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オタク研究会は現在新入部員を募集していません。 作者:二三四五六七

第6章

6-4

「直斗、宝船さんと友達になったんだ」

「どうしてそうなる」

「だって、勉強会を一緒にやるなんて友達としかできなくない?」

「別にそんなことはないぞ。友達じゃなくったって一緒に勉強会をする奴等はいる。ソースはアニメ」

「フィクションの話じゃん! 全然ソースにも醤油にもならないよ!」

 確かに。あと、ここで言うソースは調味料のことではないのだがこいつは理解しているのだろうか。

「あいついわく、僕は知り合いなんだと。友達ではないらしい」

「あいつって宝船さんのこと? 知り合いも友達も同じだと思うけどなあ……」

「あいつに言わせてみればそうではないらしいぞ。知り合いと友達には確たる溝があるそうだ」

「ふーん……そうなんだ。何だか難しいね」

 小首を傾げながらそんなことを言う彩楓。

「でも、知り合いにしても何にしても、直斗にそういう関係の人ができるというのは、あたしは嬉しいな。生徒会長さんとは、もう友達なの?」

「だからどうしてそうなるんだって」

「いや、この前資材倉庫で宝船さんから聞いた時は、生徒会長さんからのメールで直斗と宝船さんがあそこに呼び出されたって聞いたから。だから、生徒会長はあの日よりも前から直斗を知っていたってことだよね?」

「そりゃあ、生徒会長だからな。あの人も自分で言っていたけど、全生徒の名前は記憶して――」

 と、僕はそこで口を噤む。

 吹ノ戸先輩はあの時確かに言っていた。自分は全校生徒の名前も憶えている、と。

 しかし、資材倉庫であの人は目の前に現れた彩楓を前にこうも言ったのだ。

 ――ねえ、あの人誰?

 この矛盾は何なのだろう。全校生徒の名前は憶えているが、顔は憶えていないということなのだろうか。

 ――それとも。

 あの人が、吹ノ戸先輩が……嘘をついている、とか。

「……考えすぎか」

 呟いて、頭の中に浮かんだその考えを僕は振り払う。先日見た吹ノ戸先輩を見る限り、あの人はきっと嘘なんてつける人間ではないだろう。仮に嘘をついていたとして、その目的は一体何だと言うのか。

 顔を憶えていなかっただけだ。それか、あの人のことだから一時的に度忘れでもしたのだろう。

 きっとそうだ。

「直斗?」

 彩楓に名前を呼ばれて、僕はハッと我に返る。

「ど、どうした?」

「いや、急に黙っちゃったからさ。どうかしたのかなって」

「ああ、そういうこと。いや、何でもないよ」

「ふーん、そっか」

 そっけない返事をする彩楓。駅までの道程は案外遠い――それは既に1ヶ月近くこの道を行き来した今でも変わらない。長い帰路の最中、ゆったりと流れる時間の中で、僕達のすぐ傍を同じ学校の男子生徒が自転車で走り去っていく。

「そう言えばさ」

 そして、やはり僕達の沈黙を破るのは彩楓の方で。

「えっと……」

「……えっと、何だよ」

「……ううん、何でもない」

 また今度にするよ――と彩楓は笑う。

「ホントに何なんだよ。言っておくけどな、アニメとかフィクションの世界では、それはフラグって言うんだぞ」

「フラグ? 何だっけ? 蛙のこと?」

「それを言うならフロッグだ」

 何だその絶妙な間違いは。態とやってるんじゃないだろうな。

「フラグってのは伏線って意味だよ。特定の言葉や行動をすると、その後に必ず何かが起こるっていう」

「そうなんだ。それで? あたしのフラグは次に何が起こることを示しているの?」

「多分今のは死亡フラグだな。最終的に僕に言おうとしていた言葉を言う前に死ぬ感じだ」

「何それ怖い!」

「という訳で、言おうとしていたことを僕に言わなくていいのか?」

「うーん……でもあれでしょ? そういうフラグってフィクションのことだけなんでしょ? あたしさ、現実とフィクションをごちゃ混ぜにしたらいけないと思うんだよね」

「うわ、物凄い正論」

「えっ……で、でしょ~?」

「威張る前に驚くの見えてたからな」

 正論は正論だが、きっと何も考えずに言ったんだろうな、こいつ。
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