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オタク研究会は現在新入部員を募集していません。 作者:二三四五六七

第6章

6-3

「知り合いというのは――そうね、形式的な会話しかしない相手、のことを指すのかしら。例えば、教室での『○○さんプリント集めるけど出せる?』とか、『○○君次の掃除当番ここだから』とか……そういう会話しかしない相手は、仮に何度も言葉を交わしていたとしても知り合い止まりね。友達ではないわ」

「なるほどな。お前の考え方に全面的に同意するよ。確かに、そういう奴を友達と呼ぶのは何か違うような気がするな」

「でしょう? だから、友達のいない者同士、一緒に勉強会をしない?」

「お前がそれでいいなら僕は構わないよ。お前が彩楓に勉強を教えている間、僕は自分の勉強に専念することができる」

「どうして私が躑躅森さんの勉強を教えることになっているのよ」

「女子は女子に教えてもらった方が色々と分かりやすいんじゃないのか? 感性的な意味で」

「まあ、感性はともかく、今まであなたに勉強を教えてもらってきたであろう躑躅森さんが現在進行形で成績が悪いのはあなたの教え方が悪いということもあるだろうしね」

「悪かったな。勉強会はお前等だけでやってろ。僕は図書館にでも行く」

「仕方ないわね、謝って上げるから一緒に勉強会をしましょう」

「お前謝る気ねえだろ」

 何で謝ってるのに上から目線なんだよ。意味分かんねえよ。

「それじゃあどうしましょう。勉強会は今週の土曜日か日曜日にしましょうか」

「僕はどちらでも構わないぞ。部活動も中間テストに向けて今日から休止になるし、彩楓も特に構わないだろうな」

「なるほど、私の一存で決めていいという訳ね。そうね……それでは、日曜日にしましょうか」

「分かった、日曜日だな。彩楓にも伝えておくよ」

 頷いて、僕はゲーム画面へと視線を移行する。それと同時に、ポケットの中でスマートフォンが着信音を放った。無論、彩楓からの電話である。

「もしもし? 彩楓か?」

『うん、あたしー。部活終わったけど、今からすぐ帰れる?』

「もう終わったのか、早いな」

『何かさ、部長が来週のことで忙しいだろうから今日はもう帰っていいんだって』

「まあ、来週はもう中間テストだからな」

『何でだろうねー』

「おいこら現実逃避止めろ。僕の話を聞け。全く……とりあえず、今から部室棟の前で待っておけばいいか?」

『あっ、うん、お願い。あたしも着替えたらすぐに行くから』

「りょーかい。それじゃあまた後でな」

『うん、また後で』

 そこで彩楓との通話が切れる。僕がスマートフォンをポケットに仕舞うと同時に宝船からこんな質問が飛んで来た。

「躑躅森さんからの電話?」

「まあな。部活終わったから、一緒に帰ろうってさ」

「そう……それじゃあ、私もそろそろここから出ないといけないわね」

 そう言って立ち上がる宝船。

「躑躅森さんに今週の日曜日のこと、伝言お願いね」

「分かってるよ。てか、お前僕の家がどこにあるのか分かるのか?」

「ええ」

「逆に何で知ってるんだよ」

「秘密よ」

「秘密にするな! 怖いだろ!」

 唇に人差し指を当てつつ片目を閉じる宝船。いくら可愛い仕草をしても怖いものは怖い。

 そして、僕達が部室を後にして別れるまで、宝船は結局その秘密を教えてはくれないのであった。


 ◆ ◆ ◆


「お待たせーっ」

 僕が部室棟の入り口に到着して10分後、着替えを済ませた彩楓が校舎から出てきた。

「ごめんごめん、待った?」

「いや、そこまでは」

「そっか、それは良かった。それじゃあ、帰ろっか」

「おう」

 僕達は部室棟校舎前から歩き出す。彩楓が普段よりも早く部活を終えたので、茜色に染まる帰り道には僕達の他に帰宅途中の生徒の姿がちらほらと確認できた。

「あっ」

 と、不意に彩楓が思い出したように口を開く。

「そう言えば直斗様」

「中間テストのことだろ」

「えっ!? 何で分かったの!? エスパー!?」

「この時期にお前がそんな態度を取ってくるということはテスト勉強以外にないだろ」

「え、えへへ……実はそうなんだよね。さっすがは直斗。あたしの幼馴染なだけあるねっ」

 そこに幼馴染加減を感じるというのはどうなのだろう。間違ってはいないような気はするけれども。

「今回の中間テストの勉強会な」

「うん」

「今週の日曜日に僕の家でやることになったから、えっと……宝船璃乃も含めて」

「なるほど、今週の日曜日に直斗の家で宝船さんと一緒に――ってええっ!? 宝船さんも来るの!? 何で!?」

 素っ頓狂な声を上げる彩楓。余り大声を出すな、目立つだろ。

「えっと……だからその、成り行きでな。ほら、あいつ頭良いだろ? この前の資材倉庫の整理を手伝ってくれたお礼に、僕とお前の勉強を見てくれるんだと」

「へ、へー……そうなんだ」

 疑念半分、納得半分な様子の彩楓。咄嗟に思い付いたにしては中々クオリティの高い嘘ではないだろうか。いや、そもそも嘘にクオリティも何もないだろうけれど。
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