にも教えてもらうよ?」
「何のフォローだよ。実際の所、僕に教えてもらうよりもあいつに教えてもらった方が効率良いんだから、僕にあまり頼らずにあいつを頼った方がいいと思うぞ」
「それは……そうなんだけどさ」
僕と彩楓は遮断機が下ろされた踏切の前で立ち止まる。一定の間隔で音を鳴らす踏切――この踏切に辿り着いたということは、駅まではもう少しか。
「直斗の方が、あたしに教えるの上手いって言うか、何と言うか」
「何だそれ。てか、そもそもまだあいつに教えてもらってすらないんだから、そんなことは分からないだろ」
「そ、そう、だね……あたしってば何言ってんだろ」
どこか恥ずかしそうに顔を俯かせる彩楓。若干頬が赤くなっていたように見えたが――それは夕焼けのせいだろうか。
そして、踏切から発せられる音を掻き消すほどの轟音を轟かせて僕達の前を列車が通った。彩楓の肩の辺りまで伸びた髪が吹き荒れる突風で靡いている。
電車が通過し、突風と轟音が鳴り止み、また踏切の音が一定の間隔で鼓膜を震わせる。その音すらも停止して、遮断機が自動で上がるのを確認し、僕達は再び駅へと歩みを再開した。
「……まあ、あれだ」
肩を動かし、肩から提げている鞄を提げ直しながら、僕は彩楓に向かって言う。
「お前が諦めない限りは僕も今まで通りとことん付き合うから……だからまあ、頑張れよ」
その言葉の後、彩楓は少し呆けたような表情を浮かべたまますぐには返答をしなかった。数秒後、漸く表情を動かした彩楓はどこか嬉しそうに微笑んで。
僕の髪をぐしゃぐしゃと乱した。
「なっ! 何をするんだよ!」
「何となくだよ、何となく」
「何となくで髪を乱されて堪るか!」
「あははっ」
「笑うな!」
「という訳で直斗、駅まで競争しよう!」
「どういう訳で!? お前言葉の文脈が滅茶苦茶だぞ!」
「よーいっ、ドンッ!」
「マジでやるのかよ! 僕がお前に追い付ける訳が……ってちょっと待てよ! おい!」
その後、彩楓にどうにかして追い付こうと努力はしてみたが――やはり、空手部のエースには勝てるはずもなく。
後日、僕の両足は筋肉痛となった。
◆ ◆ ◆
時は流れて日曜日――僕と彩楓、そして宝船を交えた3人による勉強会の日はあっという間にやってきた。
現在の時刻は午前9時50分を過ぎた辺りである。勉強会の開始は午前10時――この時間は宝船によって提案されたものだ。やはり、オタクはオタクでも優等生で真面目な性格は健在なようである。
勉強会の参加者――と言っても僕を含めて3人だけだが――が会場である僕の家に集合するまであと10分。その間、僕は家の中を掃除することにした。
とは言っても、僕はあまり物を散らかすタイプの人間ではないので、掃除をしようと思い立ったのは良いものの特に掃除する場所は見つからなかった。しかし、やることがないのでトイレに消臭スプレーを撒いたり、勉強会で使うであろうリビングのテーブルを拭いたりすることにした。
そして、僕がテーブルを拭き終えた頃。午前9時56分――僕の家のインターホンが鳴った。
壁に取り付けてあるテレビドアホン――来客を確認するための小型のテレビのようなものである――を起動させる。小さな画面に映し出されたのはドアップの彩楓の顔だった。
「……近いな」
『リアクション薄いなーっ。もっとこう「近っ!?」的なツッコミを期待していたのにーっ』
無茶言うな。朝からそんなハイテンションを僕に求めるんじゃない。
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